日本では少子化が進み、子どもの数が全国的に減少しています。
ところが、その流れとは逆に、15歳未満の子どもの数が増えている自治体があります。
2026年1月1日時点のデータを5年前と比較すると、15歳未満人口が増えた自治体は48市区町村ありました。
全国の市区町村の約3%にすぎません。
なぜ、一部の地域では子どもが増えているのでしょうか。
そこから見えてくるのが、仕事ではなく「子どもの教育」をきっかけに家族が住む場所を変える「教育移住」という新しい人口移動です。
全国では子どもが10.9%減っている
総務省の住民基本台帳に基づく人口調査によると、2026年1月1日時点の15歳未満人口は1,364万6,698人でした。
2021年と比べて10.9%減っています。
しかも、47都道府県すべてで15歳未満人口が減少しました。
減少率が最も小さい東京都でも6.0%減、秋田県では19.1%減となっています。
市区町村別にみても、1,693市区町村で子どもの数が減少しました。
つまり、子どもが減ることが日本の圧倒的な大勢です。
そのなかで48自治体だけが増加したという事実には、地域再生を考えるうえで重要なヒントがあります。
子どもが増えた自治体には2つのタイプがある
48自治体をみると、大きく2つのタイプがあります。
一つは、住宅開発や交通利便性の向上によって子育て世帯を呼び込んだ都市型です。
東京都中央区、千葉県流山市、茨城県つくば市などが代表例です。
もう一つが、自然環境や少人数教育などを武器に子育て世帯を呼び込む地方型です。
奈良県の山村などがこれに当たります。
興味深いのは、子どもを増やす方法が一つではないことです。
大都市では住宅や交通、保育サービスが重要になります。
一方、地方では都市部にはない教育環境そのものが移住理由になります。
教育移住とは何か
従来の地方移住では、仕事が重要な条件でした。
地方に働く場所がなければ、家族で移住することは難しかったからです。
ところが、リモートワークの普及などによって、勤務先と居住地を切り離せる人が増えてきました。
そこで住む場所を決める新しい基準として浮上しているのが教育です。
大規模な学校ではなく、少人数の学校で学ばせたい。
自然のなかで子どもを育てたい。
地域の人たちとの交流を経験させたい。
こうした教育環境を優先して家族で移住するのが教育移住です。
地方にとって教育は、人口流出を防ぐための行政サービスというだけではなく、外から人を呼び込むための地域資源になり始めています。
奈良県では移住前の体験を重視する
奈良県では、県南部と東部の19市町村からなる「奥大和」で移住促進に取り組んでいます。
各市町村では移住体験住宅、シェアオフィス、テレワーク施設などを計31施設整備しました。
県が費用の半分を負担しています。
さらに特徴的なのが、いきなり移住を勧めるのではなく、まず地域で暮らしてもらう取り組みです。
県は地域住民の自宅へのホームステイを仲介する移住体験事業を実施しています。
2022年度から4年間で15組を受け入れ、そのうち6組が実際に移住を決めました。
移住には大きな生活変化を伴います。
インターネットで情報を見ただけで決断するのは難しいでしょう。
まず地域を訪れ、暮らし、学校や住民との関係を体験してもらう。
この段階を設けることが移住につながっています。
少人数教育そのものが地域の武器になる
奈良県川上村では、2024年に「かわかみ源流学園」が開校しました。
併設する保育園と合わせ、幼児期から義務教育修了まで12年間を一貫した教育方針でつなげています。
特徴は少人数教育です。
小中学生約50人が同じランチルームで給食を食べ、毎月異なるテーマで席を替えます。
学年を越えて子ども同士が交流し、教員とも日常的に話せる環境をつくっています。
同村教育委員会によると、移住者の子どもが6~7割を占めています。
これは非常に重要な数字です。
学校が単に地域の子どもを教育する施設ではなく、地域外から家族を呼び込む装置になっているからです。
北海道東川町では学校そのものをまちづくりに使う
北海道東川町でも教育環境が移住の吸引力になっています。
2014年に移転開校した東川小学校では、約4ヘクタールの学校敷地に加え、周囲にサッカー場、野球場、体験水田、体験農園、果樹園などが整備されています。
校舎にも長い廊下や壁を少なくしたオープンスペース型の学習環境があります。
町内の出生数は年間40人程度ですが、小学校入学時にはその学年の人数が5割程度増えるとされています。
つまり、出生数だけでは説明できない子どもの増加が起きています。
町外から子育て世帯が入ってくるためです。
旭川空港へのアクセスなどを生かし、関東の企業にリモート勤務しながら東川町で子育てする家庭もあります。
