令和7年度改正において最も象徴的なテーマの一つが、「売上100億円企業の創出」です。経営強化税制の見直しを通じて、この政策は税制の中核に組み込まれました。
しかし実務の現場から見たとき、この政策はどこまで現実的なのでしょうか。本稿では、制度の要件を踏まえながら、その実効性と影響を検討します。
100億円企業政策の狙い
この政策の背景にあるのは、日本の中小企業構造への問題意識です。
多くの企業が一定規模で成長を止めてしまい、
- 生産性が伸びにくい
- 国際競争力が弱い
- 賃上げ余力が限定的
といった課題が指摘されてきました。
こうした状況を打破するために、「一定規模まで成長する企業を増やす」という政策が打ち出されています。
制度要件の現実性を検証する
では、この政策に基づく税制は現実的なのでしょうか。主な要件を整理すると、そのハードルの高さが見えてきます。
まず、売上100億円を目指す明確な計画が必要です。単なる希望ではなく、具体的なロードマップの作成が求められます。
次に、年平均10%以上の売上成長が前提とされています。これは短期間での大幅な拡大を意味し、多くの企業にとって容易ではありません。
さらに、投資利益率7%以上という条件も課されています。これは投資の効率性を求めるものであり、単なる規模拡大ではなく収益性も同時に求められます。
これらの要件を総合すると、対象となる企業はかなり限定されると考えられます。
対象となる企業は誰か
この制度が実際に適用できるのは、どのような企業でしょうか。
考えられるのは、
- すでに一定規模に達している企業
- 成長戦略が明確な企業
- 投資余力がある企業
です。
一方で、
- 小規模で安定志向の企業
- 内需中心で成長余地が限定的な企業
- 投資余力の乏しい企業
にとっては、現実的に適用が難しい制度といえます。
政策は“選別”を前提としている
この制度設計から読み取れるのは、「すべての企業を対象とする政策ではない」という点です。
むしろ、
- 成長できる企業を選び
- そこに資源を集中させる
という選別型の政策であるといえます。
これは、従来の「広く支援する中小企業政策」とは明確に異なる方向性です。
中小企業への影響は二極化する
このような政策は、中小企業に対してどのような影響を与えるのでしょうか。
大きく分けると、影響は二極化すると考えられます。
一方では、制度を活用できる企業は、税制の後押しを受けて成長を加速させることができます。
他方では、制度の対象外となる企業は、相対的に支援が縮小される可能性があります。
その結果、
- 成長企業と非成長企業の差が拡大する
という構造が生まれる可能性があります。
制度は現実的か、それとも象徴的か
では、この政策は実際に機能するのでしょうか。
結論としては、
- 一部の企業にとっては現実的
- 多くの企業にとっては象徴的
という位置づけになる可能性があります。
つまり、すべての企業が100億円を目指すというよりも、「成長を目指す企業を明確に位置づける」ための政策と捉える方が適切です。
実務でどう向き合うべきか
実務の観点から重要なのは、この政策をどのように捉えるかです。
まず、自社がこの制度の対象となり得るかを冷静に判断する必要があります。
次に、対象とならない場合でも、政策の方向性を踏まえて経営戦略を検討することが重要です。
例えば、
- 成長を目指すのか
- 現状維持を選択するのか
といった基本的な方針にも影響を与える可能性があります。
税制は企業に何を求めているのか
今回の政策から読み取れるメッセージは明確です。
それは、
- 成長する企業を支援する
- 成長しない企業は前提としない
という考え方です。
税制は中立ではなく、特定の方向に企業を誘導するツールとして機能しています。
結論
100億円企業政策は、すべての企業にとって現実的な目標ではありません。
しかし、それ以上に重要なのは、この政策が示している方向性です。
今後は、
- 規模拡大を目指す企業
- 安定を重視する企業
の違いが、税制面でも明確に反映される可能性があります。
企業は、自らの立ち位置を踏まえたうえで、どの方向を選択するのかを判断する必要があります。
参考
東京税理士会 全国統一研修会資料 令和7年度法人課税改正関係資料(配布資料)