地震や豪雨などの大規模災害が発生すると、多くのけが人や重症患者が一度に医療機関へ搬送されます。
そのような非常時に地域医療の中心となるのが「災害拠点病院」です。
近年、老朽化した病院の建て替え支援が議論されている背景には、日常の医療だけでなく、災害時にも医療機能を維持できる病院を整備するという目的もあります。
今回は、災害拠点病院の役割と、これからの病院づくりに求められる視点について解説します。
災害拠点病院とはどのような病院か
災害拠点病院とは、大規模災害が発生した際に地域の医療活動の中心となる医療機関です。
通常の診療を続けながら、多数の負傷者を受け入れ、重症患者への救命医療を行う役割を担います。
また、周辺の医療機関と連携しながら、医療スタッフや医療資材の調整を行う役割もあります。
災害時には、一つの病院だけで対応することは困難です。
そのため、災害拠点病院は地域医療全体をまとめる司令塔としての機能も期待されています。
指定を受けるためには厳しい条件がある
災害拠点病院は、希望すれば指定されるわけではありません。
都道府県が国の基準に基づいて指定を行います。
例えば、24時間体制で救急医療を提供できること、高度な医療設備を備えていること、多数の患者を受け入れられる体制が整っていることなどが求められます。
さらに、災害時には医療チームを被災地へ派遣できる能力も重要になります。
日頃から防災訓練や関係機関との連携を行い、緊急時に迅速な対応ができる体制を維持することが必要です。
耐震化だけでは十分ではない
病院の災害対策というと、建物の耐震化を思い浮かべる人が多いかもしれません。
もちろん耐震性能は重要ですが、それだけでは医療を続けることはできません。
停電が発生しても手術や人工呼吸器を動かせる非常用電源、水道が止まっても医療用水を確保できる設備、通信が途絶えても情報共有できる通信手段など、多くの備えが必要になります。
また、感染症の流行時にも通常診療を継続できるよう、院内の動線や空調設備なども重要な要素となっています。
「災害に強い病院」とは、建物が壊れないだけでなく、医療を止めない病院なのです。
建て替え支援が重要になる理由
築40年以上の病院が増える中で、古い建物では現在求められる防災機能を十分に備えられないケースがあります。
耐震基準を満たしていても、非常用設備や医療インフラが老朽化していることも少なくありません。
しかし、病院建設費は近年大幅に上昇しており、民間病院だけで建て替え費用を負担することは容易ではありません。
そのため、地域にとって重要な病院については、公的支援を活用しながら建て替えを進める必要性が高まっています。
病院建て替え支援は、災害対策の観点からも重要な意味を持つ政策なのです。
平時と災害時の両方を支える病院へ
これからの病院には、日常診療だけではなく、災害時にも地域住民の命を守る機能が求められます。
さらに、高齢化への対応や医療DX、感染症対策など、新しい課題にも対応しなければなりません。
新たな病院づくりでは、「普段は効率的な医療を提供し、非常時には地域医療の拠点となる」という二つの役割を両立することが重要になります。
こうした視点は、今後の地域医療政策においてますます重視されるでしょう。
結論
災害拠点病院は、大規模災害時に地域医療を支える中核となる医療機関です。
高度な救急医療だけでなく、多数の患者の受け入れや医療機関同士の連携など、地域全体を支える重要な役割を担っています。
病院の建て替え支援が進められている背景には、老朽化対策だけではなく、災害時にも医療を止めない体制を整えるという目的があります。
これからの病院は、「治療する場所」であると同時に、「地域の安全を支える社会インフラ」として、その重要性がさらに高まっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月28日 朝刊
老朽病院の建て替えに補助 厚労省、来年度予算要求へ 病床削減と両立探る