日本の少子化対策は、長い間、子どもが生まれた後の支援を中心に考えられてきました。
児童手当があります。
保育サービスがあります。
育児休業があります。
教育費への支援もあります。
これらはどれも重要です。
しかし、2025年の出生動向基本調査から見えてきたのは、少子化が子どもが生まれるよりずっと前から始まっているという現実です。
結婚するかどうか。
どこに住むのか。
仕事を続けられるのか。
何人の子どもを持てるのか。
若い世代は人生全体を考えながら家庭形成を判断しています。
これからの少子化対策には、子育て支援から人生設計支援へと視野を広げる発想が必要です。
結婚する前から少子化は始まっている
2025年の出生動向基本調査では、18歳から34歳の未婚者で、一生結婚するつもりはないと答えた割合が男性24.0パーセント、女性21.5パーセントでした。
初めて男女とも2割を超えました。
一方、いずれ結婚するつもりと答えた割合は男性75.1パーセント、女性77.8パーセントとなり、初めて男女とも8割を下回りました。
日本では結婚と出生の結びつきが強いため、結婚希望の低下は将来の出生数にも影響する可能性があります。
子どもが生まれてから支援を始めるだけでは、政策の入口が遅いという問題が見えてきます。
若者の所得が人生設計の出発点になる
結婚や出産には、長期的な家計への見通しが必要です。
現在の生活費だけではありません。
住宅費があります。
子育て費用があります。
教育費があります。
自分たちの老後資金も必要です。
現在は結婚を望んでいない人の中でも、収入や貯蓄が増えれば結婚希望に変わる可能性があるとした割合は男性56.1パーセント、女性44.6パーセントでした。
若者が将来を考えるためには、まず生活を安定させる所得が必要です。
少子化対策と賃金政策を切り離して考えられない理由です。
住宅は家庭形成の土台になる
結婚すれば、二人で生活する住居が必要になります。
子どもを考えれば、さらに広い住宅が必要になる場合があります。
住宅価格や家賃が高ければ、結婚や出産を先送りする理由になります。
住宅費を抑えるため郊外へ移れば、通勤時間が長くなる可能性があります。
今度は子育てに使える時間が減ります。
住宅と仕事と子育ては別々の問題ではありません。
どこに住み、どこで働き、どのように子どもを育てるのかという一つの人生設計として考える必要があります。
結婚できても少子化は終わらない
仮に結婚する若者が増えても、それだけで少子化が解決するわけではありません。
2025年の調査では、夫婦が予定する子どもの数は平均1.95人となり、初めて2人を下回りました。
理想子ども数も2.18人まで低下しています。
さらに、結婚期間0年から4年の夫婦では、理想と予定の子ども数がともに2人を下回りました。
少子化は未婚者だけの問題ではありません。
結婚した夫婦の家族計画そのものも変化しています。
教育費の不安は何十年も先まで続く
理想の人数の子どもを持たない理由で最も多かったのは、子育てや教育にお金がかかりすぎることで52.9パーセントでした。
子どもを持つかどうかを考えるとき、親は出産直後の費用だけを見ているわけではありません。
保育園があります。
学校があります。
塾や習い事があります。
大学進学もあります。
子どもが生まれてから成人するまでの長い期間を考えます。
教育費の総額や将来負担が見えにくければ、子どもの人数を慎重に考えることになります。
人生設計支援には、長期的な教育費を見通せる環境も必要です。
共働きだけではなく共育てが必要になる
住宅費や教育費を負担するためには、夫婦とも働くことが重要になります。
しかし、二人とも長時間働けば、今度は育児に使える時間が不足します。
そこで必要になるのが共育てです。
夫婦がともに仕事を続けながら、ともに家事や育児を担える働き方です。
男性が育児休業を取りやすい。
子どもが病気になったときに夫婦どちらでも休める。
柔軟な勤務時間を利用できる。
必要に応じて在宅勤務ができる。
少子化対策では、所得と同時に時間を支援する発想が必要になります。
人生の各段階を別々に支援しない
これまでの政策は、雇用、住宅、結婚、出産、保育、教育などを別々の政策分野として考える傾向がありました。
しかし、若い人にとってはすべて一つの人生です。
就職する。
所得を得る。
住居を確保する。
結婚する。
子どもを持つ。
仕事を続ける。
子どもを教育する。
老後に備える。
一つ前の段階でつまずけば、その後の人生設計にも影響します。
少子化対策では、この流れ全体を見る必要があります。
支援はもっと早く始める必要がある
児童手当や保育サービスは、基本的には子どもが生まれた後の支援です。
しかし、若い世代が結婚や出産を考える時点では、その前から様々な不安を抱えています。
所得は安定するのか。
住宅を確保できるのか。
結婚後も仕事を続けられるのか。
子どもを持ったら教育費を払えるのか。
こうした疑問に対して将来を見通せることが重要です。
子どもが生まれてから支援するだけではなく、家庭をつくる前から生活基盤を安定させることが必要になります。
人生設計支援は結婚を強制する政策ではない
人生設計支援という考え方で最も注意しなければならないのは、特定の人生を押しつけないことです。
結婚しない人生もあります。
子どもを持たない人生もあります。
政策が結婚や出産を求めるべきではありません。
重要なのは選択肢を広げることです。
結婚したい人が所得不足で諦めなくてもよい。
子どもが欲しい人が住宅費で諦めなくてもよい。
もう1人欲しい家庭が教育費や長時間労働で諦めなくてもよい。
本人が望む人生を選べる環境を整えることが人生設計支援です。
少子化対策を長期的な国家戦略として考える
少子化は短期間では解決できません。
現在生まれた子どもが働き手になるまでには約20年かかります。
そのため、政策の効果も長い時間軸で考える必要があります。
出生数だけではありません。
結婚希望。
婚姻件数。
理想子ども数。
予定子ども数。
若者の所得。
住宅負担。
育児時間。
こうした複数の指標を見ながら、政策を継続的に改善する必要があります。
少子化対策は単年度の予算事業ではなく、日本社会を数十年先までどのように維持するのかという長期的な政策です。
結論
2025年の出生動向基本調査から見えてきたのは、日本の少子化が一つの原因で起きているわけではないということです。
結婚希望が低下しています。
結婚する前には所得や住宅の壁があります。
結婚後には教育費や育児負担があります。
夫婦が予定する子どもの数も平均1.95人まで低下しました。
これらを別々の問題として対策するだけでは十分ではありません。
若い世代が就職し、所得を得て、住居を確保し、希望すれば結婚し、子どもを持ち、仕事を続けながら育てられる。
その一連の人生を支える視点が必要です。
少子化対策を子どもが生まれた後の子育て支援だけに限定するのではなく、若い世代が将来を描ける人生設計支援へ広げていくこと。
そして、結婚するかどうか、子どもを持つかどうかという個人の自由を尊重しながら、希望する人生を経済的、時間的な理由で諦めなくてもよい社会をつくること。
それがこれからの少子化対策に求められる方向なのだと思います。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 一生結婚しない2割超
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 生活不安で結婚ためらう 家庭築く準備、支援薄く