自治体の財政を見るとき、現在の借金返済額だけを確認しても十分ではありません。
今の公債費が少なくても、大型公共事業のために地方債を大量に発行していれば、将来の返済負担が大きくなる可能性があります。
さらに自治体が将来負担する可能性のあるものは、一般会計の地方債だけではありません。
公営企業に関係する負担や一部事務組合などへの負担、職員の退職手当など、将来の財政を圧迫する可能性のあるさまざまな負担があります。
こうした将来の実質的な負担が、自治体の財政規模に対してどの程度あるのかを見る指標が将来負担比率です。
実質公債費比率が現在の借金返済負担を見る指標だとすれば、将来負担比率は将来の財政をどの程度予約してしまっているのかを見る指標と考えると分かりやすいでしょう。
大型公共投資と金利上昇が重なる時代には、現在の財政だけでなく将来の負担まで見ることが重要になります。
将来負担比率とは将来の財政負担を見る指標
将来負担比率とは、地方自治体が将来負担することになる実質的な負債などが、標準的な財政規模に対してどの程度あるのかを示す指標です。
自治体には地方債という分かりやすい借金があります。
しかし将来の負担は地方債だけではありません。
一般会計が将来負担する可能性のあるさまざまな金額を幅広く把握し、そこから返済に利用できる基金などを考慮して、財政規模との関係を見ます。
比率が高ければ、それだけ将来の財政を拘束する負担が大きいことを意味します。
反対に比率が低ければ、将来負担に対する財政的な余力が比較的大きいと考えることができます。
実質公債費比率とは時間軸が違う
将来負担比率と一緒に理解しておきたいのが実質公債費比率です。
実質公債費比率は、地方債の元利償還金など毎年度の実質的な公債費が、自治体の財政規模に対してどの程度あるのかを見る指標です。
いわば現在の年間返済負担を見るものです。
これに対して将来負担比率は、地方債残高など将来負担することになる金額を幅広く捉えます。
家計に置き換えると分かりやすくなります。
住宅ローンの年間返済額が年収の何%を占めるのかを見るのが実質公債費比率に近い考え方です。
一方、住宅ローンの残高など将来返済しなければならない負担全体が、家計の収入規模に対してどの程度あるのかを見るのが将来負担比率に近い考え方です。
現在と将来の二つの視点から自治体の借金負担を見るわけです。
地方債残高は将来負担の中心になる
将来負担比率を構成する重要な項目が地方債残高です。
地方債は自治体がすでに借りているお金なので、将来元金を返済しなければなりません。
例えば自治体が1000億円の地方債を新たに発行した場合、発行した年度には1000億円の資金が入ってきます。
その資金を使って道路や学校などを整備できます。
しかし同時に、将来返済しなければならない債務も1000億円増えます。
大型公共事業が相次ぎ地方債残高が増加すれば、他の条件が同じなら将来負担比率を押し上げる方向に働きます。
現在の公債費がまだ増えていなくても、地方債を発行した段階で将来の返済義務は生じています。
そのため将来負担比率は、大型公共投資の影響を将来の返済が本格化する前から考えるうえで重要な指標になります。
一般会計の地方債だけを見るわけではない
将来負担比率の特徴は、一般会計の地方債残高だけを対象にしていないことです。
自治体には上下水道や交通などの公営企業があります。
また複数の自治体が共同で行政サービスを行う一部事務組合や広域連合などもあります。
こうした組織の債務であっても、将来的に一般会計が負担することになる部分があれば、自治体の実質的な将来負担になります。
さらに地方独立行政法人などに関係する負担や、一定の条件を満たす第三セクターなどへの負担が考慮される場合もあります。
形式的に一般会計の帳簿に載っている借金だけを見るのではなく、最終的に自治体財政が負担する可能性のあるものを幅広く捉える考え方です。
退職手当も将来負担になる
将来負担比率では、借金以外の負担も考えます。
代表的なのが職員の退職手当です。
自治体職員が将来退職すれば、自治体は退職手当を支払います。
現時点ではまだ支払っていなくても、すでに勤務している職員について将来一定の支出が見込まれます。
そのため一定の考え方に基づいて算定した退職手当負担見込額も、将来負担として考慮されます。
これは将来負担比率が単なる地方債残高比率ではないことを示しています。
自治体が将来負担する可能性のある財政負担を総合的に把握するための指標なのです。
基金は将来負担から差し引いて考える
将来負担比率を考えるうえで非常に重要なのが基金です。
自治体に借金があっても、その返済に利用できる貯金を十分持っていれば、実質的な負担は小さくなります。
例えば地方債など将来負担する金額が1000億円ある自治体を考えます。
返済に使える基金がほとんどない自治体と、500億円の基金を確保している自治体では財政状態が違います。
そのため将来負担比率では、将来負担額をそのまま財政規模と比較するわけではありません。
