若者の資産格差というと、預貯金やNISA、株式、投資信託などの金融資産に目が向きがちです。
しかし、家計が持つ大きな資産には住宅もあります。
同じ30代でも、すでに住宅を購入している人と、賃貸住宅に住み続けている人では、その後の資産形成が大きく異なる可能性があります。
さらに住宅価格が上昇すると、すでに住宅を持っている人には資産価値の上昇という恩恵が生じる一方、これから購入する人には購入価格の上昇という負担になります。
住宅価格の上昇は、若い世代の中にも新しい資産格差を生む可能性があるのです。
持ち家は住む場所であると同時に資産でもある
住宅には二つの側面があります。
一つは生活する場所としての役割です。
もう一つは資産としての側面です。
例えば5000万円で購入した住宅の市場価値が、その後6000万円になれば、単純に考えると保有する不動産の評価額は1000万円増えています。
もちろん、実際には建物の経年劣化や地域による価格差、売却費用などがあります。
住宅価格が必ず上昇するわけでもありません。
それでも、住宅は家計にとって非常に大きな資産の一つです。
若者の資産格差を見る場合、金融資産だけではなく住宅などの実物資産も考える必要があります。
住宅ローンは負債でもある
ただし、住宅を購入した瞬間に購入価格と同額の純資産を持つわけではありません。
多くの人は住宅ローンを利用します。
例えば5000万円の住宅を購入し、4500万円の住宅ローンが残っているとします。
住宅という5000万円の資産がある一方、4500万円の負債もあります。
単純化すると差額は500万円です。
このように資産から負債を差し引いたものを純資産として考えることができます。
住宅を購入した人の資産状況を見るときには、住宅価格だけでなく住宅ローン残高も合わせて見る必要があります。
住宅ローン返済によって純資産が増えることがある
住宅ローンを毎月返済すると、返済額の一部は元本の返済に充てられます。
元本が減れば、住宅価格が変わらないとしても負債は少なくなっていきます。
例えば住宅の価値が4000万円で、住宅ローン残高が3000万円なら差額は1000万円です。
その後ローン残高が2000万円まで減り、住宅価値が4000万円のままであれば、差額は2000万円になります。
この意味では、住宅ローンの元本返済には家計の純資産を積み上げていく側面があります。
一方、賃貸住宅の家賃は住宅を利用するための支出であり、支払った家賃によって自分が所有する住宅資産が増えるわけではありません。
だからといって持ち家が必ず有利ではない
ここで注意したいのは、「賃貸は損で持ち家は得」と単純にはいえないことです。
住宅を所有すれば、固定資産税や修繕費などがかかります。
マンションなら管理費や修繕積立金なども必要です。
住宅価格が下落する可能性もあります。
転勤や家族構成の変化があっても、簡単には住み替えられないことがあります。
一方、賃貸住宅には転居しやすいという大きな利点があります。
持ち家と賃貸のどちらが有利かは、住宅価格、家賃、金利、居住期間、家族構成などによって変わります。
重要なのは、住宅保有が家計の資産形成にも影響するという点です。
住宅価格上昇は所有者と非所有者に逆の影響を与える
住宅価格が上昇すると、その影響は住宅をすでに持っている人と、これから買おうとする人で大きく異なります。
すでに住宅を所有している人にとっては、保有資産の市場価値が上昇する可能性があります。
一方、まだ住宅を持っていない人にとっては、購入に必要な金額が増えます。
例えば以前4000万円で買えた住宅が5000万円になれば、新しく購入する人は1000万円多く用意しなければなりません。
住宅ローンの借入額が増えれば、毎月の返済負担も重くなる可能性があります。
同じ住宅価格上昇でも、所有者には資産価値上昇、非所有者には購入負担増という反対の効果が生まれるのです。
親からの援助が住宅購入時期を左右する
ここで前回取り上げた親からの資産移転も関係してきます。
住宅購入では頭金や諸費用など、まとまった資金が必要になる場合があります。
