会社が自社ビルや工場を所有していると、固定資産税が課税されます。
一方、一定の都市で大規模な事業所を使用している場合には、事業所税の資産割が課税されることがあります。
どちらも建物が関係する税金なので、同じものに二重に税金がかかっているように見えるかもしれません。
しかし、固定資産税と事業所税では課税する理由が異なります。
固定資産税は、土地や家屋などの固定資産を所有していることに着目して所有者へ課税する税金です。
これに対して事業所税は、一定の都市で事業所を使用して事業を行っていることに着目して事業者へ課税します。
この違いが最も分かりやすく表れるのが賃貸オフィスです。
建物を所有していないテナント企業でも、一定の要件を満たせば事業所税を負担する可能性があります。
固定資産税は固定資産の所有者に課税される
固定資産税は、土地、家屋、償却資産といった固定資産に対して課税される地方税です。
原則として毎年1月1日現在の固定資産の所有者が納税義務者になります。
例えば、会社が土地を購入し、その上に自社ビルを所有していれば、土地と家屋について固定資産税が課税されます。
工場の機械設備などについても、償却資産として固定資産税の対象となるものがあります。
つまり、固定資産税で重要なのは、誰がその資産を所有しているのかという点です。
会社が利益を上げているかどうかや、その建物で何人が働いているかによって基本的な課税関係が決まる税金ではありません。
事業所税は事業を行う者に課税される
これに対して事業所税は、事業所等で事業を行う法人や個人を対象とする税金です。
事業所税には、事業所床面積を基準とする資産割と、従業者給与総額を基準とする従業者割があります。
資産割という名称だけを見ると、固定資産を持っている企業に課税するように思えます。
しかし、ここでいう資産割は建物の所有そのものに対する税金ではありません。
事業を行うためにどの程度の床面積を使用しているかに着目しています。
したがって、事業所税では所有者と実際に事業を行っている者が異なるケースがあります。
賃貸オフィスでは違いが分かりやすい
例えば、不動産会社が所有するオフィスビルの一部をA社が借りているとします。
建物の所有者は不動産会社です。
したがって、建物についての固定資産税は原則として所有者である不動産会社が負担します。
一方、A社はその建物を所有していません。
しかし、借りたオフィスで事業を行っています。
そのオフィスが事業所税の課税団体に所在し、A社の事業所床面積などが免税点を超えれば、A社に事業所税が課税される可能性があります。
同じ建物について、固定資産税は所有者、事業所税はそこで事業を行う者という異なる主体が税金を負担することになるのです。
自社ビルなら同じ会社が二つの税金を負担することもある
一方、自社ビルで事業を行っている会社では、固定資産税と事業所税の両方を同じ会社が負担する場合があります。
例えば、A社が自社で所有する大規模な本社ビルを事業所税の課税団体内に持っているとします。
A社は建物の所有者ですから、原則として固定資産税を負担します。
同時に、その建物で自ら事業を行い、事業所税の免税点を超えていれば、事業所税の資産割も負担します。
結果だけを見ると、同じ会社が同じ建物に関連して二つの地方税を払うことになります。
しかし、それぞれの税金が課税している対象や理由は異なります。
税額を決める基準も違う
固定資産税と事業所税では、税額の計算方法も大きく異なります。
固定資産税は、固定資産の評価額を基礎として課税標準を求め、原則として標準税率1.4%を用いて税額を計算します。
土地や家屋の価値が税額に大きく影響します。
これに対して事業所税の資産割は、原則として事業所床面積1平方メートルにつき600円です。
建物の市場価値そのものを基準としているわけではありません。
例えば、同じ1000平方メートルの事業所であれば、立地や建物価格が大きく異なっても、資産割では基本的に床面積が重要になります。
価値を見る固定資産税と、規模を見る事業所税という違いがあります。
固定資産税には1000平方メートルの免税点はない
事業所税の資産割には、事業所床面積1000平方メートル以下という免税点があります。
同じ課税団体内の事業所床面積が原則として1000平方メートル以下であれば、資産割は課税されません。
一方、固定資産税では、事業所税のように事業所床面積1000平方メートル以下なら課税しないという仕組みではありません。
固定資産税にも課税標準額に関する免税点はありますが、事業所税とは基準も考え方も異なります。
そのため、小規模な自社ビルで事業所税が発生しなくても、固定資産税は負担するケースがあります。
