所得税⑧ 損益通算と損失の繰越控除(赤字の扱い)

税理士
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所得税は、原則として1年間の所得を合計して課税する仕組みですが、その過程では「赤字」の扱いが重要な意味を持ちます。第8回では、損益通算と損失の繰越控除という2つの制度を通じて、所得税における赤字の考え方と実務上のポイントを整理します。


損益通算とは何か(所得の相殺)

損益通算とは、ある所得で生じた損失(赤字)を、他の所得の利益(黒字)と相殺する制度です。

例えば、

・事業所得が赤字
・給与所得が黒字

という場合、事業の赤字を給与と相殺することで、全体の課税所得を減少させることができます。

この仕組みにより、個人の担税力をより正確に反映した課税が可能となります。


損益通算が認められる所得・認められない所得

すべての所得が自由に通算できるわけではありません。

原則として、次の所得に生じた損失は損益通算が可能です。

・事業所得
・不動産所得
・譲渡所得(一定のもの)
・山林所得

一方で、次のような所得は損益通算の対象外とされています。

・給与所得
・利子所得
・配当所得(一定の場合を除く)
・一時所得

これは、それぞれの所得の性質や課税方法の違いによるものです。


なぜ損益通算に制限があるのか

損益通算は納税者にとって有利な制度ですが、無制限に認めると租税回避の手段として利用される可能性があります。

例えば、意図的に赤字を作ることで他の所得を圧縮することができれば、税負担の公平が損なわれます。

このため、

・所得の性質
・経済的実態

を踏まえて、通算できる範囲が制限されています。


不動産所得の損益通算制限

実務上、特に重要なのが不動産所得に関する損益通算の制限です。

不動産投資では、減価償却費や借入金利子により帳簿上の赤字が生じることがあります。この赤字を他の所得と通算することで税負担を軽減することが可能ですが、一定のケースでは制限が設けられています。

例えば、

・土地取得に係る借入金利子
・特定の資産に係る損失

などについては、他の所得との通算が認められない場合があります。

この制限は、過度な節税スキームを防止するためのものです。


損失の繰越控除とは何か

損益通算を行ってもなお控除しきれない損失については、翌年以降に繰り越して控除することができます。これが損失の繰越控除です。

例えば、

・今年大きな赤字が出た
・翌年に利益が出た

という場合、前年の赤字を翌年の利益から差し引くことができます。

この制度により、単年度ではなく複数年にわたる担税力を反映した課税が実現されます。


繰越控除の適用要件

損失の繰越控除は、誰でも自由に使えるわけではありません。

主な要件としては、

・青色申告であること
・適正な帳簿を備え付けていること
・確定申告を行っていること

などが求められます。

これにより、制度の適用が適正に行われるよう担保されています。


繰越期間と実務上の影響

損失は一定期間にわたり繰り越すことができます。

この期間内に利益が発生すれば、過去の損失と相殺することが可能です。

この仕組みは、

・事業の収益が安定しない場合
・投資の収益が年度によって変動する場合

などにおいて、税負担を平準化する効果を持ちます。


損益通算と繰越控除の違い

両者は似ていますが、役割が異なります。

・損益通算:同一年内での相殺
・繰越控除:翌年以降での相殺

この違いを理解することで、所得税の時間的な構造が見えてきます。


実務上の重要ポイント

赤字の扱いに関しては、以下の点が特に重要です。

・どの所得が通算可能か
・通算制限の有無
・繰越控除の適用要件
・申告の有無による影響

これらは税額に直接影響するため、制度理解だけでなく、正確な手続が求められます。


結論

所得税における赤字の扱いは、

・損益通算による当年調整
・繰越控除による将来調整

という2つの仕組みによって構成されています。

これにより、単年度では捉えきれない経済活動の実態を反映した課税が可能となっています。

損失の取扱いを正しく理解することは、税負担の適正化だけでなく、事業や投資の意思決定にも大きな影響を与える重要なポイントです。


参考

税務大学校「所得税法(基礎編)」令和8年度版

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