上場廃止はなぜ過去最多なのか 企業があえて株式市場から退出する時代になった理由

経営

上場廃止と聞くと、業績が悪化した会社や経営破綻した会社が株式市場から追い出されるという印象を持つかもしれません。

しかし、現在増えている上場廃止は、それだけではありません。

むしろ注目したいのは、企業が自ら上場をやめるケースが増えていることです。

日本経済新聞によると、2026年に東京証券取引所への上場廃止が確定した企業は9月4日時点で128社となり、すでに2025年通年の125社を上回りました。3年連続で過去最多を更新する見通しです。

なぜ、せっかく上場した企業が株式市場から退出するのでしょうか。

背景には、東証の市場改革だけでなく、MBOや投資ファンドを利用して株式を非公開化し、経営の自由度を高めようとする企業の増加があります。

上場廃止とは何か

上場廃止とは、証券取引所でその会社の株式を売買できる状態ではなくなることです。

上場企業は、東京証券取引所などが設けている一定の基準を満たす必要があります。

例えば、株式の流動性や時価総額などについて基準があります。

これらの基準を満たせなくなれば、取引所から上場廃止を求められることがあります。

一方、企業自身が上場廃止を選ぶこともあります。

つまり、

会社の意思とは関係なく上場廃止になるケース

企業が戦略的に上場廃止を選択するケース

の両方があるのです。

現在増えている上場廃止を理解するには、この違いが重要になります。

なぜ企業は上場するのか

そもそも企業は、なぜ株式を上場するのでしょうか。

大きなメリットの一つが資金調達です。

株式市場を通じて多くの投資家から資金を集めることができます。

さらに、上場企業になることで社会的な信用力や知名度が高まり、人材採用や金融機関との取引などで有利になる場合があります。

ところが、上場にはメリットだけでなくコストもあります。

決算情報などを継続的に開示しなければなりません。

株主総会への対応も必要です。

投資家向け広報であるIRや企業統治への対応にも人員と費用がかかります。

上場企業である以上、多数の株主の目を意識しながら経営しなければならないのです。

なぜ自ら上場廃止を選ぶ企業が増えているのか

大きな理由の一つが、経営の意思決定を速くするためです。

上場企業には多くの株主がいます。

経営陣が長期的には必要だと考える投資でも、短期的に利益を圧迫する場合があります。

例えば、AIなどの新規事業へ大規模な投資を行えば、数年間は利益が減るかもしれません。

上場企業の場合、

なぜ利益が減ったのか

いつ投資を回収できるのか

株主価値を高められるのか

といった説明を投資家から求められます。

そこで、株式を非公開化して株主を集約すれば、短期的な業績変動をある程度気にせず、中長期の経営改革を進めやすくなります。

上場廃止が、経営悪化の結果ではなく、経営改革の手段になるケースが出ているのです。

MBOとは何か

企業が自ら上場廃止を選ぶ際によく利用されるのがMBOです。

MBOはManagement Buyoutの略で、経営陣が参加して自社を買収する仕組みです。

一般的には、経営陣や投資ファンドなどが既存株主から株式を買い取ります。

最終的に株式を少数の株主へ集約し、上場を廃止します。

日本経済新聞によると、MBOによって上場廃止となった企業は2025年に30社となり、過去最多を更新しました。

2026年も7月までに12社がMBOによって上場廃止となっています。

MBOは日本企業にとって特別な経営手法ではなくなりつつあります。

なぜ投資ファンドが登場するのか

上場企業の株式を買い集めるには巨額の資金が必要です。

経営陣だけで資金を用意することは簡単ではありません。

そこで登場するのが投資ファンドです。

投資ファンドが資金を提供し、経営陣と一緒に株式を取得します。

2026年に非公開化する企業のうち、記事によれば2割にあたる28社が投資ファンドの力を借りています。

ファンドは単に資金を提供するだけではありません。

株主構成を整理したり、事業再編を進めたり、企業価値を高めるための経営改革を支援したりします。

一定期間経営改革を行った後、再び上場することも考えられます。

つまり、

上場

非公開化

経営改革

再上場

という企業成長のルートもあり得るわけです。

