ふるさと納税をするとき、多くの人は民間の仲介サイトから寄付先や返礼品を探します。
しかし最近は、自治体が自ら寄付を受け付ける独自サイトを設ける動きが広がっています。
大きな理由が、ふるさと納税にかかる経費の削減です。
民間の仲介サイトを利用すれば多くの寄付者に自治体を知ってもらえる一方、自治体には手数料負担が発生します。
総務省はふるさと納税の経費率上限を段階的に引き下げ、2029年には40%とする方針です。
そこで仲介サイトだけに依存せず、寄付者から直接寄付を受け付ける独自サイトが注目されるようになっています。
自治体独自サイトとは何か
自治体独自サイトとは、民間のふるさと納税仲介サイトを経由せず、自治体自身が寄付者から寄付を受け付けるために設けるウェブサイトです。
自治体の公式ホームページに寄付受付機能を設ける場合もあれば、ふるさと納税専用のサイトを設ける場合もあります。
寄付者はサイトから寄付する自治体や使い道、返礼品などを選び、寄付の申し込みをします。
仕組みの基本部分は一般的な仲介サイトと大きく変わりません。
大きく違うのは、自治体と寄付者の間に大手の仲介サイトを入れずに寄付を受け付けられることです。
これによって、仲介サイトに支払っていた費用の一部を削減できる可能性があります。
仲介サイトとの違いは何か
楽天ふるさと納税やふるなびなどの仲介サイトには、全国の多くの自治体と返礼品が掲載されています。
寄付者は一つのサイトの中で自治体を比較できます。
肉が欲しい。
米が欲しい。
旅行券を探したい。
寄付額を3万円以内にしたい。
こうした条件から返礼品を検索できることが大きな特徴です。
一方、自治体独自サイトでは基本的に、その自治体への寄付を受け付けます。
たとえば東京都世田谷区の独自サイトを訪れた人は、世田谷区への寄付や返礼品、寄付金の使い道などを確認します。
全国の自治体を横断して比較するためのサイトではありません。
仲介サイトが大型ショッピングモールだとすれば、自治体独自サイトは自治体の直営店に近い存在と考えると分かりやすいでしょう。
なぜ独自サイトなら手数料を減らせるのか
民間の仲介サイトを利用すると、自治体には掲載や寄付受付、決済などに関連した費用が発生します。
前回の記事で紹介したように、仲介サイト経由の寄付について自治体が事業者へ支払う実質的な手数料は全国平均で寄付額の11.5%に達しています。
この負担は小さくありません。
仮に10億円の寄付を集め、そのすべてについて11.5%相当の費用がかかったと単純化すると、1億1500万円になります。
独自サイトから直接寄付してもらえば、大手仲介サイトに支払う費用の一部を削減できます。
もちろん独自サイトにもシステム運営費や決済費用などは必要です。
したがって経費がゼロになるわけではありません。
それでも仲介サイト経由より低いコストで寄付を受け付けられれば、その差額を地域の財源として残すことができます。
世田谷区が独自サイトを設けた理由
東京都世田谷区は2025年度、ふるさと納税を直接受け付ける独自サイトを設けました。
背景には二つの大きな問題があります。
一つがふるさと納税の経費です。
もう一つが住民税の流出です。
世田谷区では、区民が他の自治体へふるさと納税をすることによる住民税の流出額が2026年度に135億円となり、東京都内で最大となりました。
自治体にとって100億円を超える税収流出は大きな負担です。
その一方で、自ら寄付を受け付ける際にも高い経費を支払えば、地域に残る財源はさらに小さくなります。
そこで独自サイトを設け、少しでも寄付募集にかかる費用を抑えようとしているわけです。
独自サイトなら寄付者と直接つながれる
独自サイトには、単なる手数料削減とは別のメリットもあります。
自治体自身が寄付者へ地域の情報を発信できることです。
仲介サイトでは、多数の自治体や返礼品が同じ画面に並びます。
どうしても寄付額や返礼品の内容を比較する場になりやすくなります。
独自サイトなら、その自治体が抱える課題や寄付金の使い道、地域で活動する団体などを詳しく紹介できます。
子育てを応援してほしい。
文化財を守りたい。
災害からの復旧に使いたい。
動物保護活動を支援してほしい。
こうした寄付の目的を直接伝えることができます。
返礼品ではなく地域への共感を理由に寄付する人が増えれば、返礼品競争から距離を置くことにもつながります。
それでも仲介サイトをやめられない理由
独自サイトにメリットがあるなら、すべての自治体が仲介サイトをやめればよいようにも思えます。
しかし現実には簡単ではありません。
最大の問題は集客力です。
大手仲介サイトには、すでにふるさと納税を利用する多くの人が集まっています。
