会社員の給与明細を見ると、所得税とは別に住民税が差し引かれています。
この個人住民税は一つの仕組みだけで計算されているわけではありません。
中心となるのが所得割と均等割です。
所得割は、その名前のとおり所得に応じて負担する部分です。
所得が増えれば、原則として所得割の税額も増えます。
一見すると所得税とよく似ていますが、税率、課税時期、控除額などには違いがあります。
さらに令和8年度税制改正による給与所得控除の最低保障額の引上げは個人住民税にも反映される一方、所得税の基礎控除の引上げが個人住民税の基礎控除にそのまま反映されるわけではありません。
物価連動型の税制を理解するためにも、まず個人住民税の所得割がどのように計算されるのかを知っておく必要があります。
個人住民税には所得割と均等割がある
個人住民税は、都道府県民税と市町村民税から構成されています。
そして税額を考えるときには、大きく所得割と均等割に分けることができます。
所得割は前年の所得に応じて負担する部分です。
一方、均等割は所得額に比例するのではなく、一定の要件の下で定額を負担する仕組みです。
所得割には所得に応じて負担する応能負担の性格が強く表れています。
均等割には地域社会の構成員として行政サービスの費用を広く分担するという考え方が表れています。
この二つを組み合わせていることが、個人住民税の大きな特徴です。
所得割は前年の所得を基礎として計算する
所得割の大きな特徴は、前年の所得を基礎として計算することです。
たとえば、ある年に会社から給与を受け取ったとします。
所得税については、基本的にその年の給与についてその年に源泉徴収が行われ、年末調整などによって税額が精算されます。
これに対して、その所得を基礎とする個人住民税は翌年度に課税されます。
そのため、前年に所得が多かった人が翌年に退職して収入が減ったとしても、前年の所得を基礎とした住民税を負担しなければならない場合があります。
退職した翌年の住民税が重く感じられることがあるのは、この前年所得課税という仕組みが大きな理由です。
まず所得金額を計算する
所得割を計算する第一段階は所得金額の計算です。
会社員の場合、給与として受け取った金額がそのまま所得割の課税対象になるわけではありません。
まず給与収入から給与所得控除を差し引いて給与所得を計算します。
たとえば給与収入がある人であれば、
給与収入
から、
給与所得控除
を差し引いて、
給与所得
を求めます。
事業を行っている人であれば、売上などの収入から必要経費を差し引いて事業所得を計算します。
所得の種類によって所得金額の求め方が異なるわけです。
所得から所得控除を差し引く
次に、所得からさまざまな所得控除を差し引きます。
代表的なものとして、
基礎控除
社会保険料控除
扶養控除
配偶者控除
生命保険料控除
などがあります。
こうした所得控除を差し引いた後の金額が、所得割の計算の基礎となる課税所得です。
大まかな流れとしては、
収入
から所得計算上の控除や必要経費を差し引いて所得を求め、
そこから所得控除を差し引いて課税所得を求める
という形になります。
所得税と似ていますが、所得控除の金額などがすべて同じとは限りません。
所得割の税率は所得税とは大きく違う
所得税と個人住民税の大きな違いの一つが税率です。
所得税では超過累進税率が採用されています。
課税所得が増えるにつれて、その増えた部分に適用される税率も段階的に高くなります。
一方、個人住民税の所得割は、原則として一定の比例税率によって計算されます。
そのため所得が増えても、所得税のように所得割の税率そのものが何段階にも上昇していく仕組みではありません。
この違いは、所得税と個人住民税の役割の違いとも関係しています。
所得税では所得再分配の機能が強く意識されています。
個人住民税では、所得に応じて負担してもらいながら、地域社会の行政サービスを支える安定的な財源を確保する役割があります。
所得税と住民税では所得控除額が違うことがある
所得税と個人住民税には、どちらにも基礎控除や扶養控除などがあります。
しかし、同じ名称の控除であっても控除額が同じとは限りません。
そのため、
所得税の課税所得
と、
個人住民税の課税所得
が必ず同額になるわけではありません。
所得税の計算だけを見て、住民税の所得割も同じ課税所得に一定の税率を掛ければ求められると考えると、実際の税額とずれることがあります。
今回の物価連動をめぐる議論でも、この違いが重要になっています。
給与所得控除は所得税の改正が住民税にも反映される
給与所得控除については、所得税と個人住民税の関係が比較的強くなっています。
個人住民税の所得割に係る所得計算は、基本的に所得税の計算の例による仕組みとなっているためです。
