業績目標はなぜ不正の原因になることがあるのか 高い目標そのものより達成方法が問題になる理由編

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企業が成長するためには目標が必要です。

売上高を増やす。

利益率を高める。

原価を下げる。

納期を短くする。

こうした目標があるからこそ、社員は何を優先して仕事をすればよいのか理解できます。

高い目標を掲げること自体が悪いわけではありません。

問題になるのは、目標を達成することが絶対視され、そのための方法が問われなくなったときです。

品質を守れば目標を達成できない。

必要な検査をすれば納期に間に合わない。

正式な承認を取れば原価低減ができない。

このような状況が続けば、社員は目標とルールの間で選択を迫られます。

そして会社から、

何としても数字を達成しろ。

というメッセージだけが強く伝われば、本来守るべき品質やコンプライアンスが後回しになる可能性があります。

業績目標とは何か

業績目標とは、企業や事業部門、社員などが一定期間に達成すべき成果を具体的に示したものです。

例えば、

年間売上高100億円。

営業利益10億円。

製造原価を前年比5パーセント削減。

不良率を一定水準以下にする。

納期遵守率を高める。

といったものがあります。

目標を設定することで、会社全体が同じ方向へ進みやすくなります。

また、実績と目標を比較すれば、事業が計画どおり進んでいるか確認できます。

業績目標そのものは企業経営に欠かせない仕組みなのです。

高い目標そのものが悪いわけではない

簡単に達成できる目標だけを設定していては、企業の成長につながらない場合があります。

高い目標によって、

新しい製造方法を開発する。

無駄な作業を減らす。

新規顧客を開拓する。

技術革新を進める。

といった改善が生まれることがあります。

社員が工夫し、従来より高い成果を出すきっかけにもなります。

したがって、高い目標だから不正が起きると単純に考えることはできません。

重要なのは、その目標がどの程度現実的なのか、そして達成する過程で何を守らなければならないのかが明確になっていることです。

達成困難な目標になると何が起きるのか

問題は、現場の能力や市場環境から見て極めて達成が難しい目標が設定された場合です。

例えば、現在の利益が10億円の事業に対して、設備も人員もほとんど増やさず短期間で利益を大幅に増やすよう求めたとします。

現場は方法を考えます。

販売価格を上げる。

販売数量を増やす。

生産性を高める。

無駄な経費を削減する。

こうした正当な方法で達成できれば問題ありません。

しかし、それだけでは目標に届かない場合、現場はさらに強いコスト削減を求められる可能性があります。

そこで品質管理費、人員、検査、設備保守など、本来必要な費用にまで削減圧力が及ぶことがあります。

売上高や利益の目標は現場の具体的な数字へ変わる

経営トップが示す目標は、最初は売上高や利益という大きな数字です。

しかし、その数字は事業部、工場、部門へ配分されます。

さらに現場では、

材料費を何パーセント下げる。

人件費をいくら減らす。

製造時間を何分短縮する。

不良品による廃棄をいくら減らす。

といった具体的な目標へ変わっていきます。

経営トップが単に利益を増やすよう求めただけでも、現場では非常に細かなコスト削減要求として受け止められる場合があります。

その過程で、どの費用は削減してよく、どの費用は削減してはいけないのかという線引きが重要になります。

品質とコストが衝突する場面

例えば、より安い材料へ変更すれば製造原価を下げられることが分かったとします。

新しい材料でも性能には大きな問題がありません。

しかし、顧客との契約では材料変更について事前承認が必要です。

正式な手続きを取れば、

顧客へ説明する。

追加試験を行う。

承認を待つ。

といった時間と費用がかかります。

その結果、今月の原価低減目標を達成できないかもしれません。

ここで、

性能に問題がないから先に変更してしまおう。

という判断が生まれる可能性があります。

最初は会社のためのコスト削減だったものが、結果として品質不正につながるわけです。

納期目標も同じ問題を生むことがある

業績プレッシャーは利益だけではありません。

納期も重要です。

顧客との約束どおり製品を出荷することは企業にとって重要ですが、品質問題が見つかった場合には出荷を止めなければならないことがあります。

追加検査を行えば納期に遅れる。

出荷すれば納期目標は達成できる。

ここでも二つの目標が衝突します。

会社が日頃から納期だけを強く評価していれば、社員は品質上の問題を小さく扱う可能性があります。

品質と納期のどちらを優先するのかを、問題が起きる前から明確にしておく必要があります。

評価制度が社員の行動を変える

社員は会社が何を評価しているかを見ています。

例えば管理職の評価項目が、

売上高。

利益。

原価低減。

納期。

だけだったとします。

一方、品質問題を早期に報告したか、コンプライアンスを守ったかといった項目はほとんど評価されません。

すると管理職は、評価される数字を優先するようになります。

品質問題を報告して工場を止めた管理職より、問題を表面化させず利益目標を達成した管理職の方が高く評価される。

そのような実績が積み重なれば、社員は会社が本当に求めている行動を学習します。

報酬との結び付きが強いほど注意が必要になる

業績目標が賞与や昇進などと強く結び付いている場合には、さらに注意が必要です。

目標を達成すれば賞与が増える。

達成できなければ評価が下がる。

連続して未達になれば管理職から外される。

このような制度には社員の努力を引き出す効果があります。

一方で、数字を達成することへの強い誘因も生まれます。

