企業の研究開発は、すべてを自社の研究者だけで行うとは限りません。
専門的な技術を持つ企業に実験を依頼したり、研究開発の一部を外部企業へ委託したりすることがあります。
こうした場合に気になるのが、外部へ支払った費用も研究開発税制の対象になるのかという点です。
資料では、他の者に委託して試験研究を行う場合、その試験研究のために委託先へ支払う一定の費用も試験研究費に含まれることが示されています。
ただし、外注費という勘定科目で処理していれば、そのまま研究開発税制の対象になるわけではありません。
重要なのは、その外注によって実際にどのような試験研究が行われたのかです。
委託研究の費用も試験研究費になり得る
研究開発税制の対象となる試験研究費には、自社で直接支出した原材料費や人件費などだけでなく、一定の委託研究費も含まれます。
資料では、他の者に委託して試験研究を行う法人について、その試験研究のために委託を受けた者に対して支払う費用が示されています。
したがって、自社にすべての研究設備や研究者を抱えていなくても、外部の専門企業などを利用して研究開発を進めることができます。
研究開発の高度化が進めば、すべての技術を1社だけで保有することは難しくなります。
外部の専門知識や設備を活用することは、研究開発を進めるうえで重要な選択肢になります。
外注費という名前だけでは判断できない
ここで注意したいのは、会計上の勘定科目と研究開発税制上の判断は別だということです。
会計帳簿に「外注費」として1,000万円が計上されていたとしても、その1,000万円が自動的に試験研究費になるわけではありません。
例えば、新しい技術の実験を外部企業に委託した費用と、完成した商品の広告制作を外部企業に委託した費用では内容がまったく異なります。
どちらも会計上は外注費として処理される可能性があります。
しかし、研究開発税制では、その支出が税務上の試験研究のために必要な費用なのかを確認する必要があります。
勘定科目ではなく、取引の実態を見ることが重要です。
委託した研究内容を明確にする必要がある
外部へ研究を委託するときには、「何を研究してもらうのか」を明確にしておくことが重要です。
新たな知見を得るための実験なのか。
既存技術を新しく応用するための研究なのか。
単なる製品検査や品質管理なのか。
同じ技術系企業への支払いでも、委託内容によって研究開発税制上の扱いが異なる可能性があります。
前回までに確認したように、既存製品の品質管理や完成品の製品検査などは、資料では試験研究に含まれない活動として示されています。
そのため、「技術会社への外注だから研究開発費」といった判断はできません。
何を目的として、どのような活動を委託したのかを確認する必要があります。
成果物の内容が重要になる
資料では、研究開発税制の実務上の留意点として、外注先の成果物の定義を立証することが重要だとされています。
これは非常に重要なポイントです。
委託先から請求書を受け取っただけでは、その会社が実際に何を行ったのかまでは分からないことがあります。
例えば、請求書に「開発業務一式」とだけ書かれていた場合、その中に試験研究がどの程度含まれているのか判断することが難しくなります。
そこで、委託契約書や仕様書、研究報告書などによって、委託した研究の内容や成果を確認できるようにしておくことが重要になります。
研究開発税制では、金額を証明する資料だけではなく、その金額の背景にある研究活動を説明できる資料も重要になるわけです。
契約段階から税務を意識する意味がある
研究開発税制への対応を決算時に始めると、委託内容を確認する資料が十分に残っていないことがあります。
そこで考えたいのが、外部企業と契約する段階から研究内容を整理しておくことです。
例えば、委託契約の中で研究目的や研究内容が明確になっていれば、後からその費用と研究活動を結び付けやすくなります。
逆に、「システム開発一式」「技術支援一式」など非常に広い内容で契約していると、その中のどの部分が試験研究なのかを確認することが難しくなる場合があります。
研究開発税制を利用する可能性がある企業では、税務申告だけではなく、契約や研究管理まで含めて考える必要があります。
通常の外注と委託研究を区別する
企業にはさまざまな外注があります。
製造工程の一部を外注することもあれば、システムの保守、商品のデザイン、マーケティング調査などを外注することもあります。
しかし、それらすべてが委託研究になるわけではありません。
特に、すでに技術的に確立した製品を量産するための作業や、完成品の販売を目的としたマーケティング調査などは、資料では試験研究に含まれない活動として整理されています。
したがって、外部企業への支払いを研究開発税制の対象として検討するときには、通常の業務委託と試験研究の委託を区別する必要があります。
研究開発プロジェクトに関係しているというだけでは十分ではなく、その外注そのものがどのような活動なのかを見ることが重要です。
大学やスタートアップとの研究には別の優遇もある
外部との研究開発では、さらに重要な制度があります。
大学、国の試験研究機関、スタートアップなどとの共同研究や委託研究については、オープンイノベーション型という研究開発税制が設けられています。
資料では、連携先に応じて20%、25%、30%の税額控除率が示されています。
つまり、外部へ研究を委託する場合には、単に一般的な試験研究費として扱えるかを見るだけではなく、誰と研究するのかによって別の税制上の取り扱いを検討する余地があります。
研究開発の相手先まで含めて制度を確認することが重要です。
外注費は経理処理だけで完結しない
外注費について研究開発税制を適用する場合、経理部門だけで判断するのは難しいことがあります。
経理部門では請求金額や支払先は分かっても、その外注先が実際に行った研究内容までは把握できないことがあるからです。
研究開発部門は研究内容を把握しています。
法務や購買部門は契約内容を把握しています。
経理部門は支払金額を把握しています。
これらの情報を結び付けることで、初めて研究開発税制の対象となる外注費を整理しやすくなります。
研究開発税制は、税務申告書を作る段階だけの問題ではありません。
研究の開始、契約、実施、成果物の確認、会計処理までを一連の流れとして管理することが重要になります。
結論
研究開発税制では、自社の研究者に支払う人件費などだけでなく、他の者に試験研究を委託するために支払う一定の費用も試験研究費に含まれます。
ただし、会計上「外注費」として処理されているだけでは、研究開発税制の対象になるとは判断できません。
何を目的として委託したのか、どのような試験研究が行われたのか、どのような成果物が作られたのかを確認することが重要です。
そのため、委託契約書や仕様書、研究報告書などによって、研究内容と支払った費用を結び付けられるようにしておくことが重要になります。
さらに、大学やスタートアップなどとの共同研究や委託研究については、オープンイノベーション型の対象になる可能性もあります。
外注費を単なる経費として見るのではなく、研究開発の内容、相手先、契約、成果物まで一体として管理することが、研究開発税制を適切に活用するためのポイントです。
参考
第33回青山学院大学同窓祭公開講座 2026年9月23日 R&D税制とイノベーションボックス税制 会計プロフェッショナルによるイノベーション・コンサルテーション