税制改正はどこへ向かうのか—令和9年度税理士会意見書から読み解く日本の税制(第6回)資産課税はなぜ揺れているのか(相続・贈与の本質)

税理士
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これまで本シリーズでは、消費税・所得税・法人税という主要な税目を取り上げてきました。いずれも現在の税制の中核を担うものですが、それとは異なる意味で重要な位置を占めるのが資産課税です。

資産課税、とりわけ相続税や贈与税は、「富の移転」に対して課税する仕組みです。この分野は、単なる税負担の問題にとどまらず、格差や世代間の公平といった社会の根幹に関わる論点を含んでいます。

税理士会の意見書においても、資産課税は重要なテーマとして扱われており、その在り方についての議論が続いています。本稿では、資産課税の基本構造を整理し、その揺らぎの背景を考えます。


資産課税の基本構造(富の移転への課税)

資産課税は、個人が保有する資産そのものではなく、その移転に着目して課税する制度です。相続税は死亡による移転、贈与税は生前の移転に対して課税されます。

この仕組みの目的は大きく二つあります。一つは税収の確保、もう一つは格差の是正です。特に後者は重要であり、資産の集中が世代を超えて固定化することを防ぐ役割が期待されています。

累進税率が適用される点も、所得税と同様に再分配機能を担う設計となっています。ただし、対象が所得ではなく資産であるため、その影響はより長期的かつ構造的なものとなります。


格差是正と経済活性のジレンマ

資産課税の最大の論点は、格差是正と経済活性のバランスです。相続税を強化すれば富の集中は抑えられますが、その一方で資産形成のインセンティブが低下する可能性があります。

また、事業承継の場面では、相続税が企業の存続に影響を与えるケースもあります。過度な課税は、優良企業の継続を妨げる要因となり得ます。

このため、制度としては一定の軽減措置や特例が設けられていますが、その結果として制度は複雑化し、公平性との関係が問題となります。

税理士会の意見書でも、このバランスの難しさが指摘されており、単純な強化や緩和では解決できない構造的な課題であることが示されています。


相続税と贈与税の関係(制度の一体性)

相続税と贈与税は、本来一体として設計されるべき税制です。どちらも資産の移転に対する課税であり、片方だけを強化または緩和すると制度全体の整合性が崩れる可能性があります。

しかし現実には、両者の制度は必ずしも整合的ではありません。例えば、生前贈与を活用することで相続税負担を軽減できる場合があり、これが制度の公平性に影響を与えています。

この問題に対応するため、近年は贈与と相続を一体的に捉える方向での見直しが進められています。一定期間内の贈与を相続財産に加算する仕組みなどがその一例です。

税理士会の意見書でも、制度の一体化や簡素化に向けた提言が行われており、今後の重要な検討課題とされています。


不動産評価と課税の歪み

資産課税の中でも特に問題となるのが、不動産評価の在り方です。相続税における不動産の評価は市場価格とは異なる方法で行われるため、同じ価値の資産であっても税負担に差が生じることがあります。

この評価方法は、納税者の負担軽減や実務上の簡便性を考慮したものですが、その結果として公平性の問題が生じています。また、不動産を活用した節税が可能となることで、資産配分に影響を与える要因ともなっています。

税理士会の意見書では、この評価の在り方についても見直しの必要性が指摘されており、制度の透明性と公平性の確保が求められています。


富の固定化と世代間公平

資産課税の根本的なテーマは、富の固定化をどのように防ぐかという点にあります。資産は一度形成されると、運用によってさらに増加し、それが次の世代に引き継がれることで格差が拡大する可能性があります。

相続税は、この流れを調整するための重要な手段ですが、その効果には限界があります。資産の評価方法や各種特例の存在により、実際の負担は一様ではありません。

また、世代間の公平という観点では、どの程度の再分配が望ましいのかという根本的な問題もあります。過度な課税は資産形成の意欲を削ぐ一方で、不十分な課税は格差の固定化を招きます。

税理士会の意見書は、この難しいバランスについて、制度全体の見直しを含めた検討の必要性を示しています。


資産課税はどこへ向かうのか

今後の資産課税の方向性としては、制度の一体化と簡素化が重要なテーマとなります。相続税と贈与税を一体的に設計し、過度な複雑性を解消することが求められます。

また、不動産評価の見直しや特例の整理により、制度の透明性と公平性を高める必要があります。ただし、その過程では経済への影響や実務負担にも配慮する必要があります。

資産課税は、単なる税制の一部ではなく、社会の構造そのものに関わる制度です。そのため、短期的な改正ではなく、長期的な視点での設計が求められます。


結論

資産課税は、富の移転に対して課税することで格差の是正を図る重要な制度です。しかし、その役割ゆえに、経済活性や事業承継との間で複雑な調整が必要となります。

相続税と贈与税の不整合、不動産評価の問題、富の固定化といった課題は、制度の根幹に関わるものです。税理士会の意見書は、これらの問題を踏まえ、制度全体の見直しの必要性を示しています。

資産課税をどのように設計するかは、社会の公平性と持続可能性をどのように考えるかという問いに直結しています。

次回は中小企業税制を取り上げ、その役割と課題を整理していきます。


参考

東京税理士会 令和9年度税制及び税務行政の改正に関する意見書 2026年4月1日
財務省 相続税・贈与税制度の概要(各年度版)
日本経済新聞 資産課税・相続関連特集記事 各号

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