中小企業向けの設備投資税制の中でも、最も強力な制度の一つが経営強化税制です。これまで即時償却や税額控除といった大きなメリットがあり、多くの企業で活用されてきました。
しかし令和7年度改正では、この制度が単なる延長ではなく「再設計」されています。本稿では、その変更点を整理しながら、制度の本質的な変化を読み解きます。
今回の改正は“制度の作り替え”に近い
今回の改正は、単なる要件の調整ではありません。制度の目的そのものが明確に変わっています。
従来の経営強化税制は、
- 生産性向上
- 収益力強化
- デジタル化
- M&A促進
といった複数の目的を並列的に支援する仕組みでした。
しかし今回の改正では、これらの中から一部が整理され、明確に「成長志向」に軸足が移されています。
C類型の廃止が意味するもの
今回の改正で象徴的なのが、デジタル化設備に関するC類型の廃止です。
デジタル化は依然として重要なテーマであるにもかかわらず、あえて独立した類型としては残されませんでした。
これは、
- デジタル化そのものではなく
- 収益や成長につながる投資であるか
が重視されるようになったことを意味します。
つまり、「何に投資するか」ではなく、「その投資がどのような成果を生むか」が評価軸に変わっています。
B類型の再設計と「100億円企業」政策
今回の改正の中心は、B類型の見直しです。
従来のB類型は、投資収益率5%以上といった要件を満たす設備投資が対象でしたが、改正後はこれが強化され、さらに新たな枠組みが追加されています。
特に重要なのが、「売上100億円企業の創出」を前提とした制度です。
この新しい枠組みでは、
- 売上100億円を目指す計画
- 年平均10%以上の売上成長
- 投資利益率7%以上
といった条件が求められます。
これは、従来の「改善」レベルの投資ではなく、「飛躍的成長」を前提とした投資だけを対象とする制度設計です。
建物が対象に追加された意味
今回の改正で実務上非常に重要なのが、対象設備に建物が追加された点です。
従来は、機械装置やソフトウェアなどが中心であり、建物は対象外とされていました。
しかし改正後は、一定の条件を満たす場合に建物やその附属設備も対象となります。
これは、
- 大規模投資を促す
- 生産拠点の拡張を支援する
- 成長企業のインフラ整備を後押しする
といった政策意図を反映したものです。
つまり、制度の対象が「設備更新」から「事業拡張」へと広がっています。
要件の厳格化とハードルの高さ
今回の改正により、制度の適用要件は明らかに厳しくなっています。
例えば、
- 投資利益率は5%から7%へ引き上げ
- 売上規模や成長率の要件
- 投資規模の下限設定
- 賃上げ要件の追加
など、多くの条件が課されています。
さらに、これらの要件は単独ではなく、複合的に満たす必要があります。
その結果、
- 誰でも使える制度ではなく
- 条件を満たす企業のみが使える制度
へと変化しています。
なぜここまで厳しくなったのか
このような厳格化の背景には、政策目的の明確化があります。
従来の制度は広く利用される一方で、
- 効果が限定的な投資にも適用される
- 本来の政策目的と乖離するケースがある
といった課題が指摘されていました。
今回の改正では、
- 本当に成長につながる投資に限定する
- 税制効果を集中させる
という方向に舵が切られています。
実務への影響は何か
この制度変更は、実務に大きな影響を与えます。
まず、適用できる企業が限定されるため、「使えるかどうか」の判断が重要になります。
次に、事前準備の重要性が高まります。計画の策定や認定手続が必要となるため、投資決定のタイミングにも影響します。
さらに、他の税制との比較検討が不可欠になります。条件を満たさない場合には、投資促進税制など他制度への切り替えが必要になります。
制度は“選ばれる企業”を前提にしている
今回の改正後の経営強化税制は、明らかに「選別型」の制度です。
すべての企業を支援するのではなく、
- 成長意欲がある
- 投資余力がある
- 計画的に事業拡大を行う
こうした企業に対して重点的に支援を行う設計となっています。
結論
経営強化税制は、令和7年度改正によって大きく性格を変えました。
従来は「使える制度」でしたが、今後は「条件を満たせば非常に有利な制度」に変わっています。
そのため実務では、
- 自社が対象になるかどうかを見極める
- 他制度との比較を行う
- 投資計画と一体で検討する
といった対応が不可欠となります。
制度の本質を理解したうえで適切に活用することが、今後の税務戦略において重要なポイントとなります。
参考
東京税理士会 全国統一研修会資料 令和8年度法人課税改正関係資料(配布資料)