こども家庭庁が2027年度の創設を目指す新しい子育て支援企業の認定制度では、法人減税や補助金だけでなく、公共調達の入札で認定企業を加点することも検討されています。
公共調達とは、国や自治体などが民間企業から商品やサービスを購入することです。
一見すると、子育て支援と公共調達は関係がないように見えるかもしれません。
しかし、国や自治体という大きな買い手が、価格や品質だけではなく企業の子育て支援も評価するようになれば、企業の行動を変える力を持ちます。
子育て支援に取り組むことが社会貢献だけでなく、国や自治体から仕事を受注するための競争力になる可能性があるのです。
公共調達とは何か
国や自治体は行政サービスを提供するために、民間企業からさまざまな商品やサービスを購入しています。
例えば、庁舎で使用する事務用品を購入したり、情報システムの開発を企業へ委託したりします。
道路や公共施設の建設工事もあります。
清掃、警備、給食、調査、コンサルティングなどを民間企業に委託することもあります。
このように行政機関が必要な商品やサービスを民間から調達することを公共調達といいます。
国や自治体が使うお金の原資は税金です。
そのため、特定の企業だけを恣意的に選ぶことはできません。
一定のルールに基づいて企業を選び、契約する必要があります。
その代表的な仕組みが入札です。
価格だけで企業を選ぶとは限らない
入札というと、一番安い価格を提示した企業が落札するイメージがあります。
実際に価格が重要な基準となる調達はあります。
しかし、すべての契約を価格だけで決めることが適切とは限りません。
例えば高度な情報システムを発注する場合、価格が安くても性能が低ければ行政サービスに支障が出る可能性があります。
専門的な調査やコンサルティング業務であれば、担当者の能力や提案内容も重要です。
そこで価格だけでなく、技術力や提案内容などを総合的に評価して契約相手を決める方式があります。
価格以外の項目を点数化し、総合的な評価によって企業を選ぶわけです。
この仕組みを利用すれば、企業の社会的な取り組みも評価項目に加えることができます。
加点方式とは何か
加点方式を簡単な例で考えてみます。
ある公共調達について、価格だけではなく企業の提案内容などを100点満点で評価するとします。
企業Aと企業Bの価格や技術力がほぼ同じだったとします。
しかし企業Aが一定の政策目標に沿った認定を取得していれば、その取り組みに対して追加点が与えられる場合があります。
企業Aが数点多く獲得すれば、最終的な評価で企業Bを上回る可能性があります。
認定を持っているだけで必ず落札できるわけではありません。
価格や品質などの基本的な競争力は必要です。
しかし競争条件が近い企業同士であれば、数点の加点が結果を左右することがあります。
企業にとって認定取得に経済的な意味が生まれるわけです。
なぜ子育て支援を入札で評価するのか
ここで疑問になるのが、なぜ国や自治体が子育て支援を公共調達で評価するのかという点です。
政府は税金を集めて補助金を配るだけでなく、自ら大きな購入者でもあります。
国や自治体が商品やサービスを購入すると、企業に売上が発生します。
この購買力を政策実現に利用することができます。
例えば、子育て支援に積極的な企業を公共調達で評価すれば、企業側には子育て支援に取り組む経済的な動機が生まれます。
認定を取得すれば公共部門からの受注で有利になる可能性があるからです。
政府が企業に子育て支援をお願いするだけではなく、実際の取引条件にも反映させる考え方です。
社会貢献が受注競争力になる
これまで企業の子育て支援は、福利厚生や社会貢献として考えられることが多くありました。
しかし公共調達で加点されるようになると、その性格が変わります。
例えば企業が子育てに役立つ商品やサービスを開発し、新しい認定制度を取得したとします。
その認定によって公共調達で評価されれば、子育て支援への投資が新しい受注につながる可能性があります。
社会貢献への支出が、企業の売上を生み出す要素になるわけです。
企業経営では、社会的に良いことだからという理由だけで継続的な投資を行うことが難しい場合があります。
しかし、売上や受注に結び付けば投資を継続しやすくなります。
社会的価値と企業利益を結び付ける仕組みと考えることができます。
法人減税や補助金とは違う効果がある
公共調達の加点は、法人減税や補助金とは企業への効果が異なります。
法人減税は税負担を軽くします。
補助金は企業の投資費用などを直接支援します。
これに対して公共調達の加点は、企業が仕事を獲得する機会を増やす仕組みです。
企業にお金を渡すのではなく、企業自身が商品やサービスを販売して売上を得る機会につなげます。
企業にとっては、補助金を一度受け取るより、継続的な受注につながるほうが大きなメリットになる場合もあります。
子育て支援を補助金に依存する活動ではなく、事業として継続できる仕組みに変える可能性があります。
中小企業にもチャンスが生まれる
公共調達で子育て支援を評価することは、中小企業にも影響します。
価格や企業規模だけで競争すると、資金力や大量供給能力を持つ大企業が有利になることがあります。
一方、企業の特色や社会的な取り組みも評価されるのであれば、中小企業が別の強みを持つことができます。
例えば地域の子育て世帯に密着したサービスを提供している企業や、地域の子どもを支援している企業などです。
こうした企業が認定を取得し、その実績が公共調達でも評価されれば、受注機会が広がる可能性があります。
ただし、認定申請や入札手続きそのものが複雑であれば、中小企業には負担になります。
制度を広く利用してもらうためには、申請や入札手続きの負担を抑えることも重要になります。
認定を取ること自体が企業戦略になる
公共調達での加点が実現すれば、企業にとって新しい認定制度を取得する意味も変わります。
認定マークを広告に表示するだけではありません。
法人減税を受けられる可能性があります。
補助金を利用できる可能性もあります。
さらに公共調達で評価され、国や自治体からの受注に結び付く可能性があります。
求人サイトなどで認定企業であることが分かるようになれば、採用にも影響するでしょう。
つまり一つの認定が、税金、資金調達、営業、採用、ブランドなど複数の経営分野に関係する可能性があります。
子育て支援企業として認定されること自体が、企業戦略の一つになるわけです。
加点が大きすぎる場合には注意も必要になる
一方で、公共調達では公平性も重要です。
子育て支援に積極的だからといって、価格や品質が大きく劣る企業を選ぶことが適切とは限りません。
公共調達の原資は税金だからです。
そのため、どの程度の加点を認めるのかが重要になります。
子育て支援を企業に促す政策目的と、税金を効率的に使うという公共調達の目的を両立させなければなりません。
認定の有無だけで機械的に企業を選ぶのではなく、価格、品質、技術力などと組み合わせて総合的に評価する制度設計が必要になります。
結論
公共調達の加点とは、国や自治体が商品やサービスを購入する際、価格や品質だけでなく企業の政策的な取り組みも評価し、一定の点数を加える仕組みです。
こども家庭庁が検討する新しい子育て支援企業認定制度では、認定企業を公共調達の入札で加点することが検討されています。
これが実現すれば、企業にとって子育て支援は単なる社会貢献ではなくなります。
認定取得によって国や自治体から仕事を受注しやすくなる可能性があり、子育て支援そのものが企業の競争力につながるからです。
法人減税は税負担を減らし、補助金は投資負担を軽くします。
公共調達の加点は、その先にある売上や受注の機会を広げます。
減税、補助金、公共調達を組み合わせることで、社会的価値を生み出す企業が経済的にも成長できる環境をつくる。
子育て支援と企業利益を両立させるという新しい政策の方向性が、公共調達にも広がろうとしています。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税