企業の決算で純利益が前年同期比50%増、過去最高益といった数字を見ると、業績が大きく改善したように感じます。
しかし、その利益がすべて本業から生まれたとは限りません。
保有株式や不動産の売却、補助金、為替の変動、税負担の減少などによって、一時的に利益が押し上げられることがあります。
こうした利益が翌年度以降も続くとは限りません。
企業の本当の収益力を考えるためには、利益の金額だけでなく、その利益が何から生まれたのかを見ることが重要です。
利益には繰り返すものと繰り返さないものがある
企業の利益を考えるときには、継続的に発生する利益と一時的に発生する利益を分けて考えると分かりやすくなります。
商品やサービスを販売して毎年稼ぐ利益は、基本的には企業の事業活動から生まれるものです。
一方、保有していた土地を売却して100億円の利益が出ても、同じ土地を翌年もう一度売ることはできません。
その利益はその年度限りになる可能性があります。
企業価値を考えるうえでは、現在の利益が将来も再現できるかという視点が重要になります。
まず営業利益を見る
一過性利益を見つける第一歩は、純利益だけでなく営業利益を見ることです。
例えば前年の営業利益が500億円、純利益が300億円だった企業があるとします。
今年の営業利益は510億円とほぼ横ばいなのに、純利益が600億円へ倍増していたらどうでしょうか。
本業の収益力が2倍になったわけではありません。
営業利益から純利益までの間に、大きな利益が発生している可能性があります。
このように営業利益と純利益の動きが大きく異なる場合には、その理由を確認する必要があります。
固定資産の売却益に注意する
代表的な一過性利益が固定資産の売却益です。
企業が保有する土地や建物を売却すると、帳簿上の価格と売却価格との差額が利益になる場合があります。
例えば帳簿上100億円の土地を300億円で売却すれば、単純化すると200億円の売却益が発生します。
純利益は大きく増える可能性があります。
しかし土地を売却したことによる利益であり、本業の商品やサービスが急成長したわけではありません。
翌年度には同じ売却益が発生しない可能性があります。
純利益が急増したときには、固定資産売却益の有無を確認したいところです。
保有株式の売却益も確認する
企業が保有する他社株式を売却することで、大きな利益が発生することもあります。
政策保有株式の縮減を進めている企業では、株式売却益が純利益を押し上げるケースがあります。
株式の売却自体が悪いわけではありません。
資産効率を高めたり、得られた資金を成長投資や株主還元に使ったりすることもできます。
ただし株式売却益によって純利益が増えている場合、その利益を本業の成長による増益と同じように考えることはできません。
何によって利益が増えたのかを区別する必要があります。
補助金や保険金も一時的な場合がある
補助金や保険金などが利益を押し上げることもあります。
例えば災害によって工場が被害を受け、保険金を受け取る場合があります。
一定の政策に基づく補助金を受け取るケースもあります。
これらが毎年同じように発生するとは限りません。
決算の利益が大きく変化している場合には、通常の事業活動以外から生じた収益が含まれていないかを確認することが重要です。
税金によって純利益が増えることもある
税負担の変化によって純利益が大きく動く場合もあります。
営業利益や税引前利益がそれほど増えていないのに、純利益だけが大幅に増加している場合には、税金の影響を確認する必要があります。
一時的な税効果によって純利益が押し上げられることもあります。
純利益は株主に帰属する最終的な利益として重要ですが、企業の本業の収益力を見るためには、そこに至るまでの利益の流れを見る必要があります。
在庫評価の影響を見る
資源価格が大きく変動する企業では、在庫評価が利益に影響することがあります。
今回の記事でも、原油価格の上昇に伴う在庫評価益などによって進捗率が高く見えるケースへの注意が示されています。
在庫評価益によって利益が押し上げられていても、それが毎期続くとは限りません。
資源価格が反対方向へ動けば、今度は利益を押し下げる可能性があります。
資源、エネルギー、素材関連企業などを見る場合には、在庫要因を除いた利益がどうなっているのかを確認することが重要です。
為替による利益も分けて考える
海外事業の多い企業では、為替が業績に大きな影響を与えます。
円安によって海外事業の利益を円換算した金額が増える場合があります。