地方債の償還などに充てることができる基金など、将来負担を軽減できる財源を一定のルールで差し引いて考えます。
借金だけでなく、その返済に備えてどれだけ資金を確保しているのかを見るわけです。
減債基金が重要になる理由
地方債の返済に備えて自治体が積み立てる代表的な基金が減債基金です。
例えば満期一括償還方式の地方債では、満期になったときに多額の元本を返済しなければなりません。
その負担に備えて自治体は毎年度一定額を減債基金に積み立てます。
地方債残高が大きくても、それに対応した減債基金を十分確保していれば、実質的な将来負担は軽くなります。
反対に地方債残高が増えているのに、返済に備える基金が十分積み上がっていなければ、将来負担は重くなります。
自治体財政を見る場合には地方債残高だけでなく、減債基金など返済財源との組み合わせを見ることが重要です。
将来負担比率には早期健全化基準がある
将来負担比率は、財政健全化法に基づく健全化判断比率の一つです。
一定水準を超えると、自治体は財政健全化に向けた対応を求められます。
早期健全化基準は、都道府県と政令指定都市では400%、その他の市町村では350%です。
この水準以上になると、財政健全化計画の策定などが必要になります。
例えば350%という数字だけを見ると非常に大きく感じます。
しかし将来負担比率は地方債だけでなく、将来負担する可能性のあるさまざまな金額をまとめ、それを標準的な財政規模などとの関係で示した指標です。
重要なのは基準を超えたかどうかだけではありません。
比率が毎年どのように変化しているかを見ることも大切です。
比率が上昇し続けていないかを見る
将来負担比率が早期健全化基準を大幅に下回っているからといって、何も問題がないとは限りません。
例えば5年間で比率が継続的に上昇している自治体があったとします。
大型公共事業のため地方債残高が増えている一方、人口減少や税収減少によって財政規模が縮小しているのかもしれません。
あるいは基金を取り崩している可能性もあります。
現時点では健全化基準から遠くても、この状態が長期間続けば将来の財政余力は小さくなります。
財政指標を見るときには、ある年度の数字だけでなく推移を見ることが重要です。
大型公共事業を進めている自治体では特に、事業期間中から完成後までの将来負担比率を考える必要があります。
金利上昇は直接だけでなく間接的にも影響する
将来負担比率は地方債残高など将来負担額を見るため、地方債の表面金利が上がっただけで単純に同じ割合だけ上昇する指標ではありません。
しかし金利上昇は自治体財政全体を通じて将来負担に影響します。
地方債の利払いが増えれば、公債費が増加します。
公債費が増えることで毎年度の財政余力が小さくなれば、基金への積み立てが難しくなる可能性があります。
さらに建設費や人件費の上昇によって公共事業費が膨らみ、追加の地方債発行が必要になれば地方債残高そのものも増えます。
金利上昇、物価上昇、地方債発行増加が重なると、自治体の将来負担を複数の経路から押し上げる可能性があります。
将来世代に残すのは負担だけではない
将来負担比率を見ると、地方債などの負債に目が向きます。
しかし地方債を発行する目的の多くは、長期間利用する公共施設や社会インフラを整備することです。
1000億円の地方債を発行して鉄道や道路を整備すれば、将来世代には返済負担が残ります。
一方で、鉄道や道路という資産も残ります。
交通利便性が高まり、地域経済が成長し、将来の税収増につながる可能性もあります。
したがって将来負担比率が上昇することだけを見て、公共投資が悪いと判断することはできません。
重要なのは、将来負担に見合うだけの資産や便益を将来世代に残せるかどうかです。
地方債によって何を造ったのかという視点と組み合わせて考える必要があります。
結論
将来負担比率とは、地方自治体が将来負担することになる地方債などの実質的な負担が、自治体の財政規模に対してどの程度あるのかを見る指標です。
実質公債費比率が現在の年間返済負担を見るのに対し、将来負担比率は地方債残高など将来に残る負担を幅広く捉えます。
一般会計の地方債だけでなく、公営企業などに関係する負担や退職手当負担見込額なども一定の範囲で考慮されます。
一方、地方債の返済に利用できる基金などがあれば、その分は将来負担を軽減する財源として考えます。
つまり重要なのは借金の総額だけではありません。
将来返さなければならない金額と、それに備えて確保している財源の両方を見る必要があります。
そして地方債によって将来世代に借金を残すのであれば、それ以上の価値を持つ公共資産や便益を残せるのか。
将来負担比率は、現在の自治体が将来世代の財政をどこまで使っているのかを考えるための重要な指標なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月19日 川崎市、大型投資続き市債発行増 30年ぶり高金利 逆風