租特の政策効果とは何か 減税がなくても企業が同じ行動をした場合どう評価するのか編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

企業が賃上げをすると法人税を減らす。

設備投資をすると税負担を軽くする。

研究開発にお金を使うと税額控除を受けられる。

租税特別措置には、税金を軽くすることで企業の行動を変えようという目的があります。

しかし、ある企業が税制優遇を利用したからといって、その制度に政策効果があったとは限りません。

税制優遇がなくても、その企業は同じ賃上げや設備投資をしていたかもしれないからです。

租特を評価するときに最も難しいのが、この政策によって本当に企業の行動が変わったのかという問題です。

政策効果とは何か

政策効果とは、政府がある政策を実施したことで、政策を実施しなかった場合と比べてどのような変化が生じたのかという考え方です。

例えば政府が賃上げ促進税制を導入したとします。

制度を利用した企業が1000社あり、合計1000億円の賃上げをしたとします。

一見すると大きな政策効果があったように見えます。

しかし重要なのは1000億円の賃上げが行われたという事実だけではありません。

賃上げ促進税制がなかった場合に、その1000社がいくら賃上げしていたのかを考える必要があります。

税制がなくても1000億円を賃上げしていたのであれば、税制による追加的な効果はほとんどなかったことになります。

税制を利用したことと政策効果は別

ここは租特を考えるうえで非常に重要です。

制度の利用実績と政策効果は同じではありません。

例えばある会社が5000万円の賃上げをして、賃上げ促進税制によって法人税の税額控除を受けたとします。

この会社は間違いなく制度の利用企業です。

しかし会社が賃上げした理由が、

深刻な人手不足

労働組合との交渉

物価上昇への対応

同業他社との人材獲得競争

だったとしたらどうでしょうか。

税制がなくても5000万円の賃上げをしていた可能性があります。

この場合、税額控除の適用実績は増えますが、税制が生み出した追加的な賃上げは小さいことになります。

因果関係を見る必要がある

政策効果を検証するときには因果関係が重要です。

単に、

税制を導入した

その後賃上げが増えた

という二つの事実だけでは、税制が賃上げを増やしたとは断定できません。

同じ時期に景気が改善したのかもしれません。

人手不足が深刻になった可能性もあります。

物価が上昇して企業が給与を引き上げたのかもしれません。

最低賃金の引き上げが影響した可能性もあります。

税制以外にも企業の行動を変える要因は数多くあります。

そのなかから税制そのものの効果を切り分ける必要があります。

反実仮想とは何か

政策評価で重要になるのが反実仮想という考え方です。

難しい言葉ですが、意味は単純です。

もしその政策がなかったらどうなっていたのか

を考えることです。

例えば税制優遇を利用した会社が1000万円の設備投資をしたとします。

実際に観察できるのは、税制がある世界で1000万円投資したという事実です。

本当に知りたいのは、税制がなかった場合にその会社がいくら投資していたのかです。

税制がなければ600万円しか投資しなかったのであれば、税制によって400万円の追加投資が生まれた可能性があります。

税制がなくても1000万円投資していたのであれば、追加効果はありません。

政策効果とは、この差を見る考え方です。

設備投資減税でも同じ問題が起きる

賃上げ税制だけの問題ではありません。

設備投資に関する租特でも同じことが起きます。

例えば製造業の会社が老朽化した機械を新しい設備へ更新したとします。

設備投資減税を利用して法人税も軽減されました。

しかし古い機械が壊れそうだったため、税制がなくても設備更新は必要だった可能性があります。

この場合、税制は設備投資を新たに生み出したというより、もともと設備投資する予定だった企業の税負担を軽くしたことになります。

制度利用額だけを見て政策が成功したと判断できない理由です。

研究開発税制でも追加性が重要になる

研究開発を促す税制でも同じです。

企業が年間100億円の研究開発費を使い、税額控除を受けたとします。

重要なのは税額控除があったことで研究開発費がいくら増えたかです。

税制がなくても100億円を研究開発に使っていたのであれば、税制による追加的な研究開発は生まれていません。

一方、税制がなければ80億円だったところを100億円に増やしたのであれば、20億円の追加投資につながった可能性があります。