逆に、建物を所有していない賃貸企業でも、事業所税については課税される可能性があります。
事業所税には従業者割もある
固定資産税との違いを考えるうえで忘れてはいけないのが、事業所税には従業者割も存在することです。
従業者割は、従業者給与総額に0.25%を掛けて計算します。
従業者数100人以下という免税点がありますが、それを超える一定規模の事業者では給与総額に応じた税負担が発生します。
固定資産税には、このように従業者給与総額を基準として課税する仕組みはありません。
つまり、事業所税は単に建物に対する税金ではありません。
床面積と給与という二つの指標を使って、都市で行われている事業活動の規模に着目する税金なのです。
なぜ二重課税にはならないのか
同じ自社ビルについて固定資産税と事業所税の資産割が発生すると、二重課税ではないかという疑問が生じます。
しかし、二つの税金は同じ課税原因に対して同じ方法で課税しているわけではありません。
固定資産税は、土地や家屋などの固定資産を所有していることに対して課税します。
事業所税は、都市において一定規模以上の事業活動を行うことで生じる行政需要に着目して負担を求めます。
課税標準も、固定資産税は固定資産の価格を基礎とし、事業所税の資産割は床面積を基礎としています。
税金を負担する理由が異なるため、同じ建物に関連して二つの税金が発生すること自体が直ちに二重課税になるわけではありません。
事業所税には都市インフラの負担という考え方がある
事業所税が固定資産税とは別に設けられている背景には、大都市特有の財政需要があります。
企業や事業所が都市へ集中すると、そこで働く人も増えます。
その結果、道路、上下水道などの都市インフラを整備し、維持する必要があります。
こうした行政サービスの費用について、住民だけでなく都市で事業活動を行う企業にも負担を求めるという考え方があります。
そのため、事業所税はすべての市町村で課税される税金ではありません。
東京都区部、政令指定都市、一定の要件を満たす都市など、課税団体が限定されています。
固定資産税が全国の市町村にとって基本的な税であることとの大きな違いです。
賃料の中に固定資産税相当額が含まれることもある
賃貸オフィスの場合、テナント企業が固定資産税を自治体へ直接納付するわけではありません。
固定資産税の納税義務者は原則として建物の所有者です。
もっとも、建物所有者にとって固定資産税はビルを保有するためのコストです。
そのため、経済的には賃料を設定する際に固定資産税などの保有コストが考慮されることがあります。
テナント企業から見ると、賃料を通じて間接的に建物保有コストを負担しながら、一定規模以上であれば自ら事業所税を納付することになります。
オフィスの総コストを考える場合には、税金の法的な納税義務者と、最終的な経済的負担を分けて考える必要があります。
オフィス選びにも二つの税金の違いが関係する
企業が自社ビルを購入するか、賃貸オフィスを利用するかによって、固定資産税の直接的な負担関係は変わります。
自社ビルを取得すれば、企業自身が固定資産税の納税義務者になります。
賃貸であれば、原則として建物所有者が固定資産税を負担します。
しかし、事業所税については、自社所有か賃貸かだけでは決まりません。
どちらの場合でも、課税団体内で一定規模以上の事業所を使用して事業を行えば課税される可能性があります。
つまり、賃貸にすれば建物に関係する税金をすべて避けられるというわけではありません。
企業がオフィスや工場のコストを比較するときには、それぞれの税金が誰に、何を基準として課税されるのかを理解しておく必要があります。
結論
固定資産税と事業所税は、同じ建物に関係することがありますが、課税する理由が異なる税金です。
固定資産税は、土地や家屋などの固定資産を所有していることに着目し、原則としてその所有者に課税されます。
これに対して事業所税は、一定の都市で事業所を使用して事業を行っていることに着目して事業者へ課税されます。
そのため、賃貸オフィスでは建物所有者が固定資産税を負担する一方、テナント企業が事業所税を負担することがあります。
自社ビルの場合には、同じ企業が固定資産税と事業所税の両方を負担することもあります。
しかし、固定資産税は固定資産の価値、事業所税の資産割は事業所床面積という異なる基準で計算され、課税の目的も異なります。
事業所税は建物を所有することへの税金ではなく、その都市で一定規模の事業活動を行うことへの負担です。
この違いを理解すると、賃貸オフィスでも事業所税が課税される理由や、同じ自社ビルに二つの税金が関係する理由が分かりやすくなります。
参考
税のしるべ 2026年8月10日 事業所税の課税団体が減少、人口減で30万人以上の要件を満たせず