企業の設備投資や研究開発、賃上げなどを後押しするため、日本にはさまざまな租税特別措置があります。
税金を軽くすることで企業の行動を促す政策ですが、ここで一つ問題があります。
どの制度が、どれくらい利用されているのでしょうか。
巨額の税収を減らしているのに一部の企業しか利用していない制度や、逆にほとんど使われなくなった制度が存在するかもしれません。
そこで、法人が利用する租税特別措置の実態を把握し、その効果を検証するために設けられているのが租特透明化法です。
日本版DOGEによる税優遇の見直しを考えるうえでも重要な制度です。
租特透明化法とは何か
租特透明化法とは、正式には「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律」といいます。
2010年に制定されました。
法人税に関係する租税特別措置について、どの程度利用されているのかを国が把握し、その情報を政策の見直しに役立てるための法律です。
租税特別措置は、企業の税負担を軽くする制度です。
企業側から見れば減税ですが、政府側から見ると本来得られるはずだった税収が減ることになります。
そのため、
誰がどの制度を利用しているのか
どれくらいの金額が利用されているのか
制度がどの程度広がっているのか
といった実態を把握する必要があります。
税優遇を作ったまま放置するのではなく、その利用状況を見えるようにする仕組みが租特透明化法なのです。
なぜ租特の透明化が必要なのか
補助金の場合、政府が予算として支出するため、政策にどれだけのお金を使っているのか比較的分かりやすくなります。
例えば100億円の補助事業であれば、政府が100億円を支出することが予算に表れます。
一方、租税特別措置は少し違います。
政府がお金を支払うのではなく、企業が納める税金を軽くします。
そのため通常の歳出だけを見ても、どの程度の政策支援が行われているのかが分かりにくいという特徴があります。
しかも、税制優遇は一度導入されると延長を繰り返す場合があります。
そこで実際の利用状況を把握し、制度を続ける必要があるのか検証するための情報が必要になります。
適用実態調査とは何か
租特透明化法に基づいて行われる重要な仕組みが、租税特別措置の適用実態調査です。
法人税関係の租税特別措置について、実際にどの程度利用されているのかを調べます。
例えば、
適用した法人数
適用された金額
業種別の利用状況
資本金階級別の利用状況
などを把握します。
これによって、制度を作ったときに想定していた利用状況と実際の利用状況が大きく違っていないかを確認できます。
制度は存在するものの利用企業がほとんどないというケースも見つけやすくなります。
適用額明細書とは何か
では、国は企業がどの租税特別措置を利用したのかを、どのように把握するのでしょうか。
その重要な資料が適用額明細書です。
法人が法人税関係の一定の租税特別措置を適用する場合、法人税申告書とともに適用額明細書を提出します。
そこには、利用した租税特別措置や適用額などを記載します。
例えば企業が一定の税額控除を利用した場合、その制度を利用したことや適用額を申告します。
こうした企業からの情報を集計することで、国は租税特別措置の利用実態を把握できるようになります。
つまり適用額明細書は、
企業側の税務申告
と
政府側の政策評価
をつなぐ資料でもあります。
企業ごとの情報をそのまま公表するわけではない
透明化という言葉から、どの企業がいくら税制優遇を受けたのかがすべて公開されるように感じるかもしれません。
しかし、企業の個別の税務情報をそのまま一般公開する制度ではありません。
国が企業から提出された情報を集計し、租税特別措置ごとの適用状況などを把握します。
重要なのは個々の企業の納税情報を公開することではなく、
制度全体としてどの程度利用されているのか
を明らかにすることです。
これによって税務上の秘密を守りながら、租特の政策評価に必要な情報を得る仕組みになっています。
なぜ国会へ報告するのか
租特透明化法では、調査した適用状況を政府内部だけで利用するのではなく、報告書として国会へ提出する仕組みがあります。
租税特別措置は税収を減らす政策です。
つまり、その制度を続けるということは、一定の税収を徴収しないという政策判断でもあります。
だからこそ行政内部だけで判断するのではなく、国会によるチェックが重要になります。
どの制度がどれくらい使われているのかという情報があれば、
制度を延長するのか
縮小するのか
要件を変更するのか
廃止するのか
といった議論を行いやすくなります。
利用件数が少なければ廃止すべきなのか
ただし、利用件数が少ない制度だからといって、直ちに不要とは限りません。
例えば非常に特殊な技術開発を支援する制度であれば、対象企業そのものが少ない可能性があります。
数社しか利用していなくても、重要な技術開発につながっているのであれば政策的な意味があるかもしれません。
反対に、多くの企業が利用している制度だから有効とも限りません。
税制優遇がなくても企業が同じ投資や賃上げを行っていたのであれば、政策によって新しい行動を生み出したとは言い切れないからです。
適用実態調査は政策評価の出発点です。
利用実態を把握したうえで、さらに政策効果を検証する必要があります。
日本版DOGEとどうつながるのか
参考記事では、日本版DOGEの対象となった約120件の税優遇などのうち、2027年度税制改正要望で廃止要望が出たのは3件でした。
その一つである、中堅・中小企業が行う一定の事業再編にかかる登録免許税の軽減措置は、制度開始から利用実績がありませんでした。
このように、
制度は存在するが実際にはほとんど利用されていない
という事実を把握することは、税制を見直す重要な材料になります。
一方で、日本版DOGEが大きな財源を生み出すためには、利用件数だけを見るのでは十分ではありません。
適用額が大きな制度についても、その政策効果に見合った税収減なのかを検証する必要があります。
透明化は改革のゴールではない
租特透明化法によって、税制優遇の利用状況は以前より把握しやすくなりました。
しかし、情報を集めること自体が目的ではありません。
重要なのは、その情報を実際の制度改革につなげることです。
例えば、ある租特によって年間1000億円の税収が減っていることが分かったとします。
そこで必要になるのは、
1000億円の税収減によって、どれだけ設備投資や研究開発、賃上げなどが増えたのか
という検証です。
効果が十分であれば制度を続ける合理性があります。
反対に効果が乏しければ、縮小や廃止を検討する余地があります。
透明化は政策評価の入口なのです。
結論
租特透明化法とは、法人税関係の租税特別措置について実際の利用状況を把握し、制度の見直しにつなげるための法律です。
企業が一定の租税特別措置を利用する場合には適用額明細書を提出し、その情報などをもとに国が適用実態を調査します。
これによって、どの制度が何社に利用され、どの程度の金額が適用されているのかを把握できるようになります。
租税特別措置は予算として直接お金を支出しないため、その政策コストが見えにくいという特徴があります。
だからこそ、まず利用実態を透明にする必要があります。
ただし、本当に重要なのは透明化した後です。
利用実態を把握し、失われる税収と政策効果を比較し、必要性の低くなった制度を実際に見直せるのか。
日本版DOGEが成果を上げられるかどうかも、最終的には集めたデータを制度改革へつなげられるかにかかっています。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊「日本版DOGE、税優遇廃止は3件どまり 財源捻出、年10万円」