スマートフォンで撮影した写真をクラウドに保存し、別のパソコンで編集する。異なるメーカーのスマートフォンとイヤホンを接続する。銀行口座と家計簿アプリを連携する。
私たちは日常的に、異なる企業が提供するサービスを組み合わせて利用しています。
こうした利便性を支えているのが「相互運用性」という考え方です。AI時代には、この相互運用性が利用者の利便性だけでなく、公正な競争を維持するためにも重要なテーマとなっています。
今回は、相互運用性とは何か、なぜ競争政策と深く関わるのかを分かりやすく解説します。
相互運用性とは何か
相互運用性とは、異なるシステムやサービスが互いに情報をやり取りし、問題なく利用できる性質のことです。
例えば、
・異なるメーカーの機器同士が接続できる
・別々のアプリでデータを共有できる
・異なるサービス間で同じアカウント情報を利用できる
などが相互運用性の例です。
利用者はサービスの違いを意識することなく、必要な機能を自由に組み合わせて利用できるようになります。
なぜ重要なのか
もし相互運用性がなければ、利用者は一つの企業のサービスだけを使い続けるしかありません。
例えば、
・特定メーカーの機器しか接続できない
・データを他社サービスへ移せない
・他社アプリと連携できない
という状況では、新しいサービスへ乗り換えることが難しくなります。
その結果、企業間の競争が弱まり、利用者の選択肢も狭まる可能性があります。
AI時代は連携が前提になる
生成AIやAIエージェントは、一つのサービスだけで完結することは少なくなります。
例えば旅行を計画する場合でも、
・交通機関を検索する
・ホテルを予約する
・天気を確認する
・決済を行う
・カレンダーへ予定を登録する
といった複数のサービスを連携させる必要があります。
このような連携を円滑に進めるためには、高い相互運用性が欠かせません。
AIの能力が高まるほど、サービス同士がつながる仕組みの重要性も増していきます。
利用者の利益につながる
相互運用性が高まることで、利用者にはさまざまなメリットがあります。
例えば、
・サービスを自由に選べる
・使い慣れたアプリを継続できる
・新しいサービスを試しやすい
・データを有効活用できる
といった利点があります。
企業の都合ではなく、利用者自身が最適なサービスを組み合わせられる環境が実現しやすくなります。
企業にも新たな機会が生まれる
相互運用性は、大企業だけでなく中小企業やスタートアップにも恩恵をもたらします。
新しい企業でも、既存のサービスと連携できれば、自社の強みを生かしたサービスを提供しやすくなります。
例えば、
・専門分野に特化したAI
・業界向けの業務支援ツール
・地域密着型のサービス
なども、大手企業のサービスと連携することで、多くの利用者へ提供できる可能性があります。
相互運用性は、新しい挑戦を後押しする仕組みでもあるのです。
課題も存在する
一方で、相互運用性を高めることには課題もあります。
例えば、
・システム開発の負担が増える
・情報漏えい対策が必要になる
・共通ルールづくりに時間がかかる
・知的財産権との調整が必要になる
などです。
また、企業にとっては、自社独自の仕組みが競争力となっている場合もあり、どこまで他社との連携を認めるかは慎重な判断が求められます。
競争政策との関係
競争当局が相互運用性に注目する理由は、市場への新規参入を促し、公正な競争を維持する効果が期待できるからです。
もし一部の企業だけが閉鎖的な仕組みを築き、他社との接続を不当に妨げれば、市場競争が弱まり、利用者も不利益を受ける可能性があります。
一方で、適切な相互運用性が確保されれば、多様な企業が競争に参加しやすくなり、技術革新も進みます。
AI時代の競争政策では、「どれだけ多くの企業が自由に連携できるか」が、市場の健全性を測る重要な視点の一つになっていくでしょう。
結論
相互運用性とは、異なるサービスやシステムが円滑につながり、利用者が自由に組み合わせて利用できる仕組みです。
AI時代には、一つの企業だけで完結するサービスよりも、多様なサービスが連携して価値を生み出す場面が増えていきます。そのため、相互運用性は技術上の課題にとどまらず、公正な競争を支える社会基盤としての重要性を増しています。
利用者が自由に選び、企業が公平に競争できる市場を実現するために、相互運用性は今後ますます重要なキーワードになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月26日 朝刊
直言〉AIの進歩に後れ取らず 茶谷栄治・公正取引委員会委員長
日本経済新聞 2026年7月26日 朝刊
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