企業年金の運用では、国内債券や国内株式、外国債券、外国株式など、さまざまな資産にお金を分けて投資します。
しかし、その時々の相場を見ながら自由に投資先を変えているわけではありません。
企業年金では、中長期的にどの資産へどの程度のお金を配分するのかという基本方針をあらかじめ決めています。
これが政策アセットミックスです。
例えば国内債券20%、国内株式10%などと基本的な資産配分を決め、その配分を軸として長期間運用します。
企業年金にとって重要なのは、今年最も値上がりしそうな資産を当てることではありません。
将来約束した年金を安定して支払えるように、必要な収益と許容できるリスクのバランスを取ることなのです。
政策アセットミックスとは何か
アセットとは資産という意味です。
アセットミックスは、複数の資産をどのような割合で組み合わせるかという資産配分を意味します。
企業年金では一般的に、
国内債券
国内株式
外国債券
外国株式
オルタナティブ資産
などを組み合わせて運用します。
そして、中長期的に維持する基本的な資産配分を政策アセットミックスとして設定します。
例えば、
国内債券20%
国内株式10%
外国債券20%
外国株式20%
オルタナティブ資産30%
というような形です。
実際の割合は企業年金によって異なります。
重要なのは、毎日の相場予想で資産配分を決めるのではなく、長期的な年金財政を基準として基本配分を決めることです。
なぜ一つの資産だけで運用しないのか
企業年金が複数の資産へ投資する最大の理由は分散です。
例えばすべての資金を株式へ投資したとします。
株価が上昇すれば大きな利益を得られます。
しかし金融危機などで株価が急落すれば、年金資産も大きく減少します。
反対に、すべてを安全性の高い国債へ投資すれば価格変動リスクなどを抑えやすくなりますが、金利が低い環境では必要な収益を確保できない可能性があります。
そこで異なる値動きをする複数の資産を組み合わせます。
一つの資産が値下がりしても、別の資産が値上がりすれば損失をある程度補える可能性があります。
企業年金では、収益を追求すると同時に大きな損失を避けることが重要なのです。
予定利率から必要な収益を考える
政策アセットミックスを決めるうえで重要になるのが予定利率です。
確定給付企業年金では、将来の年金給付に必要な資金を準備するため一定の運用収益を想定します。
例えば予定利率が2.5%だとします。
企業年金は長期的にその水準を意識しながら運用する必要があります。
国内債券だけでは1%程度しか期待できないのであれば、それだけでは必要な収益を確保することが難しくなります。
そこで株式や外国債券などを組み合わせます。
一方、国内債券から3%程度の利回りを得られる環境になれば、同じ予定利率2.5%でも資産配分は変わってきます。
以前ほど株式などで大きなリスクを取らなくても、必要な収益を確保できる可能性が出てくるからです。
超低金利で国内債券の比率は低下した
日本の企業年金では長年、国内債券の比率を減らす動きが続いてきました。
参考記事によると、政策アセットミックスに占める国内債券の比率は2010年には38%でした。
それが2015年には30%、2020年には19%まで低下しました。
大きな理由が超低金利です。
国内債券から十分な利回りを得られなくなったため、企業年金はより高い収益を期待できる資産へ資金を移しました。
外国債券や外国株式だけでなく、不動産やインフラなどのオルタナティブ資産もその受け皿となりました。
政策アセットミックスは固定されたものではありません。
長期的な運用環境が変われば見直されるのです。
金利3%で国内債券の役割が変わる
国内金利の上昇によって、その流れが反転する可能性が出てきました。
長期金利の指標となる10年国債利回りが3%台まで上昇すると、国内債券そのものから一定の利回りを得られるようになります。
参考記事では、企業年金の2026年度の予定利率の平均は2.28%となっています。
国債の利回りが予定利率を上回る水準になれば、企業年金にとって国内債券の魅力は大きく高まります。
以前なら予定利率を確保するため、
国内債券を減らす
株式や外国資産を増やす
という判断が必要でした。
ところが今後は、
国内債券を増やす
株式などのリスク資産を減らす
という反対の動きが可能になります。
政策アセットミックスそのものが金利のある世界に合わせて変化する可能性があります。
