神山まるごと高専とはどんな学校なのか 企業がお金を出して起業家教育を支える理由編

人生100年時代
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高校や大学へ進学するとき、多くの家庭が気にするものの一つが学費です。

教育にはお金がかかります。

学校の施設をつくる。

教員を雇う。

教材を用意する。

学生の生活や活動を支援する。

こうした費用を誰が負担するのかは、教育を考えるうえで重要な問題です。

一般的には、国や自治体、そして学生や保護者が大きな役割を担います。

ところが、企業が資金を出して新しい教育を支えるという取り組みもあります。

その代表的な例の一つが、徳島県神山町にある神山まるごと高等専門学校です。

特徴的なのは、単にIT技術を学ぶ学校ではないことです。

テクノロジーとデザイン、起業家精神を組み合わせ、自分で社会に新しい価値を生み出せる人材を育てようとしています。

そこには、AI時代に学校教育は何を教えるべきなのかという大きな問いがあります。

神山まるごと高専とはどんな学校なのか

神山まるごと高専は、徳島県神山町に2023年に開校した私立の高等専門学校です。

高等専門学校は一般的に高専と呼ばれます。

中学校を卒業した後に進学し、5年間を通して専門的な教育を受ける仕組みです。

高校3年間と大学の最初の2年間に近い年代を、一つの教育機関で学ぶことになります。

神山まるごと高専も5年間の一貫教育を行います。

しかし、従来型の高専とは少し違った特徴を持っています。

テクノロジーだけを学ぶ学校ではない

高専というと、機械や電気、情報などの技術者を育てる学校というイメージを持つ人が多いかもしれません。

もちろん、神山まるごと高専でもテクノロジーは重要な柱です。

しかし、技術だけを学ぶわけではありません。

テクノロジー。

デザイン。

起業家精神。

こうした領域を横断して学ぶことが大きな特徴です。

なぜでしょうか。

どれだけ優れた技術を持っていても、それだけで社会に価値を生み出せるとは限らないからです。

何に困っている人がいるのか。

どんな商品やサービスなら使ってもらえるのか。

どうすれば社会へ届けられるのか。

事業として継続できるのか。

技術を社会の価値へ変えるには、こうしたことまで考える必要があります。

起業家教育とは会社の作り方だけを教えることではない

起業家教育と聞くと、

会社を設立する方法を勉強する

事業計画書を書く

資金調達の方法を学ぶ

といったものを想像するかもしれません。

しかし、本質はそれだけではありません。

起業には、最初から正解がありません。

どんな商品を作れば売れるのか。

顧客は誰なのか。

いくらなら買ってくれるのか。

競合企業とどう違いをつくるのか。

実際に市場へ出してみなければ分からないことがたくさんあります。

だからこそ、

自分で問題を発見する

仮説を立てる

実際に試してみる

失敗した理由を考える

改善してもう一度試す

という経験が重要になります。

これは起業する人だけに必要な能力ではありません。

会社員として新しい事業をつくる場合にも、地域の課題を解決する場合にも役立つ考え方です。

正解を覚える教育とは方向が違う

従来型の学校教育では、問題を解く能力が重視されてきました。

数学の問題を解く。

英語の問題を解く。

試験で正しい答えを書く。

もちろん、こうした基礎学力は重要です。

しかし、起業ではそもそも問題自体が与えられません。

自分で、

何が問題なのか

誰が困っているのか

なぜ今まで解決されていないのか

を見つけるところから始まります。

つまり、問題を解く前に問題を発見する能力が必要なのです。

AI時代には、この違いがますます重要になる可能性があります。

全寮制で生活そのものを学びにする

神山まるごと高専の特徴の一つが、全寮制です。

学生は学校で授業を受けるだけでなく、仲間と共同生活を送ります。

これは前回取り上げた全寮制教育ともつながります。

生活を共にすれば、当然いろいろな問題が起こります。

考え方が違う。

生活習慣が違う。

意見がぶつかる。

誰かと協力しなければ解決できない。

こうした経験そのものが学びになります。

会社を経営する場合も、一人ですべてを行うわけではありません。

様々な価値観や能力を持った人と協力する必要があります。

学生時代の共同生活は、その練習にもなります。

従来型高専との違いは何か

日本の高専は、産業界で活躍する技術者を数多く育ててきました。

実験や実習を重視し、早い段階から専門知識を学べることが大きな強みです。

神山まるごと高専も、実践を重視する高専の特徴を持っています。

一方で特徴的なのは、技術者を育てるだけでなく、技術を使って新しい価値を生み出す人材を育てようとしていることです。

例えばプログラムを書けるだけではなく、

その技術で何をつくるのか

誰の問題を解決するのか

どうやって社会へ広げるのか

まで考えることになります。

技術を目的ではなく、社会を変えるための手段として考えるわけです。

企業が学校を支えている

もう一つ注目したいのが、企業との関係です。

神山まるごと高専の設立や運営には、多くの企業や個人が資金面で関わっています。

教育は本来、国や自治体が中心になって整備するものだと考える人もいるでしょう。

