人生100年時代を迎えた日本では、「どこまで長く生きるか」だけでなく、「どのように暮らし続けるか」が大きな課題になっています。
その中で見落とされがちなのが、「移動」の問題です。
病院へ通う、買い物に行く、友人と会う、地域の行事に参加する。こうした日常の行動は、移動できることが前提になっています。
しかし、高齢になると運転免許を返納したり、身体機能が低下したりして、自由な移動が難しくなることがあります。
こうした課題を支える仕組みとして、近年注目されているのが「移動支援サービス」です。
今回は、高齢社会における移動支援の役割と可能性について考えてみたいと思います。
移動支援サービスとは何か
移動支援サービスとは、高齢者や障害のある方など、移動に不安を抱える人を支援するさまざまな取り組みを指します。
例えば、
・福祉有償運送
・地域ボランティアによる送迎
・病院への送迎サービス
・買い物支援車両
・オンデマンド交通
・グリーンスローモビリティ
などが代表的な例です。
これらに共通する目的は、「目的地まで運ぶこと」だけではありません。
誰もが住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる環境を整えることにあります。
移動できることが健康につながる
移動支援は、単なる利便性の向上ではありません。
外出する機会が増えれば、自然と歩く機会も増えます。
人と会話をする機会が増え、地域とのつながりも生まれます。
こうした日常の積み重ねは、身体機能だけでなく、認知機能や心の健康にも良い影響を与えると考えられています。
反対に、移動が難しくなり外出が減ると、自宅に閉じこもる時間が長くなり、社会との接点も少なくなります。
移動支援は、高齢者の健康寿命を延ばすための重要な基盤でもあるのです。
家族だけに頼らない仕組みが必要になる
これまでは、高齢者の移動を家族が支える場面が多くありました。
しかし、共働き世帯の増加や核家族化が進み、家族だけで支え続けることは難しくなっています。
送迎のために仕事を休んだり、遠方から駆けつけたりすることは、大きな負担になる場合もあります。
だからこそ、地域全体で支える移動支援の仕組みが重要になります。
行政、交通事業者、医療機関、福祉施設、地域住民などが役割を分担することで、持続可能な支援体制を築くことができます。
デジタル技術との融合が可能性を広げる
近年は、デジタル技術を活用した移動支援も広がっています。
スマートフォンによる配車予約、AIを活用した運行計画、MaaSとの連携などにより、利用者一人ひとりに合った移動サービスを提供できるようになりつつあります。
一方で、高齢者の中にはデジタル機器の利用に不安を感じる方もいます。
そのため、電話予約や窓口での相談など、誰もが利用しやすい方法を残すことも欠かせません。
デジタル化は目的ではなく、利用者の安心と利便性を高めるための手段であることを忘れてはならないでしょう。
移動支援は地域の未来への投資である
移動支援サービスは、福祉にかかる費用として捉えられることがあります。
しかし、見方を変えれば、地域社会への投資とも考えられます。
高齢者が外出しやすくなれば、地域の商店を利用する機会が増えます。
地域活動への参加が活発になれば、住民同士のつながりも深まります。
医療や介護が必要になる前の段階で健康的な生活を維持できれば、将来的な社会保障費の抑制にもつながる可能性があります。
移動を支えることは、人を支えるだけでなく、地域全体の活力を支えることにもつながるのです。
結論
高齢社会において、移動支援サービスは単なる交通サービスではありません。
それは、人々の健康や生きがい、地域とのつながりを支える重要な社会インフラです。
家族だけに頼る時代から、地域全体で支え合う時代へ。
そして、交通、福祉、医療、デジタル技術を組み合わせながら、一人ひとりに合った移動を実現する時代へ。
人生100年時代に求められるのは、「長く生きること」だけではなく、「最後まで自分らしく地域で暮らし続けられること」です。
移動支援サービスは、その願いを支える大切な仕組みとして、これからさらに重要性を増していくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年7月10日 朝刊
「グリスロ 住民が育てる 小型低速EV、地域の足に 葛飾 細道運行、高齢者支える 千葉・美浜 カート型で交流も促進」
日本経済新聞 2026年7月10日 朝刊
「探訪 ググッと首都圏 慎重な運転・免許返納へ道 親身に向き合い自覚促す 埼玉県警・岩槻高齢者講習センター(さいたま市)」