東証改革も上場廃止を増やしている

もう一つ重要なのが東京証券取引所の市場改革です。

東証は2022年4月、それまで4つあった市場区分を、

プライム市場

スタンダード市場

グロース市場

の3市場へ再編しました。

同時に、上場企業に求める基準も見直しました。

これまでは経過措置によって基準を満たしていない企業でも上場を続けられる場合がありました。

しかし、その経過措置が終了していきます。

その結果、上場維持基準を満たせない企業が市場から退出するケースが増えています。

2026年10月1日には、条件をクリアできていない10社が上場廃止になると報じられています。

2027年にもさらに未達企業が上場廃止になる可能性があります。

上場企業の数を増やすこと自体が目的ではなくなった

日本の株式市場では長い間、上場企業が増えることが市場発展の一つの象徴と考えられてきました。

しかし、考え方が変わりつつあります。

東京プロマーケットを除く東証上場企業は2026年8月末時点で3705社となり、2025年末の3782社から減少しました。

ピークだった2023年末からは4パーセント減少し、7年ぶりの低水準です。

一方、東証を傘下に持つ日本取引所グループは、単純な上場企業数にはこだわらない姿勢を示しています。

重要なのは企業数ではなく、上場企業が持続的に企業価値を高められるかどうかという考え方です。

株式市場の評価軸が量から質へ変わってきたともいえます。

地方証券取引所という選択肢もある

興味深いのは、東証の上場維持基準を満たすことが難しい企業が、地方の証券取引所へ向かっていることです。

名古屋、福岡、札幌の証券取引所へ新たに上場した企業は、2025年には47社となりました。

2020年には3社だったため、大幅な増加です。

2026年も8月末までに21社が上場しています。

企業にとっては、

東証に上場し続ける

地方市場へ移る

株式を非公開化する

という複数の選択肢が存在する時代になっています。

上場すること自体が最終目的ではなくなっているのです。

上場廃止は企業の失敗とは限らない

ここが今回の記事で最も重要なところだと思います。

以前は、

上場することは成長

上場廃止は衰退

というイメージが強かったかもしれません。

しかし、現在は必ずしもそうではありません。

上場して多数の株主から資金を集めることが成長に適している企業もあります。

一方で、株主を集約して大胆な事業改革を行った方が成長しやすい企業もあります。

企業によって最適な資本構成は異なります。

その意味では、上場廃止の増加は日本企業が衰退していることを単純に示しているのではなく、上場する意味そのものを企業が見直し始めている現象とも考えられます。

結論

2026年の上場廃止企業は9月4日時点ですでに128社となり、2025年通年を上回りました。

背景には大きく二つの流れがあります。

一つは、東証改革によって上場維持基準が厳格化し、基準を満たせない企業が退出していることです。

もう一つは、MBOや投資ファンドを利用し、企業自身が戦略的に株式を非公開化するケースが増えていることです。

上場には資金調達や信用力向上というメリットがあります。

しかし同時に、情報開示、IR、企業統治、株主対応などの負担もあります。

さらに短期的な業績を意識するあまり、大胆な長期投資を行いにくくなる場合もあります。

そのため、企業によっては上場を続けるより、一度株式市場から退出して経営改革を進めた方が合理的な場合があります。

これから企業を見るときには、上場しているかどうかだけではなく、

なぜ上場しているのか

なぜ上場廃止を選ぶのか

という資本政策そのものを見ることが重要になりそうです。

上場廃止が過去最多になっているというニュースは、日本の株式市場が縮小しているという話だけではありません。

日本企業にとって上場は一度達成したら守り続けるゴールではなく、成長戦略に応じて選び直す一つの手段になり始めているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月7日朝刊 上場廃止、3年連続で最多更新へ

日本経済新聞 2026年9月7日朝刊 上場廃止 ファンドによる買収増加

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