利用者は特定の自治体に寄付しようと考えているとは限りません。
欲しい返礼品から寄付先を探す人も多くいます。
肉を検索して初めて自治体を知る。
旅行券を検索して自治体を知る。
ランキングを見て寄付先を決める。
こうした偶然の出会いを作れるのが仲介サイトの強みです。
自治体独自サイトには、基本的にその自治体を知っている人や、何らかのきっかけで興味を持った人に訪問してもらう必要があります。
サイトを作っただけでは寄付者はやってきません。
検索エンジン対策も必要になる
そこで重要になるのが、自治体自身による情報発信です。
岡山県西粟倉村では、自治体のホームページでふるさと納税の案内を目立たせたり、検索エンジン最適化に取り組んだりしています。
寄付者がインターネットで地域や返礼品を検索したとき、自治体の情報へ直接たどり着きやすくするためです。
独自サイトを運営する場合には、このような工夫がさらに重要になります。
サイトを作る。
検索で見つけてもらう。
地域の魅力を伝える。
寄付してもらう。
その後も地域との関係を続けてもらう。
自治体自身が一連の流れを作る必要があります。
仲介サイトに支払っていた手数料の一部は、こうした情報発信やサイト運営のための費用へ置き換わることになります。
独自サイトだけに一本化する必要はない
自治体にとって現実的なのは、仲介サイトか独自サイトかの二者択一ではありません。
両方を使い分ける方法があります。
まだ自治体を知らない人には、仲介サイトで見つけてもらいます。
一度寄付して地域に関心を持った人には、次回から独自サイトを利用してもらいます。
このような流れを作ることができれば、仲介サイトの集客力を利用しながら、長期的には直接寄付の割合を増やせる可能性があります。
企業でいえば、大型通販サイトで新しい顧客と出会い、その後は自社サイトの利用者になってもらう考え方に近いでしょう。
自治体にとって重要なのは、単発の寄付を獲得するだけではなく、継続的に地域を応援してくれる人を増やすことです。
経費率40%で独自サイトの意味が大きくなる
自治体が独自サイトに注目する背景には、今後の経費規制があります。
総務省はふるさと納税の経費率上限を段階的に引き下げ、2029年には40%とします。
返礼品調達費には30%という上限があります。
仮に返礼品に30%近く使えば、経費率40%のもとでは、それ以外に使える経費の余地は10%程度しかありません。
そこから送料、仲介サイト手数料、決済費用、事務費などを支払うことになります。
全国平均11.5%という仲介サイト関連の負担をそのまま抱えていれば、40%という基準への対応が難しくなる自治体も出てきます。
そのため独自サイトによる直接寄付を増やし、仲介コストを削減する意味がこれまで以上に大きくなります。
寄付額ではなく手元に残る財源を見る
ふるさと納税では、自治体が集めた寄付総額が注目されがちです。
しかし100億円の寄付を集めても50億円の経費がかかれば、単純計算で残るのは50億円です。
80億円しか集められなくても経費が30億円なら、同じ50億円が残ります。
自治体にとって本当に重要なのは、寄付額そのものではなく経費を差し引いた後にいくら残るかです。
独自サイトは、そのための手段の一つです。
寄付総額を競うだけではなく、少ない経費で寄付を集めることが自治体の新しい競争力になっていきます。
結論
ふるさと納税の自治体独自サイトとは、楽天ふるさと納税やふるなびなどの民間仲介サイトだけに頼らず、自治体が寄付者から直接寄付を受け付けるための仕組みです。
大きなメリットは、仲介サイトに支払う費用の一部を削減し、寄付金をより多く地域に残せる可能性があることです。
一方、大手仲介サイトには圧倒的な集客力があります。
自治体が独自サイトを作っただけで、全国から寄付者が集まるわけではありません。
検索対策や情報発信を行い、地域そのものに関心を持ってもらう必要があります。
今後は仲介サイトで新しい寄付者と出会い、独自サイトで直接つながるという使い分けも重要になるでしょう。
2029年に経費率上限が40%まで引き下げられるなか、ふるさと納税は仲介サイトに任せて寄付を集める時代から、自治体自身が寄付者との関係を作る時代へ変わろうとしています。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 ふるさと納税、経費を圧縮 40%以下は177自治体
日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 ふるさと納税の経費圧縮 世田谷区、独自サイト開設