では、なぜ民間企業が教育にお金を出すのでしょうか。

一つには、これからの社会を担う人材を育てることが、企業にとっても重要だからです。

企業が成長するには人材が必要です。

しかし、必要になってから人材を探すだけではなく、社会全体で新しい人材を育てるところから関わるという考え方もできます。

企業にとって教育への支援は長期投資でもある

企業がお金を出したからといって、その学生が将来必ずその企業へ就職するわけではありません。

したがって、通常の採用活動とは違います。

むしろ長い目で社会全体の人材を育てる投資に近い面があります。

新しい会社をつくる人。

新しい技術を生み出す人。

地域の問題を解決する人。

既存企業の中で新規事業をつくる人。

そうした人材が増えれば、結果として産業全体の活力につながる可能性があります。

自社だけの利益ではなく、人材が育つ土壌そのものを支援するわけです。

民間企業が参加すると教育の選択肢が増える

教育をすべて国が設計すると、公平性や全国的な教育水準を保ちやすいという利点があります。

一方で、新しい教育方法を導入するには時間がかかることがあります。

民間が参加すれば、違った教育モデルを試しやすくなります。

例えば、

企業と共同でプロジェクトに取り組む

現役の起業家から学ぶ

実際の社会課題を教材にする

学生自身がサービスをつくる

といった取り組みです。

すべての学校を同じ形にするのではなく、様々な学校が異なる教育方法を試す。

その中から、新しい教育のあり方が見つかる可能性があります。

企業がお金を出すことには注意も必要

もちろん、企業が教育を支援することには注意すべき点もあります。

資金を出した企業の意向が教育内容に強く反映されすぎれば、教育の独立性が損なわれる可能性があります。

特定企業に都合のよい人材を育てるだけの場所になってはいけません。

学校は企業の研修施設ではないからです。

だからこそ、

誰が資金を出しているのか

教育方針を誰が決めるのか

学校としての独立性をどう守るのか

という仕組みが重要になります。

民間資金を活用することと、教育の自主性を守ることを両立させる必要があります。

地方に学校をつくる意味もある

神山まるごと高専が徳島県神山町にあることも興味深い点です。

高度な教育機関は大都市に集まりやすい傾向があります。

若者が進学のため都市へ移り、そのまま都市で就職すれば、地方から若者が減っていきます。

逆に地方に魅力的な学校があれば、全国から若者が集まります。

学生だけではありません。

教員。

企業。

起業家。

教育関係者。

様々な人が地域を訪れるようになります。

学校が単なる教育施設ではなく、地域へ人を呼び込む拠点になる可能性があります。

AI時代には実践する教育の価値が高まる

生成AIの進化によって、知識を得るコストは急速に下がっています。

分からないことを質問すれば説明してもらえます。

プログラムを書く支援も受けられます。

文章も作れます。

情報も整理できます。

だからといって、学校が不要になるわけではありません。

むしろ学校に求められる役割が変わる可能性があります。

知識を一方的に教える場所から、

仲間と何かをつくる

実際の問題に挑戦する

失敗する

改善する

異なる価値観を持つ人と協力する

という経験をする場所へ変わっていくのです。

神山まるごと高専の教育は、その一つの試みと見ることができます。

すべての学校が同じになる必要はない

重要なのは、日本中の学校を神山まるごと高専と同じ形にすることではありません。

教育には様々な役割があります。

研究者を育てる学校。

技術者を育てる学校。

地域を支える人材を育てる学校。

起業家を育てる学校。

それぞれがあってよいでしょう。

むしろ問題なのは、すべての学校が同じ物差しで生徒を評価し、同じ進路だけを成功と考えることかもしれません。

教育の選択肢が増えれば、子ども自身が自分に合った学び方を選べる可能性も広がります。

結論

神山まるごと高専が注目される理由は、単に珍しい学校だからではありません。

テクノロジーとデザイン、起業家精神を組み合わせ、実践を通じて社会に新しい価値を生み出す人材を育てようとしているところに特徴があります。

さらに、全寮制によって授業だけでなく共同生活も学びの一部とし、多くの企業や個人が資金面から教育を支えています。

そこから見えてくるのは、教育は国と学校だけがつくるものではないという考え方です。

企業。

地域。

起業家。

そして学生自身。

様々な人が教育に関わることで、新しい学びの形をつくることができます。

AIが正解を簡単に教えてくれる時代になれば、学校の価値は、正解を覚えさせることだけでは測れなくなるでしょう。

自分で問いを見つける。

仲間と考える。

実際につくる。

失敗する。

そして、もう一度挑戦する。

神山まるごと高専の取り組みは、AI時代の学校に何が求められるのかを考える一つの材料になるのだと思います。

参考

日本経済新聞 2026年9月7日朝刊 日本型人材育成の課題 忖度生む教育やめよ

日本経済新聞 2026年9月7日朝刊 民の力生かし改革を

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