そのため、所得税の給与所得控除が改正されれば、その変更は個人住民税の所得計算にも反映されます。
令和8年度税制改正では、給与所得控除の最低保障額が65万円から69万円へ引き上げられました。
対象となる給与所得者について給与所得控除が増えれば給与所得が小さくなるため、個人住民税の所得割についても税負担を軽減する方向に働きます。
この改正については、個人住民税のために給与所得控除を別途同じように改正する必要はありません。
基礎控除は所得税の改正だけでは変わらない
一方、基礎控除は事情が異なります。
所得税の基礎控除が物価上昇に応じて引き上げられたとしても、個人住民税の基礎控除が自動的に同じように引き上げられるわけではありません。
個人住民税の基礎控除を変更するためには、地方税法上の対応が必要になります。
つまり所得割を計算する過程には、
所得税の改正が住民税にも連動する部分
と、
地方税として別途改正しなければならない部分
が存在します。
給与所得控除と基礎控除の違いは、その代表例です。
所得割がゼロでも均等割が課税される場合がある
所得割を理解するときに注意したいのが、所得割がゼロだからといって必ず住民税全体が非課税になるわけではないことです。
個人住民税には均等割があるからです。
所得控除などによって所得割が発生しなくても、一定の条件では均等割が課税される場合があります。
一方、所得が一定以下で非課税基準を満たせば、均等割についても非課税になります。
そのため、
所得割がかからない
ことと、
住民税非課税である
ことは同じではありません。
住民税非課税世帯の判定などを考える場合には、この違いが重要です。
税額控除も所得割の計算に関係する
所得割の計算は、課税所得に税率を掛けて終わりではありません。
その後、一定の税額控除などを適用して最終的な所得割額を求めます。
所得控除と税額控除は似た言葉ですが、働き方が異なります。
所得控除は税率を掛ける前の所得から差し引きます。
これに対して税額控除は、一定の方法で計算した税額から直接差し引きます。
したがって同じ金額であっても税負担への影響は異なります。
個人住民税の所得割を正確に理解するためには、所得金額、所得控除、税率、税額控除という順序を意識することが重要です。
物価連動は所得割の負担をどう変えるのか
今後の重要な論点が、基礎控除などを物価に連動させる場合の所得割への影響です。
物価上昇に合わせて賃金が増えても、実質的な購買力が同じ程度しか維持されていないことがあります。
それにもかかわらず住民税の基礎控除が固定されたままであれば、名目所得の増加によって課税所得が増える可能性があります。
そこで基礎控除を物価に合わせて引き上げれば、課税所得の増加を一定程度抑えることができます。
一方、基礎控除を引き上げれば地方自治体の所得割収入を減らす方向に働きます。
物価高から住民を守ることと、地方自治体の財源を確保することのバランスが必要になります。
所得割は地方財政を支える重要な税源
個人住民税は多くの自治体にとって重要な税収です。
そのため基礎控除などの変更によって所得割の課税所得が小さくなれば、全国の地方財政にも影響します。
所得税であれば国全体の税収として考えることができます。
しかし個人住民税では、実際に税収を得るのは地方自治体です。
自治体によって人口構成や所得水準、財政状況も異なります。
同じ制度改正でも影響の大きさが自治体によって違う可能性があります。
個人住民税の物価連動を考える際には、納税者の減税額だけではなく、地方財政への影響も併せて考える必要があります。
結論
個人住民税の所得割とは、前年の所得を基礎として所得に応じて負担する地方税です。
給与所得者の場合、給与収入から給与所得控除を差し引いて給与所得を求め、さらに基礎控除や社会保険料控除などを差し引いて課税所得を計算します。
所得税と計算の流れは似ていますが、税率や所得控除額、課税される時期などには違いがあります。
また、給与所得控除の改正は個人住民税にも反映される一方、所得税の基礎控除の改正が個人住民税の基礎控除に自動的に反映されるわけではありません。
令和8年度税制改正によって所得税の物価連動が進む中、今後は個人住民税の所得割について物価上昇による負担増をどのように調整するのかが重要になります。
住民の負担を軽減すれば地方税収は減少します。
地方税収を維持すれば、物価上昇による実質的な税負担増が残る可能性があります。
所得割は、家計の負担と地方自治体の財源を結びつける個人住民税の中心的な仕組みなのです。
参考
税のしるべ 2026年8月10日 物価に連動した基礎控除等の引上げに関連して総務省の検討会が今後の個人住民税での対応を検討