人生100年時代を迎え、老後資産の一部を海外ETFや米国株で運用する人が増えています。新NISAの普及によって、海外資産への投資は特別なものではなくなりました。
しかし、多くの人が見落としているリスクがあります。
それが為替差益です。
一般的に為替差益というと「利益が出て良いこと」と考えられがちです。しかし老後資金の管理という視点で見ると、必ずしもそうとは限りません。
近年の最高裁判決では、外貨を別の外貨に交換した場合にも為替差益への課税が認められました。今後は投資成果だけでなく、為替による影響を意識した資産管理がますます重要になります。
老後資金は円で使う
多くの日本人にとって、老後の生活費は円で支払います。
食費、光熱費、医療費、介護費、住宅費など、ほぼすべてが円建てです。
一方で海外ETFや米国株はドル建てで運用されています。
つまり老後資金は、
「ドルで増やして円で使う」
という構造になっています。
ここに為替リスクが存在します。
資産が増えていても、円高になれば使えるお金は減る可能性があります。
円安は資産を増やして見せる
近年の円安局面では、多くの投資家が資産増加を経験しました。
例えば米国株がほとんど値上がりしていなくても、
1ドル100円から150円になれば、
円換算の資産額は大きく増加します。
その結果、
「資産形成は順調だ」
と感じる人も少なくありません。
しかし実際には株価上昇ではなく為替変動による増加である場合があります。
為替による増加は将来も続くとは限りません。
ここを誤解すると老後資金計画に狂いが生じます。
円高が老後資金を縮小させる
為替の怖さは資産を増やす時ではなく、減らす時に現れます。
例えば老後資金として1億円相当の海外資産を保有していたとします。
しかしその評価額の多くが円安によるものだった場合、円高になれば資産額は大きく減少します。
しかも老後は積み立て期間ではありません。
生活費として取り崩す段階です。
円高局面で資産を売却すると、想定より少ない金額しか受け取れないことがあります。
これが老後資金計画を狂わせる最大の要因です。
見落とされる税金の問題
為替差益には税金も関係します。
近年の最高裁判決では、
・外貨を別の外貨へ交換した場合
・外貨で有価証券を取得した場合
などでも為替差益への課税が認められました。
投資家の感覚では利益が確定していないと思っていても、税務上は所得と判断される場合があります。
老後に海外資産を活用する際は、
資産額
だけでなく、
税引後に使える金額
を考えなければなりません。
為替差益は味方にも敵にもなる
為替差益そのものは悪いものではありません。
円安局面では資産価値を押し上げる効果があります。
また日本国内のインフレに対する防御にもなります。
問題は、それを前提に生活設計を立ててしまうことです。
円安で増えた資産を永久に維持できる保証はありません。
老後資金計画は楽観的な想定ではなく、慎重な想定で組み立てる必要があります。
資産管理で重要なのは通貨分散である
老後資産を考える際には、
・円資産
・外貨資産
のバランスが重要です。
円資産だけではインフレや円安に弱くなります。
外貨資産だけでは円高に弱くなります。
人生100年時代では、どちらか一方に偏るのではなく、複数の通貨で資産を保有することがリスク管理につながります。
資産分散だけでなく通貨分散も重要な時代になっているのです。
本当に管理すべきなのは資産額ではない
多くの人は資産残高ばかりを見ています。
しかし老後に重要なのは、
「毎月いくら使えるか」
です。
1億円の資産があっても生活費が不安なら安心は得られません。
反対に資産額が多少少なくても、安定した収入と適切な資産配分があれば安心して暮らせます。
老後資金管理の本質は資産額競争ではなく、生活の安定にあります。
結論
為替差益は老後資金を豊かにすることもあれば、計画を狂わせることもあります。
問題は為替差益そのものではなく、それを前提に資産計画を立ててしまうことです。
人生100年時代では、円資産と外貨資産を適切に組み合わせながら、税金や為替変動も考慮した資産管理が求められます。
老後の安心は資産額だけで決まりません。どの通貨で資産を持ち、どのように使うかを考えることこそが、本当の資産管理なのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年6月17日朝刊)
「外国通貨を別の外貨に交換、円で為替差益なら課税適法 最高裁が初判断」