相場が上がりそうだから株式を増やすわけではない
政策アセットミックスと短期的な投資判断は区別する必要があります。
例えば、
来年は日本株が上がりそうだから国内株式を20%から40%へ増やす
といった判断は、政策アセットミックス本来の考え方とは異なります。
政策アセットミックスは数年からさらに長い期間を想定した基本的な資産配分です。
そのため、
どの程度の収益が必要なのか
どの程度の損失まで耐えられるのか
将来どの程度の年金給付が発生するのか
といった長期的な条件から決めます。
短期的な相場予想を当てることではなく、長期間続けられる運用構造をつくることが目的です。
実際の資産配分は少しずつずれる
政策アセットミックスを決めても、実際の資産配分が常にその割合になるわけではありません。
例えば国内株式20%を基本配分としていたとします。
その後、日本株が大きく上昇すれば、株式の時価が増えるため実際の比率は25%になるかもしれません。
反対に株価が下落すれば15%になることもあります。
このように市場価格の変動によって実際の資産配分は政策アセットミックスからずれていきます。
そこで一定以上ずれた場合には資産を売買して基本配分へ戻します。
これをリバランスと呼びます。
値上がりした資産を一部売り、値下がりして比率が低下した資産を買うことになります。
政策アセットミックスは企業年金ごとに違う
すべての企業年金が同じ政策アセットミックスを採用しているわけではありません。
企業年金によって、
加入者の年齢構成
年金受給者の人数
積立状況
予定利率
企業の財務体力
許容できるリスク
などが異なるからです。
例えば若い加入者が多く、実際の年金支払いがかなり先になる企業年金なら、長期的な運用を考えて株式を比較的多く持つこともできます。
一方、年金受給者が多く、毎年多額の給付が必要になる企業年金では、安定した利息や償還金を得られる債券を重視することがあります。
したがって、どの資産配分が正解かは企業年金によって異なります。
国内債券を増やすことにもリスクはある
国内金利が上昇したからといって、国内債券の比率を無制限に増やせばよいわけではありません。
債券にもリスクがあります。
特に金利がさらに上昇すると、既に保有している債券の市場価格は下落します。
長期間満期まで保有できるのであれば途中の価格変動をそれほど気にしなくてもよい場合がありますが、途中で売却する可能性があれば価格下落の影響を受けます。
さらに物価上昇率が高ければ、名目上3%の利回りがあっても実質的な購買力がそれほど増えない可能性があります。
政策アセットミックスでは、単純な利回りだけでなく、さまざまなリスクを考える必要があります。
資産配分は個別商品の選択より重要になる
企業年金の運用というと、
どの株を買うのか
どの運用会社を選ぶのか
どの投資信託を使うのか
といった個別商品の選択に目が向きがちです。
しかし、その前に重要なのが資産配分です。
国内債券を10%持つのか30%持つのかでは、年金資産全体の値動きが大きく変わります。
株式を20%持つのか50%持つのかでも、期待できる収益とリスクは大きく異なります。
まず年金資産全体の設計を決め、その後で各資産をどの運用会社に任せるのかを考える。
政策アセットミックスは、その最初の設計図に当たります。
結論
政策アセットミックスとは、企業年金が中長期的にどの資産へどの程度の割合で投資するのかを定めた基本的な資産配分です。
企業年金は国内債券、国内株式、外国債券、外国株式、オルタナティブ資産などを組み合わせ、必要な収益と許容できるリスクのバランスを取ります。
超低金利時代には、国内債券から十分な利回りを得られなかったため、国内債券の比率を減らして外国資産やオルタナティブ資産などを増やす動きが続きました。
しかし国内金利が上昇し、国債から予定利率に近い、あるいはそれを上回る利回りを得られるようになれば状況は変わります。
企業年金は以前ほど大きなリスクを取らなくても、必要な収益を確保できる可能性があります。
企業年金の国内債券回帰とは、単に国債を買う企業年金が増えるという話ではありません。
長年の超低金利を前提につくられてきた政策アセットミックスそのものが、金利のある世界に合わせて再設計され始めているということなのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 企業年金、国内債に回帰 配分増加意向、過去最大 利回り回復で投資妙味