令和7年分の確定申告状況によると、土地等の譲渡所得の金額は約6.9兆円となり、現在の集計方法となった平成15年以降で最高額を更新しました。また、有所得者数も過去最多となっています。
譲渡所得は不動産や株式、金地金などの資産を売却した際に生じる所得です。そのため、この数字の増加は単に納税者が増えたという話ではなく、日本社会における資産価格の上昇を映し出しているともいえます。
なぜ今、譲渡所得が過去最高水準になっているのでしょうか。その背景を考えてみます。
譲渡所得とは何か
譲渡所得とは、土地や建物、株式、金地金などの資産を売却して得た利益に対して課税される所得です。
例えば、20年前に2,000万円で購入した土地を4,000万円で売却した場合、その差額から取得費や譲渡費用を差し引いた利益が譲渡所得となります。
給与所得や事業所得とは異なり、資産価格の変動によって発生する所得であるため、経済環境や市場動向の影響を強く受ける特徴があります。
不動産価格の上昇が最大の要因
今回の譲渡所得増加の最大の要因は、不動産価格の上昇です。
近年の地価公示を見ると、東京都心部だけでなく、主要地方都市でも地価上昇が続いています。
背景には次のような要因があります。
・低金利環境の継続
・インフレによる実物資産需要の増加
・海外投資家による日本不動産への投資
・再開発による都市部不動産価値の上昇
・住宅価格全体の上昇
同じ土地を売却しても、数年前より高い価格で売却できるケースが増えています。
その結果、譲渡益も大きくなり、確定申告上の譲渡所得が増加しているのです。
相続不動産の売却が増えている
高齢化も大きな要因です。
相続によって取得した不動産を売却するケースが増えています。
少子高齢化が進む中で、
・空き家の管理が難しい
・遠方の実家を維持できない
・相続人が複数いる
・固定資産税負担を避けたい
といった理由から売却を選択する人が増えています。
特に地方では「住まない実家」の処分が社会問題になっています。
一方で都市部では不動産価格が高騰しているため、相続後の売却益が大きくなる傾向があります。
金地金価格の高騰も影響
今回の国税庁統計では、金地金の価格上昇も譲渡所得増加の要因として挙げられています。
金価格は世界的なインフレ懸念や地政学リスクを背景に上昇を続けています。
長期間保有していた金を売却した場合、購入時との価格差が大きくなり、多額の譲渡益が発生するケースがあります。
かつては相続対策や資産保全目的で購入された金地金が、近年の価格上昇によって利益確定の対象となっているのです。
インフレ時代は譲渡所得が増えやすい
近年の特徴として見逃せないのがインフレです。
物価が上昇すると、現金の価値は相対的に低下します。
その一方で、
・不動産
・金
・株式
などの資産価格は上昇しやすくなります。
その結果、資産を売却した際の譲渡益も大きくなります。
日本では長らくデフレが続いていましたが、近年はインフレ基調へ転換しつつあります。
譲渡所得の増加は、こうした経済環境の変化を反映しているとも考えられます。
譲渡所得の増加は豊かさを意味するのか
譲渡所得が増えたからといって、国民全体が豊かになったとは限りません。
資産価格の上昇による恩恵を受けるのは、基本的には資産を保有している人です。
一方で、
・住宅取得価格の上昇
・家賃の上昇
・物価上昇による生活費負担増
などの影響を受ける人もいます。
資産価格の上昇は、資産保有者と非保有者との格差拡大につながる側面もあります。
譲渡所得の過去最高更新は、資産経済が拡大していることを示す一方で、日本社会の新たな課題も浮き彫りにしているといえるでしょう。
資産課税への注目が高まる可能性
譲渡所得が増加すると、それに伴って譲渡所得課税による税収も増加します。
今後、政府の財政事情や格差是正の議論が進めば、
・金融所得課税の見直し
・相続税の見直し
・固定資産税の見直し
などが議論される可能性もあります。
資産価格の上昇は、資産課税の在り方を考える契機にもなっています。
結論
令和7年分の譲渡所得が過去最高となった背景には、不動産価格の上昇、相続不動産の売却増加、金地金価格の高騰、そしてインフレの進行があります。
譲渡所得は単なる税務上の数字ではなく、日本社会における資産価値の変化を映し出す重要な指標です。
今後も不動産市場や金融市場の動向によって譲渡所得は大きく変動する可能性があります。確定申告統計を通じて資産経済の動きを読み解くことは、私たちの暮らしや将来の税制を考える上でも重要な視点となるでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年6月1日号 「7年分所得税等の確定申告状況、定額減税の影響がなくなり納税人員は21%増の627万人」
・国税庁 令和7年分所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況について
・国土交通省 令和8年地価公示