日本銀行は金融政策を担う中央銀行ですが、一般の企業と同じように収入と支出があり、決算では利益が生じることがあります。その利益の一部は最終的に国へ納められ、国の収入になります。これが日銀納付金です。
食料品の消費税率を1%へ引き下げる方針を巡っては、減税による税収減をどう補うのかが大きな問題となっています。その財源候補の一つとして注目されているのが日銀納付金です。しかし、日銀納付金は毎年一定額が入ってくる税収とは性格が大きく異なります。
日銀はどのように利益を得ているのか
日銀というと、お札を発行したり政策金利を決めたりする機関というイメージがあります。
しかし、日銀は巨大な資産を保有する金融機関でもあります。
長年の大規模な金融緩和によって国債などを大量に購入してきたため、その資産から利息などの収入が発生します。
日銀の主な収益源として重要なのが、保有する国債から得られる利息です。
一方、日銀には費用もあります。
代表的なのが金融機関が日銀に預けている当座預金に対して支払う利息です。
金利が上昇すると、この利払い負担が増加します。
つまり日銀の利益は単純に保有資産が大きければ増えるわけではありません。
資産から得る収益と、金融機関などに支払う費用との差によって大きく変化します。
日銀の利益は国へ納められる
日銀が決算で利益を計上しても、その利益すべてを自由に使えるわけではありません。
必要な準備金などを積み立てた後、残った利益は国庫へ納付されます。
これが日銀納付金です。
国から見ると税金以外の収入である税外収入に位置付けられます。
日銀が金融政策を通じて得た利益の一部が、最終的には国の財政へ還元される仕組みになっているのです。
2025年度の日銀納付金は約1兆8300億円となりました。
1兆円を超える規模となれば、政府にとって無視できない収入です。
そのため、大規模な減税を実施するときの財源候補として注目されることがあります。
ETFの運用益も日銀の収益になる
日銀は金融緩和政策の一環として、長年にわたり上場投資信託であるETFを購入してきました。
その結果、日銀は大量のETFを保有することになりました。
ETFを保有していれば、企業から支払われる配当などを背景とした分配金収入が発生します。
こうした収益も日銀の利益を押し上げる要因になります。
株価が長期的に上昇すれば、保有するETFには大きな含み益が生じる可能性もあります。
日銀が保有しているETFは、金融政策の結果として形成された巨大な金融資産でもあるのです。
ETF売却で利益は増えるのか
日銀は2026年1月から、金融緩和によって取得したETFの売却を始めています。
ここで注目されるのが売却益です。
購入した価格より高い価格でETFを売却できれば利益が生じます。
その利益が日銀全体の収益を押し上げれば、結果として国庫へ納める日銀納付金が増える可能性があります。
ただし、政府が必要な財源額に合わせて日銀にETFを売却させるという単純な仕組みではありません。
日銀は金融政策を担う独立性の高い中央銀行であり、市場への影響にも配慮する必要があります。
ETFを大量に売却すれば株式市場を下押しする可能性もあります。
そのため、売却には非常に長い時間をかける方針がとられています。
なぜ日銀納付金は毎年変わるのか
日銀納付金には大きな特徴があります。
金額が毎年一定ではないことです。
日銀の利益は、
国債から受け取る利息
当座預金へ支払う利息
ETFなどから得る収益
金融市場の状況
保有資産の構成
などによって変動します。
特に重要なのが金利です。
金融緩和の時代には、日銀が金融機関の当座預金に支払う利息は小さく抑えられていました。
ところが金利が上昇すると状況が変わります。
日銀が金融機関へ支払う利息が増加するため、収益を圧迫する可能性があります。
日銀の利上げが進めば、日銀自身の損益構造にも大きな変化が生じるのです。
消費税減税の財源として使えるのか
政府が2027年4月から予定する食料品の消費税減税では、年間約5兆円規模の税収減が見込まれています。
そのため日銀納付金を財源として活用する案が注目されます。
しかし、ここには重要な問題があります。
消費税は毎年継続的に入ってくる税収です。
これに対して日銀納付金は、金融政策や金利、市場環境によって変動する収入です。
たとえば今年1兆円を超える納付金があったとしても、翌年も同じ金額になる保証はありません。
一時的な収入を恒久的な歳出や減税の財源にすると、収入が減少したときに財政の穴が生じます。
安定財源と一時的な財源は分けて考える必要がある
財政を考えるうえでは、金額だけを見るのではなく、その収入がどれほど安定しているのかを見ることが重要です。
所得税や消費税なども景気によって変動しますが、経済活動が続く限り一定の税収を期待できます。
一方、日銀納付金や資産売却益などは金融市場や政策環境による変動が大きくなります。
そのため、臨時的な支出の財源として活用することと、社会保障や恒久減税など毎年続く政策の財源として利用することでは意味が違います。
食品消費税1%を2年間限定とした背景を考える際にも、この財源の性質は重要なポイントになります。
日銀の利益が増えれば単純に喜べるわけではない
もう一つ注意したいのは、日銀納付金の増加だけを見て政策の良し悪しを判断できないことです。
日銀の目的は国の財政収入を増やすことではありません。
物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資することが中央銀行としての重要な役割です。
金融政策の結果として利益が発生し、その一部が国庫へ納付されているにすぎません。
政府が日銀納付金を恒常的な財源として期待しすぎれば、中央銀行の金融政策と政府の財政政策との関係についても慎重な議論が必要になります。
結論
日銀納付金とは、日本銀行が得た利益から必要な準備金などを差し引いた後、国へ納めるお金です。国にとっては税金以外の重要な収入の一つとなっています。
日銀が保有する国債からの利息やETFの運用益などが利益を支える一方、金利上昇によって当座預金への利払いが増えれば利益が減少する可能性があります。そのため日銀納付金は毎年一定ではありません。
食品消費税1%への引き下げを巡って日銀納付金が財源候補として注目されても、それだけで年間約5兆円規模の減収を安定的に補えるわけではありません。
重要なのは財源の金額だけではなく、その収入が毎年安定して続くのかという視点です。消費税減税の議論は、税率を下げるかどうかだけでなく、日本の財政を長期的に何によって支えるのかという問題につながっています。
参考
日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
食品減税1%の代償 社保財源の聖域崩す 5兆円減収、確保策に限界