政策によって新しく生まれた行動を追加性という視点から見ることが重要です。

税収減との費用対効果を見る

租特には税収減というコストがあります。

例えばある税制によって年間1000億円の税収が減ったとします。

その1000億円によって、税制がなければ実現しなかった設備投資や賃上げが大きく増えたのであれば、政策として一定の合理性があります。

しかし1000億円の税収を減らしたにもかかわらず、企業行動がほとんど変わらなかったのであれば、費用対効果は低いことになります。

重要なのは、

減税額がいくらだったか

だけではなく、

その減税によって追加的に何が生まれたか

を比較することです。

100円の減税で何円の行動変化が起きたのか

政策効果を分かりやすく考えるなら、100円の減税で企業行動がどれだけ変わったかを見る方法があります。

例えば100円の税収を減らした結果、企業の設備投資が300円追加的に増えたとします。

政策によって民間投資を大きく引き出したと評価できる可能性があります。

一方、100円減税して追加投資が10円しか増えなかったのであれば、効率の低い政策かもしれません。

もちろん実際の政策評価では、雇用や生産性、経済波及効果なども考える必要があります。

それでも税収減と追加効果を比較するという考え方は基本になります。

利用件数が多いことが成功とは限らない

制度を利用する企業が増えると、政策が成功しているように見えます。

しかし利用件数が多いことには二つの可能性があります。

一つは、税制が魅力的で多くの企業の行動を変えた場合です。

もう一つは、もともと多くの企業が行っていた活動を対象にしたため、簡単に税制優遇を受けられた場合です。

後者なら利用件数は増えても追加的な政策効果は小さい可能性があります。

制度の利用しやすさと政策効果を区別する必要があります。

税制を利用しなかった企業との比較も重要

政策効果を検証する方法の一つが、制度を利用した企業と利用しなかった企業を比較することです。

例えば同じ業種、同じくらいの企業規模、似た業績の会社を比べます。

税制を利用した企業の賃上げ率が大幅に高ければ、制度が影響した可能性があります。

ただし単純比較にも注意が必要です。

もともと業績の良い企業ほど税制を利用しやすく、その企業だから賃上げできた可能性もあるからです。

企業のさまざまな条件を考慮しながら、税制そのものの効果を分析する必要があります。

政策目的を明確にしなければ評価できない

租特を評価するためには、そもそも何を実現したい制度なのかを明確にする必要があります。

例えば賃上げ促進税制なら、

企業の賃上げ率を高めること

なのか、

中小企業の人件費負担を軽減すること

なのかでは評価方法が変わります。

前者なら追加的な賃上げがどれだけ生まれたかを見る必要があります。

後者なら、賃上げした企業の資金繰りや収益への影響も政策効果になります。

目的が曖昧な制度は、成功したのか失敗したのかも判断しにくくなります。

効果が弱ければ別の政策手段も考えられる

租特の政策効果が弱いからといって、その政策目的自体が不要とは限りません。

例えば中小企業の賃上げ支援は必要でも、法人税の税額控除という方法が最適ではない可能性があります。

その場合には、

補助金

社会保険料負担の軽減

価格転嫁対策

生産性向上支援

設備投資支援

など別の政策手段を検討できます。

政策目的と政策手段を分けて考えることが重要です。

結論

租特の政策効果とは、税制優遇を利用した企業がどれだけ賃上げや設備投資をしたかだけで判断するものではありません。

本当に重要なのは、その税制がなかった場合と比べて企業の行動がどれだけ変わったのかです。

税制がなくても企業が同じ賃上げや設備投資をしていたのであれば、税額控除の適用額が大きくても追加的な政策効果は小さいことになります。

一方、減税によって企業が新たな投資や賃上げを行ったのであれば、税収減には政策的な意味があります。

租特を評価するときには、適用件数や適用額だけでなく、企業行動との因果関係、追加的な効果、税収減との費用対効果まで検証する必要があります。

限られた財源を有効に使うためには、税制優遇をどれだけ利用されたかではなく、税制によって何が新しく生まれたのかを見ることが重要なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月23日 朝刊 維新が税優遇廃止案 賃上げ税制やサ高住 政府・自民と調整難しく

財務省 2026年 租税特別措置等に係る政策評価

総務省 2026年 租税特別措置等に係る政策評価

タイトルとURLをコピーしました