住宅を購入するとき、「住宅ローンは年収の何倍まで借りられるのか」が気になる人は多いでしょう。
住宅価格が上昇するなかでは、年収の5倍、6倍、場合によってはそれ以上の住宅ローンを検討するケースもあります。
しかし、住宅ローンで本当に重要なのは、金融機関からいくら借りられるかではありません。
金利が上昇しても、教育費が増えても、老後資金を準備しながら無理なく返済できるかです。
金利上昇局面では、借入可能額よりも返済可能額を重視する考え方がこれまで以上に重要になります。
年収倍率とは何か
住宅ローンの借入額を考えるときによく使われるのが年収倍率です。
例えば、年収800万円の人が4,000万円の住宅ローンを借りれば、借入額は年収の5倍です。
5,000万円なら6.25倍になります。
年収倍率は非常に分かりやすい指標ですが、これだけで住宅ローンの安全性を判断することはできません。
同じ年収800万円でも、子どもの人数、教育費、自動車の保有、毎月の生活費、保有資産などによって家計の余裕は大きく違うからです。
さらに、住宅ローン金利が違えば、同じ借入額でも毎月の返済額は変わります。
年収倍率は住宅ローンを考える入口にはなりますが、それだけで適正な借入額を決めるものではありません。
金融機関が貸してくれる金額は安全な金額とは限らない
住宅ローンを申し込むと、金融機関は年収、勤務先、勤続年数、年齢、既存の借入れなどを基に審査します。
そこで重要になる指標の1つが返済負担率です。
返済負担率とは、年収に対して住宅ローンなどの年間返済額がどの程度を占めるかを示す割合です。
金融機関の基準を満たせば、かなり大きな住宅ローンを借りられる場合があります。
しかし、住宅ローン審査の目的と家計管理の目的は違います。
金融機関は貸したお金を返済してもらえるかを審査します。
一方、住宅を購入する人は、住宅ローンを返済しながら生活を維持し、教育費や老後資金まで準備できるかを考えなければなりません。
したがって、審査に通る金額と安心して返せる金額が一致するとは限りません。
住宅ローン以外にも大きな支出がある
住宅ローンの返済期間は30年や35年と長期間に及ぶことがあります。
その間、家計にはさまざまな変化が起こります。
子どもが成長すれば教育費が増えます。
自動車の買い替えが必要になることもあります。
マンションであれば管理費や修繕積立金が必要です。
戸建て住宅でも、外壁や屋根、給湯器などの修繕費を自分で準備しなければなりません。
さらに、住宅を所有すれば固定資産税なども発生します。
住宅ローンの毎月返済額だけを見て「返済できる」と判断すると、こうした支出が増えたときに家計が苦しくなる可能性があります。
共働き収入をすべて前提にしてよいのか
住宅価格の上昇によって、夫婦の収入を合算して住宅ローンを組む家庭も増えています。
共働きであれば、1人の収入だけの場合より大きな住宅ローンを借りることができます。
しかし、35年間ずっと現在と同じ収入が続くとは限りません。
出産や育児、介護、病気、転職などによって、一時的に収入が減少することがあります。
夫婦2人がフルタイムで働き続けることを前提として借入額を最大化すると、どちらかの収入が減ったときに家計の余裕が急速になくなる可能性があります。
住宅ローンは現在の最大収入ではなく、収入が減少した場合でも返済できるかという視点で考えることが重要です。
金利上昇を想定して返済額を考える
変動金利型住宅ローンでは、借入時の金利だけを見て返済能力を判断しないことも重要です。
借入時の金利が低ければ、毎月返済額も低くなります。
しかし、その金利が35年間続く保証はありません。
金利が上昇すれば、利息負担は増えます。
そのため、現在の金利だけではなく、金利が1%上昇した場合、さらに2%上昇した場合でも家計を維持できるかを確認しておく必要があります。
重要なのは将来の金利を当てることではありません。
金利を予測できなくても返済を続けられる借入額にしておくことです。
年収の何倍という数字だけで決めない
それでは、住宅ローンは年収の何倍までなら安全なのでしょうか。
実際には、すべての家庭に当てはまる絶対的な倍率はありません。
年収600万円の家庭と年収1,500万円の家庭では、同じ年収倍率でも住宅ローン返済後に残る金額が違います。
子どもがいない家庭と複数の子どもがいる家庭でも必要な生活費は違います。
すでに十分な金融資産を持っている家庭と、住宅購入によって貯蓄をほとんど使ってしまう家庭でもリスクは異なります。
したがって、「年収の5倍だから安全」「7倍だから危険」と機械的に判断するのではなく、それぞれの家計全体を見る必要があります。
返済後にいくら残るかを見る
住宅ローンを考えるときには、借入額だけではなく、返済後に毎月いくら残るかを見ることが重要です。
住宅ローンを返済した後に、生活費、教育費、保険料、管理費、修繕費などを支払い、それでも貯蓄できる余裕があるかを確認します。
さらに、老後資金の積立も続けられるかを考えます。
住宅ローンを返済するために老後資金の準備ができなくなれば、住宅ローンを完済した後に別の問題が生じます。
住宅を購入することと老後に備えることは、別々に考えるものではありません。
借入額を少し減らす効果は大きい
住宅購入では、希望する物件に手が届きそうになると、借入可能額いっぱいまで住宅ローンを組みたくなることがあります。
しかし、借入額を少し抑えるだけでも、その効果は長期間続きます。
元本が少なくなれば毎月返済額を抑えられ、支払う利息も少なくなります。
金利が上昇した場合の影響も小さくなります。
さらに、毎月の家計に余裕ができれば、教育費や老後資金の積立を続けやすくなります。
住宅購入時には数百万円の違いが小さく感じられることがありますが、35年間の家計で考えれば、その差は決して小さくありません。
結論
住宅ローンを考えるとき、「年収の何倍まで借りられるか」は分かりやすい目安です。
しかし、それだけで安全な借入額を決めることはできません。
重要なのは、借りられる金額ではなく、無理なく返せる金額です。
住宅ローンを返済しながら、生活費、教育費、住宅の維持費、老後資金を確保できるかを考える必要があります。
さらに、共働き収入の減少や住宅ローン金利の上昇にも耐えられる余裕が必要です。
これからの住宅ローンでは、金融機関が提示する借入可能額をそのまま住宅購入予算にするのではなく、自分の家計から返済可能額を逆算することが重要になります。
住宅ローンは借りられるだけ借りるものではありません。
長い人生のなかで無理なく返し続けられる金額を借りるものです。
参考
日本経済新聞 2026年9月26日 朝刊 住宅ローン金利上昇に備え 借入額抑制や貯蓄が重要に