親子上場を解消する代表的な方法が「完全子会社化」です。
親会社が上場子会社の株式をすべて取得し、議決権を100%保有する状態にします。
それまで子会社株式を保有していた一般株主はいなくなり、子会社は上場廃止になるのが一般的です。
親子上場が減少するなか、ニュースでも「TOBによる完全子会社化」という言葉を目にする機会が増えています。
完全子会社化では何が起こり、親会社と子会社の関係はどう変わるのでしょうか。
完全子会社とは何か
親会社が子会社株式の100%を保有している状態を完全子会社といいます。
例えば、親会社が上場子会社株式の60%を保有しているとします。
残りの40%は個人投資家や機関投資家などが持っています。
この段階では親会社が子会社を支配していても、100%保有しているわけではありません。
そこで残り40%の株式も取得して100%保有にすれば、完全子会社になります。
親子上場との最大の違い
親子上場では、子会社に親会社以外の一般株主が存在します。
ここが完全子会社との最大の違いです。
例えば、親会社が子会社株式の60%を持っていれば、残り40%の株主にも子会社の利益を受ける権利があります。
親会社と子会社との取引などでは、親会社の利益と一般株主の利益が対立する可能性があります。
一方、100%子会社になれば、株主は親会社だけになります。
親会社と子会社の一般株主との利益相反という問題は基本的になくなります。
どうやって100%取得するのか
上場子会社を完全子会社にする場合、親会社が市場で少しずつ株式を購入するだけとは限りません。
代表的な方法の一つがTOBです。
TOBとは株式公開買い付けのことです。
親会社が買付価格や期間、予定する株式数などを公表し、株主に株式を売ってもらいます。
例えば市場価格が1株1,000円の株式に対して、1株1,300円でTOBを実施するといった形です。
市場価格より高い価格を提示して株主に応募してもらうケースが多くあります。
TOBだけで全株式が集まるとは限らない
ただし、TOBを実施したからといって、すべての一般株主が応募するとは限りません。
株主の中には株式を売りたくない人もいるからです。
そのため、TOB終了後も少数の株主が残る場合があります。
そこで一定の条件を満たしたうえで、残った株主からも株式を取得する手続きが行われることがあります。
これがスクイーズアウトです。
TOBとスクイーズアウトを組み合わせることで、最終的に親会社の保有割合を100%にするケースがあります。
子会社は上場廃止になる
完全子会社になれば、子会社株式を株式市場で売買する必要がなくなります。
そのため、通常は上場廃止になります。
ここで重要なのは、上場廃止と会社の消滅は別の話だということです。
上場廃止になっても子会社そのものがなくなるとは限りません。
株式市場で株式を売買できなくなり、親会社が100%保有する非上場会社として事業を続けることができます。
「上場廃止イコール会社がなくなる」ということではありません。
親会社にはどんなメリットがあるのか
完全子会社化すると、親会社は子会社の経営を企業グループ全体の戦略に組み込みやすくなります。
例えば、グループ会社間で人材を移動させたり、研究開発を統合したり、重複する事業を再編したりすることが考えられます。
親子上場では、子会社の一般株主の利益にも配慮しなければなりません。
完全子会社になれば一般株主がいなくなるため、グループ全体を考えた意思決定を進めやすくなります。
子会社にもメリットがある
子会社側では上場維持に必要だった負担を減らすことができます。
監査、情報開示、IR、株主総会への対応など、上場会社にはさまざまな業務があります。
親子上場ではさらに、親会社との利益相反を管理する企業統治体制も必要になります。
上場廃止によってすべての管理業務がなくなるわけではありませんが、上場会社特有の負担の一部を減らすことができます。
その分、人材や時間を本業へ振り向けられる可能性があります。
親会社の連結利益にも影響する
上場子会社に一般株主が存在する場合、子会社が稼いだ利益のすべてが親会社の株主に帰属するわけではありません。
親会社以外の株主に帰属する部分があるからです。
完全子会社化すると、子会社には親会社以外の株主がいなくなります。
そのため、子会社が生み出す利益と親会社株主との関係も変わります。
ただし、完全子会社化には一般株主から株式を取得するための多額の資金が必要になる場合があります。
メリットだけでなく、買収に必要な資金との比較も重要です。
一般株主にとって重要なのは価格
完全子会社化される側の一般株主にとって、特に重要なのが株式をいくらで買い取ってもらえるのかという問題です。
親会社は買い手です。
できるだけ低い価格で取得できれば、親会社にとって経済的には有利になります。
一方、一般株主は適正な企業価値を反映した価格で売却したいと考えます。
ここには明確な利益相反があります。
そのため、完全子会社化では第三者による株式価値算定や独立した特別委員会による検討など、取引の公正性を確保する仕組みが重要になります。
完全子会社化すれば必ず企業価値が上がるわけではない
完全子会社化には多くのメリットがありますが、実施すれば必ず企業価値が上がるわけではありません。
一般株主から株式を取得するためには資金が必要です。
さらに、子会社が上場することで得ていた知名度や独自の資金調達手段などを失う可能性もあります。
上場を維持するメリットと完全子会社化によるメリットのどちらが大きいのかを比較する必要があります。
完全子会社化は目的ではなく、企業グループの価値を高めるための選択肢の一つなのです。
結論
完全子会社化とは、親会社が子会社株式を100%保有する状態にすることです。
上場子会社の場合には、TOBなどによって一般株主の株式を取得し、必要に応じてスクイーズアウトを行って100%保有を目指します。
完全子会社になると、通常は子会社が上場廃止となり、親会社以外の株主はいなくなります。
これによって親会社と子会社の一般株主との利益相反問題が基本的になくなり、企業グループ内で事業、人材、資金などを一体的に活用しやすくなります。
一方、一般株主にとっては、自分の保有株式をいくらで買い取ってもらうのかが非常に重要です。
完全子会社化を見るときには、企業側が示す相乗効果だけでなく、一般株主に提示された価格や取引手続きの公正性まで確認する必要があります。
次に考えたいのは、完全子会社化でよく使われるTOBが、なぜ親子上場解消の手段として利用されるのかという問題です。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 親子上場、狭まる包囲網