目標まであと少しという状況では、

来月の売上高を今月へ前倒しできないか。

必要な費用を翌期へ回せないか。

検査を簡略化できないか。

という誘惑が生まれる可能性があります。

品質不正だけでなく、会計不正でも同じ構造が起こり得ます。

目標未達への恐怖が不正を生むこともある

社員を動かすのは報酬だけではありません。

恐怖も強い動機になります。

目標を達成できないと厳しく叱責される。

何度も説明を求められる。

会議で責任を追及される。

昇進できなくなる。

こうした環境では、社員にとって目標未達を報告すること自体が大きな負担になります。

すると、

問題を報告するより自分たちで何とかしよう。

今月だけ乗り切ろう。

次の月で修正しよう。

という行動が生まれることがあります。

最初は一時的な対応だったものが繰り返されれば、やがて通常の仕事のやり方になる可能性があります。

悪い情報を報告するとさらに数字が悪くなる

品質問題には特徴があります。

問題を正直に報告すると、業績がさらに悪化することがあります。

例えば不良品が見つかりました。

出荷を止めます。

追加検査をします。

不良品を廃棄します。

顧客へ補償します。

設備を改修します。

これらには費用がかかります。

つまり、品質問題を報告することによって、売上高が減り、費用が増え、利益が下がる可能性があります。

業績目標への圧力が非常に強い会社では、悪い情報を報告すること自体が目標達成をさらに難しくしてしまうのです。

数字を達成した人だけを評価すると何が起きるのか

会社が結果だけを見ていると、目標をどのように達成したのかが見えなくなります。

二人の工場長がいたとします。

一人は品質問題を発見して出荷を停止しました。

利益目標は未達になりました。

もう一人は利益目標を達成しました。

しかし、実際には必要な検査や承認を省略していました。

数字だけを見れば後者の方が優秀に見えます。

もし後者が高く評価され続ければ、組織全体に、

正しい方法より数字を達成することが重要だ。

というメッセージが広がります。

結果だけでなく、達成方法まで評価する必要があります。

目標と守るべき条件をセットにする

不正を防ぐためには、業績目標をなくせばよいわけではありません。

目標と同時に、守るべき条件を明確にすることが重要です。

例えば、

利益目標は達成する。

ただし品質基準を下げてはいけない。

原価を削減する。

ただし顧客承認が必要な変更を無断で行ってはいけない。

納期を守る。

ただし必要な検査を省略してはいけない。

という考え方です。

目標達成とコンプライアンスを別々に考えるのではなく、ルールを守ったうえで目標を達成することを求めます。

達成不可能だと分かった目標を修正できるか

経営環境は常に変化します。

原材料価格が急上昇する。

主要顧客の需要が減少する。

為替相場が大きく動く。

工場で設備トラブルが発生する。

当初は合理的だった目標でも、途中から現実的でなくなることがあります。

それでも最初の目標を絶対に変更しない会社では、現場との乖離が大きくなります。

目標を簡単に下げることは望ましくありませんが、前提条件が大きく変わった場合には見直せる仕組みも必要です。

達成できない数字を形式的に残し続けることが、必ずしも厳しい経営とは限りません。

経営者は数字だけでなく達成方法を見る必要がある

経営者が、

目標を達成しろ。

しかし不正はするな。

と言うだけでは十分ではありません。

どのように目標を達成したのかまで確認する必要があります。

急激に原価が下がったのはなぜか。

品質管理費を削っていないか。

設備保守を先送りしていないか。

必要な人員まで減らしていないか。

顧客との契約に反する変更をしていないか。

数字が良すぎる場合にも、その背景を確認する視点が必要です。

業績が良いこと自体を疑うのではなく、持続可能な方法で成果を出しているかを見るのです。

結論

業績目標は企業経営に必要なものです。

高い目標を設定すること自体が不正の原因になるわけではありません。

問題になるのは、目標達成が絶対視され、達成するための方法が問われなくなった場合です。

利益を達成するため品質管理費を削る。

原価を下げるため顧客に無断で材料を変更する。

納期を守るため必要な検査を省略する。

数字を良くするため悪い情報を報告しない。

こうした行動が起きれば、本来会社を成長させるための目標が、逆に会社の信用を傷つけることになります。

重要なのは、何を達成したかだけではありません。

どのように達成したかです。

業績目標と同時に、品質、コンプライアンス、顧客との約束など、絶対に越えてはいけない一線を明確にする必要があります。

そして、その一線を守った結果として目標未達になった社員が不当に不利益を受けない評価制度も必要です。

企業にとって本当に優れた業績とは、今期の数字を達成することだけではありません。

正しい方法で成果を生み出し、その成果を将来にわたって続けられる状態を作ることなのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 ニデック、品質不正850件

日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 ニデックの品質不正「業績圧力が原因」 コスト低減、強く要求

日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 ニデック社長「顧客の信頼失った」 一問一答

日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 調査報告書要旨

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