仕事は都市部、生活と教育は地方という組み合わせが可能になっているのです。
都市部では住宅と交通が子どもを呼び込む
一方、東京都中央区では別の形で子どもが増えています。
2026年の15歳未満人口は2万6,092人で、5年前より10.4%増えました。
背景にあるのがタワーマンションなどの住宅供給です。
晴海地区では東京五輪・パラリンピックの選手村跡地を活用した晴海フラッグへの入居が2024年に始まり、短期間で1万人を超える街が誕生しました。
子育て世帯が大量に入居したため、小学校の児童数が想定以上に増えています。
中央区は新校舎の建設を1年前倒しし、それまでの対応としてプレハブの仮設校舎も整備します。
地方では子どもをどう呼び込むかが課題ですが、人口増加地域では増えた子どもの教育環境をどう確保するかが課題になります。
流山市は交通と保育を組み合わせた
千葉県流山市では、2021年から2026年までの5年間で15歳未満人口が2,788人増え、3万4,646人になりました。
増加数は全国最多です。
大きな転機となったのが、2005年のつくばエクスプレス開業です。
東京へのアクセスが改善すると同時に沿線で住宅開発が進み、若い子育て世帯が流入しました。
ただし、住宅を増やすだけでは子育て世帯は定着しません。
流山市は大型マンションの開発業者に保育園整備を条件付けるなどして保育施設を増やしました。
認可保育園は2010年の17園から2026年9月には106園まで増えています。
さらに駅前で子どもを預かり、市内の保育所までバスで送迎する「駅前送迎保育ステーション」も導入しています。
住宅、鉄道、保育を一体として考えることで子育て世帯を呼び込んできたわけです。
つくば市では地域の知的資源を教育に使う
茨城県つくば市では、5年間で15歳未満人口が1,600人以上増えました。
つくば市の特徴は研究学園都市という地域資源を学校教育に結び付けていることです。
市内には約2万人の研究者がいます。
その研究者が公立小中学校で先生役を務める体験型教育事業「つくばSTEAMコンパス」を2021年度から実施しています。
2025年度には研究所など17機関から35人の研究者が参加しました。
地域にある大学、企業、研究所、自然、文化などを学校教育に組み込めば、その地域でしか受けられない教育をつくることができます。
これは地方自治体にも応用できる考え方でしょう。
学校は地域のコストから資産へ変わる可能性がある
全国では学校そのものが減っています。
2026年5月1日時点の小中学校は2万8,144校で、5年前より1,268校減りました。
子どもが減れば学校の統廃合が進みます。
学校がなくなると、さらに子育て世帯が住みにくくなり、若い世代が地域から離れる可能性があります。
子どもが減る。
学校がなくなる。
子育て世帯がさらに減る。
こうした循環に陥る地域も出てくるでしょう。
しかし教育移住は、この流れを逆方向へ動かす可能性があります。
魅力ある学校をつくる。
子育て世帯が移住する。
子どもが増える。
地域で住宅やサービスへの需要が生まれる。
地域社会を支える人も増える。
学校を単なる行政コストとして考えるのではなく、地域経営の資産として捉える発想です。
結論
日本全体で子どもが増えているわけではありません。
2021年から2026年までの5年間で15歳未満人口は10.9%減少しています。
そのなかで子どもが増えた自治体はわずか48市区町村でした。
しかし、その48自治体を見ると重要な共通点があります。
子育て世帯が「そこに住みたい」と考える明確な理由をつくっていることです。
都市部では住宅、交通、保育がその理由になります。
地方では自然、少人数教育、地域との交流、その土地ならではの学びが理由になります。
特に教育移住が示しているのは、学校の役割の変化です。
これまで学校は、そこに住む子どものためにつくる公共施設でした。
これからは魅力ある学校があるから家族が移住し、その結果として地域に子どもが増えるという逆の流れも考えられます。
少子化そのものを一つの自治体が止めることはできません。
それでも、子育て世帯から選ばれる地域をつくることはできます。
人口減少時代の地域再生では、学校を残すために地域を維持するだけでなく、地域を維持するために学校をどう活用するかという視点が、これまで以上に重要になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 教育移住で子ども増 奈良の山村など48自治体
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 中央区、子ども増に対応 晴海の小学校、新校舎急ぐ