為替差益が発生することもあります。
もちろん為替による利益も実際の利益です。
しかし為替相場は企業自身で完全にコントロールできるものではありません。
円安によって利益が増えたのか、販売数量や利益率の改善によって利益が増えたのかでは意味が違います。
企業が為替影響を除いた業績を説明している場合には、その数字も確認したいところです。
関税など特殊要因の反動にも注意する
特殊な政策や制度変更によって利益が一時的に増減する場合もあります。
今回の記事では、2025年の米国の関税政策に関連する還付などが、2027年3月期の高い進捗率につながる場合があると指摘されています。
こうした特殊要因があると、前年同期との単純比較だけでは企業の実力を判断しにくくなります。
前年に大きな損失があったため、今年はその反動で増益率が非常に高くなる場合もあります。
数字が大きく変化したときほど、比較の基準となる前年に特殊事情がなかったかを確認することが重要です。
キャッシュフローも確認する
利益の質を考えるうえではキャッシュフローも参考になります。
会計上の利益が増えていても、営業活動によるキャッシュフローが伴っていない場合があります。
売掛金や在庫が大きく増加している場合などです。
一方、固定資産の売却によって多額の現金が入っていても、それは通常の営業活動から生まれた現金とは性質が異なります。
利益とキャッシュフローの両方を見ることで、企業がどのように資金を生み出しているのかを理解しやすくなります。
決算短信の増減理由を読む
一過性利益を見抜くには、数字だけでなく決算短信などの説明部分を読むことが重要です。
純利益が大きく増減している場合、企業がその理由を説明していることがあります。
固定資産売却益を計上した。
投資有価証券売却益が発生した。
減損損失を計上した。
為替の影響を受けた。
こうした説明を確認すれば、利益の増減が本業によるものか、一時的な要因によるものかを判断しやすくなります。
前年同期だけでなく数年間を見る
一過性利益は数年間の利益推移を見ることでも発見しやすくなります。
例えば営業利益が毎年500億円前後なのに、ある年度だけ純利益が1,000億円になっているとします。
通常とは大きく異なる数字です。
その年度に何が起きたのかを調べる必要があります。
1年間だけを見ると大幅増益企業に見えても、5年間を見ると一時的な利益増加だったと分かる場合があります。
企業の収益力を判断するときには、単年度ではなく複数年度を見ることが重要です。
上方修正の理由を確認する
業績予想が上方修正された場合にも、一過性利益への注意が必要です。
例えば純利益予想が500億円から700億円へ上方修正されたとします。
一見すると大きな好材料です。
しかし200億円の増額理由が保有不動産の売却益だけだった場合、本業の業績予想は変わっていない可能性があります。
一方、販売数量の増加や価格転嫁、利益率改善によって営業利益予想そのものが引き上げられているのであれば、意味は異なります。
上方修正では金額だけでなく、何が修正されたのかを見る必要があります。
一過性損失も同じ考え方で見る
一過性要因は利益を増やすものだけではありません。
減損損失、事業撤退費用、災害損失などによって純利益が一時的に大きく減少する場合があります。
その結果、最終赤字になっていても、本業では利益を稼いでいるケースがあります。
したがって一過性要因を確認する目的は、利益を過大評価しないことだけではありません。
一時的な損失によって企業の本来の収益力を過小評価しないためにも必要です。
結論
企業の決算では、利益の大きさだけを見るのではなく、その利益がどこから生まれたのかを確認することが重要です。
固定資産や保有株式の売却益。
補助金や保険金。
在庫評価益。
為替の影響。
税負担の変化。
特殊な政策や制度による影響。
こうした要因によって利益が一時的に大きく増えることがあります。
逆に一過性の損失によって純利益が大きく減少することもあります。
重要なのは、その利益や損失が翌年度以降も繰り返される可能性があるのかという視点です。
決算の数字は結果ですが、その数字を作った理由まで確認することで企業の本当の収益力が見えてきます。
上方修正や高い進捗率を見つけたときほど、なぜ利益が増えたのかを確認する。
それが決算数字に惑わされないための重要な習慣になります。
参考
日本経済新聞 2026年10月3日 朝刊「業績の上方修正を先取り 進捗率や市場予想を見極め」