親から住宅取得資金の援助を受けられる人は、比較的早い時期に住宅を購入できる可能性があります。
一方、すべて自分の所得から用意する人は、頭金などを貯めるために時間が必要になることがあります。
その間に住宅価格が上昇すれば、目標とする購入資金もさらに増えてしまいます。
親からの資産援助の有無が住宅購入時期の差となり、それがその後の資産形成の差につながる可能性があります。
早く買った人ほど有利になる局面もある
例えば30歳で4000万円の住宅を購入した人がいるとします。
同じような住宅を別の人が40歳で購入しようとしたところ、住宅価格が5000万円になっていたとします。
前者は4000万円を基準とした住宅ローンを返済しながら、すでに10年間住宅を保有しています。
後者は5000万円という新しい価格から住宅購入を始めます。
住宅価格が大きく上昇する局面では、「いつ住宅市場へ入ったか」が家計の資産形成に大きく影響することがあります。
これは株式投資で、早くから資産を持っていた人が株高の恩恵を受ける構造と似ています。
住宅にお金を使えば金融投資は減ることもある
一方、住宅を購入すれば金融資産形成が必ず進むわけでもありません。
住宅ローン返済の負担が大きければ、NISAなどへ回せる資金が少なくなる可能性があります。
頭金として預貯金を大量に使えば、手元の金融資産も減ります。
そのため、持ち家世帯は不動産資産が多い一方で、金融資産が少ないということもあります。
反対に、賃貸住宅に住みながら住宅購入資金を株式や投資信託などで運用し、金融資産を多く持つ人もいるでしょう。
資産形成を見る場合には、住宅だけ、金融資産だけを見るのではなく、家計全体の資産と負債を見る必要があります。
住宅価格の地域差も大きい
住宅の問題には地域差もあります。
大都市の中心部などでは住宅価格が高くなりやすい一方、人口減少が進む地域では住宅価格が下落する場合があります。
同じ5000万円で住宅を購入しても、20年後の価値が同じとは限りません。
資産価値を維持しやすい住宅もあれば、大きく価値が下がる住宅もあります。
そのため、「持ち家を買えば資産形成になる」と一律に考えることはできません。
どこに、どのような住宅を持つかによっても結果は大きく変わります。
若者の資産格差は金融資産だけでは見えない
若者の金融資産を比較すると、住宅を購入した人の金融資産が少なく見えることがあります。
例えば住宅購入の頭金として500万円を使えば、預貯金は500万円減ります。
しかし、その代わりに住宅という資産を取得しています。
一方、賃貸住宅に住む人は500万円を金融資産として持ち続けているかもしれません。
金融資産だけを比べれば後者の方が多く見えますが、家計全体の資産状況はそれだけでは判断できません。
住宅などの実物資産と住宅ローンなどの負債を含めた純資産を見ることが重要です。
結論
住宅を買える若者と買えない若者では、その後の資産形成が異なる可能性があります。
住宅は生活する場所であると同時に、家計が保有する大きな資産だからです。
住宅ローンを返済すれば負債が減り、住宅価格が維持されれば純資産が積み上がっていく可能性があります。
さらに住宅価格が上昇すれば、すでに住宅を持つ人には資産価値上昇という恩恵が生まれます。
一方、これから購入する若者には住宅価格上昇が大きな負担になります。
そして、親から住宅取得資金の援助を受けられるかどうかによっても、住宅市場へ入る時期に差が生まれます。
ただし、持ち家が必ず賃貸より有利というわけではありません。
住宅価格の下落、修繕費、税金、住宅ローンなども考える必要があります。
若者の資産格差を見るときには、NISAや預貯金だけを見るのでは十分ではありません。
金融資産、不動産、そして負債を合わせた家計全体を見る必要があります。
住宅価格が大きく動く時代には、「家を持っているかどうか」だけでなく、「いつ、どこで、いくらで住宅を取得したのか」も、若者の資産格差を左右する重要な要素になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 若者の金融資産、格差拡大