中小企業に対する法人税の軽減税率は、長年にわたり当然の優遇措置として受け入れられてきました。しかし令和7年度改正では、この制度に対して明確な問題提起がなされています。
本稿では、この軽減税率の仕組みを整理したうえで、その本質と今後の方向性を実務の観点から検討します。
軽減税率制度の基本構造
中小法人については、所得金額のうち年800万円以下の部分に対して、通常より低い税率が適用されています。これにより、中小企業は一定の税負担軽減を受けることができます。
この制度は、資本力の弱い企業を支援し、事業の継続や成長を後押しすることを目的として設けられてきました。実務上も、決算対策や利益調整の判断において前提となる重要な制度です。
「一律優遇」への問題提起
今回の改正で特徴的なのは、この軽減税率に対して「一律適用は合理的か」という議論が明確に示された点です。
従来は、
- 投資を行っている企業
- 成長している企業
- 現状維持の企業
これらを区別することなく、すべての中小法人に対して軽減税率が適用されていました。
しかし改正議論では、投資や賃上げに積極的でない企業にも同様の優遇が与えられている点が問題視されています。
これは、税制が単なる支援ではなく、「行動を促す仕組み」に変わりつつあることを示しています。
制度は維持されるが、前提が変わった
令和7年度改正では、この軽減税率自体は廃止されず、適用期限が延長されています。
ただし、その延長は無条件ではなく、「見直しを前提とした延長」です。
つまり、
- 現時点では維持する
- しかし将来的には見直す
という位置づけに変わっています。
この点は、実務上非常に重要です。制度が存在しているからといって、将来も同様に続くとは限らないという前提で考える必要があります。
高所得法人への制限強化
今回の改正では、所得が大きい法人に対する制限も導入されています。
具体的には、所得金額が年10億円を超える事業年度については、800万円以下の所得に対する税率が引き上げられています。
これは、「形式的には中小企業であっても、実質的に高収益である企業には優遇を縮小する」という考え方に基づくものです。
この見直しにより、中小企業という区分だけではなく、「実際の利益水準」が重要な判断基準として組み込まれました。
実務への影響は何か
軽減税率の見直しは、単なる税率の問題ではなく、意思決定に影響を与える要素となります。
例えば、
- 利益をどの程度計上するか
- 法人を分けるか統合するか
- 成長戦略をどう描くか
といった判断において、税率構造が前提条件となります。
また、今後さらに見直しが進む可能性を考えると、「軽減税率を前提とした経営」がリスクになる場面も想定されます。
軽減税率は本当に優遇なのか
ここで改めて考えるべきは、この制度が本当に優遇といえるのかという点です。
確かに税率が低いという意味では優遇ですが、
- 一律適用であること
- 成長を促す仕組みではないこと
- 高所得企業とのバランスの問題
といった点を踏まえると、政策的な意義には限界があります。
今回の改正は、この制度の限界を示しつつ、「次の税制への移行」を示唆していると考えられます。
今後の方向性をどう読むか
今回の改正から読み取れる今後の方向性は明確です。
今後の税制は、
- 規模ではなく行動で判断する
- 一律ではなく選別する
- 成長と投資を重視する
という方向に進む可能性が高いと考えられます。
軽減税率についても、将来的には条件付きの制度や、他のインセンティブ型税制への統合が検討される可能性があります。
結論
中小企業の軽減税率は、現時点では維持されているものの、その前提は大きく変わりつつあります。
これからは、
- 制度があるから使う
ではなく - 制度がいつまで続くかを前提に判断する
という視点が必要になります。
軽減税率は「当然の優遇」ではなく、「見直しの対象となっている制度」であるという認識が、今後の実務では重要になります。
参考
東京税理士会 全国統一研修会資料 令和7年度法人課税改正関係資料(配布資料)