ブラジル大統領選挙の第1回投票を受け、株式市場だけでなく外国為替市場も大きく動きました。
右派のフラビオ・ボルソナロ上院議員が事前予想を覆して首位となったことで、通貨レアルは対ドルで一時約5%上昇しました。
新興国を見るとき、どうしても株価に注目しがちです。
しかし日本の投資家にとって、株価と同じくらい重要なのが為替です。
株式が上昇しても通貨が下落すれば利益が相殺されることがあります。反対に株式と通貨が同時に上昇すれば、投資収益が大きく膨らむ可能性があります。
今回のブラジル市場では、まさに株高と通貨高が同時に起こりました。
なぜ選挙で通貨が上昇するのか
通貨の価値は、その国の経済に対する世界の投資家の評価を映しています。
今回、市場が期待したのはボルソナロ氏が掲げる市場重視の経済政策です。
政府支出の削減。
規制緩和。
民間投資の促進。
資源開発の加速。
こうした政策によってブラジル経済の成長力が高まり、財政赤字への懸念も後退するのではないかとの期待が広がりました。
ブラジルへ投資しようとする海外投資家が増えれば、株式や債券を購入するためにレアルが必要になります。
ドルなどを売ってレアルを買う資金が増えれば、レアル高につながります。
今回のレアル上昇は、ブラジルという国に対する市場評価の変化を示していると見ることができます。
株高と通貨高が重なる効果
海外投資では、現地資産の値動きだけを見てはいけません。
例えば、ブラジル株が10%上昇したとしても、同じ期間にレアルが円に対して10%程度下落すれば、日本の投資家から見た利益の多くが消えてしまう可能性があります。
逆もあります。
ブラジル株が上昇し、さらにレアルも円に対して上昇すれば、株価上昇と為替差益の両方を得られる可能性があります。
新興国投資では、この株価と為替の二重構造を理解することが重要です。
今回のブラジル市場で株式とレアルが同時に買われたことは、海外投資家がブラジル全体への評価を引き上げたことを示しています。
財政への信頼が通貨を左右する
レアルの今後を考えるうえで重要になるのが財政です。
政府が支出を拡大し続ければ、財政赤字や政府債務への懸念が高まります。
政府が将来どのように借金を返すのか。
インフレによって実質的な債務負担を軽くしようとするのではないか。
こうした不安が高まれば、海外投資家はその国の通貨を保有することに慎重になります。
逆に財政規律への信頼が高まれば、国債や株式への投資資金が入りやすくなります。
ボルソナロ氏が政府支出の削減を掲げていることがレアル買いにつながった背景には、この財政への期待があります。
金利もレアルを動かす
新興国通貨を考えるうえでは金利も欠かせません。
一般的に金利が高い国の債券は、高い利回りを求める海外投資家の資金を集めやすくなります。
そのため高金利は通貨を支える要因になることがあります。
ただし、単純に金利が高ければよいわけではありません。
インフレが深刻だから高金利になっている場合や、財政不安から国債金利が上昇している場合には、むしろ通貨が売られることがあります。
重要なのは金利の高さではなく、その背景です。
インフレ、財政、経済成長、政治への信頼をまとめて見る必要があります。
レアル高はインフレ抑制にもつながる
ブラジルのように海外から多くの商品を輸入する国では、通貨の価値が国内物価にも影響します。
レアル安が進めば、ドル建てで輸入する商品を購入するために、より多くのレアルが必要になります。
原材料や機械、エネルギーなどの輸入価格が上昇すれば、それが企業のコストを押し上げ、最終的には消費者物価に波及する可能性があります。
反対にレアル高になれば、輸入物価を抑える方向に働きます。
インフレが落ち着けば、中央銀行が金融政策を運営しやすくなります。
その結果、企業や家計の資金調達環境にも影響が広がっていきます。
通貨高がすべての企業に有利とは限らない
一方で、レアル高にはマイナス面もあります。
代表的なのが輸出企業です。
ブラジルには原油、鉄鉱石、大豆などを海外へ輸出する企業が多くあります。
これらの企業はドルなど外貨で収入を得ることがあります。
レアル高が進むと、同じ1ドルを稼いでもレアルに換算したときの金額が小さくなります。
また、ブラジル国内で生産した商品の海外価格が相対的に高くなり、価格競争力が低下する可能性もあります。
国全体では通貨高が好感されても、企業ごとに影響は異なるのです。
ドルの動きにも左右される
レアル相場をブラジル国内だけで説明することはできません。
世界の為替市場では米ドルの動きが非常に大きな影響を持っています。
米国の金利が上昇し、米国債の魅力が高まれば、新興国から米国へ資金が移動することがあります。
その場合、ブラジル経済が順調でもレアルが下落する可能性があります。
反対に米国の金融緩和観測が強まれば、新興国へ資金が流れやすくなることがあります。
ブラジルレアルを見る場合には、ブラジルの政治や経済だけでなく、米国の金融政策も確認する必要があります。
新興国投資では為替が主役になることもある
日本から海外へ投資すると、必ずといってよいほど為替の影響を受けます。
特に新興国では、政治や財政、資源価格、米国金利などによって通貨が大きく動くことがあります。
そのため現地株価が上昇しているだけで投資成果を判断するのは危険です。
株価。
為替。
金利。
インフレ。
財政。
この5つを一つの流れとして見る必要があります。
今回のブラジルは、その関係を理解する格好の事例です。
結論
ブラジル大統領選挙後に起きたレアル高は、単なる為替市場の短期的な動きではありません。
市場重視の経済政策や財政規律への期待から、海外投資家がブラジル資産に対する評価を引き上げた結果と考えられます。
株価と通貨が同時に上昇すれば、海外投資家にとって大きな追い風になります。
しかしレアル高は輸出企業には逆風となる場合があり、米国の金利やドル相場によって流れが変わる可能性もあります。
新興国投資では株価だけを見ないことです。
通貨は脇役ではありません。
ときには株価以上に投資成果を左右する主役になります。
ブラジル株の最高値更新とレアル急騰は、政治、財政、金利、株価、為替が密接につながっていることを改めて示しているといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月7日朝刊 ブラジル株が最高値更新、「親ビジネス政権」先取り 予想覆し右派躍進