パートタイムで働いていると、正社員との待遇の違いを感じることがあります。
正社員には賞与があるのにパートにはない。正社員には退職手当があるのにパートにはない。家族手当や住宅手当、休職制度などについても違いが設けられていることがあります。
こうした違いを見ても、「パートだから仕方がない」と考えている人は少なくありません。
しかし、正社員とパートの待遇が違うからといって、そのすべてが当然に認められるわけではありません。
2026年10月からのルール改正では、パートタイム労働者や有期雇用労働者が正社員との待遇差について会社に説明を求めることができるという点が、これまで以上に分かりやすく示されます。
働く人にとって大切なのは、単に待遇差があるかどうかではなく、「なぜ、その待遇差があるのか」を確認することです。
同一労働同一賃金とは何か
パートタイム・有期雇用労働法では、同じ企業で働く正社員とパートタイム労働者、有期雇用労働者との間に、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
大企業には2020年、中小企業には2021年から適用されています。
ここで注意したいのは、「正社員とパートの待遇をすべて同じにしなければならない」という制度ではないことです。
仕事内容や責任の程度、人事異動や配置転換の範囲などに違いがあれば、それを踏まえて待遇に違いを設けること自体はあり得ます。
一方で、仕事内容や責任などの違いでは合理的に説明できない待遇差であれば、問題になる可能性があります。
つまり重要なのは、雇用形態の名称ではなく、仕事の実態と待遇差の理由です。
説明を求めた人はわずか8%
制度上は、パートなどで働く人が会社に待遇差の内容や理由について説明を求めることができます。
それでも実際に説明を求める人は多くありません。
労働政策研究・研修機構の2023年の調査では、待遇差やその理由について会社に説明を求めたことがある人は8%でした。
説明を求めなかった理由では、「特に理由はない、考えたことがない」が約40%で最も多く、「待遇差に納得している」の約25%を上回っています。
待遇差に納得したから質問しなかったというより、そもそも「会社に聞ける」という発想がなかった人も相当数いることが分かります。
ここが今回の改正を考えるうえで重要なポイントです。
10月から労働条件通知書で分かりやすくなる
2026年10月からは、待遇の違いについて会社に説明を求めることができるという点が、雇い入れ時などに文書で明示されるようになります。
昇給や退職手当の有無などとともに、労働条件通知書などで確認できるようになります。
これによって、新しく働き始める人や契約を更新する人は、自分にどのような権利があるのかを認識しやすくなります。
たとえば、仕事内容が正社員とかなり近いにもかかわらず、自分には賞与がない場合には、
「正社員には賞与が支給されていますが、私には支給されない理由は何ですか」
と会社に確認できます。
重要なのは、質問したからといって会社が労働者を不利益に扱ってよいわけではないことです。
説明を求めたことを理由としてシフトを減らすなどの不利益な取り扱いは禁止されています。
退職手当もパートだから対象外とは限らない
今回注目したいのが、同一労働同一賃金ガイドラインの見直しです。
退職手当、家族手当、住宅手当などについても記載が拡充されます。
退職手当というと、正社員だけに支給するものというイメージがあるかもしれません。
しかし、退職手当には賃金の後払い、長期間勤務したことへの功労報酬など、会社によってさまざまな性格があります。
その目的とパートの働き方を照らし合わせる必要があります。
たとえば、長期勤続への報奨という性格が強い退職手当であれば、正社員と同じように長期間勤務しているパートについて、単に「パートだから」という理由だけで対象外にすることが合理的なのかが問題になります。
ガイドラインでは、正社員との職務内容などの違いに応じてバランスの取れた支給をしなければ、不合理と認められる可能性があるという考え方が示されています。
家族手当や住宅手当も目的から考える
家族手当や住宅手当についても同じです。
重要なのは、その手当を会社が何のために支給しているかです。
たとえば、長く勤務してもらうための福利厚生として家族手当を設けている会社があるとします。
契約更新を繰り返し、正社員と同じように長期勤務が見込まれるパートであれば、正社員との待遇差について合理的な説明が必要になる可能性があります。
住宅手当についても、転勤する従業員の住宅費負担を軽減する目的で支給しているのであれば、正社員と同じように転勤するパートを一律に対象外とすることが合理的なのかという問題が生じます。
したがって、単純に「正社員にはあるのに自分にはない」と比較するだけでは十分ではありません。
まず確認すべきなのは、手当の目的です。
待遇差があればすぐ違法になるわけではない
一方で、正社員とパートの待遇に違いがあるからといって、直ちに違法になるわけではありません。
仕事内容、責任の程度、配置転換の範囲、勤続期間などによって合理的な違いが認められる場合があります。
同一労働同一賃金ガイドラインも、個別企業の待遇差について自動的に違法か適法かを決めるものではありません。
会社ごとの手当の目的や働き方などによって判断は変わります。
最終的に不合理な待遇差かどうかが争われた場合には、裁判所が個別の事情を踏まえて判断することになります。
だからこそ、最初から「違法だ」と考えるのではなく、会社に待遇差の理由を説明してもらうことが重要になります。
最低賃金も同じ時期に確認したい
10月は、多くの都道府県で最低賃金が改定される時期でもあります。
時給制なら比較的確認しやすいのですが、月給制の場合は注意が必要です。
最低賃金と比較するときには、月給をそのまま見るのではありません。
通勤手当、家族手当、時間外手当など最低賃金の計算対象にならない賃金を除き、対象となる賃金を所定労働時間で割って時給換算して確認します。
月給制だから最低賃金は関係ないというわけではありません。
計算した時間当たりの賃金が適用される最低賃金を下回っていれば、会社は不足分を支払う必要があります。
労働条件通知書は受け取ったら保管する
今回の改正を機に、パートや有期契約で働く人は労働条件通知書をこれまで以上に重要な書類として扱った方がよいでしょう。
給与だけでなく、昇給、賞与、退職手当、相談窓口などについて確認します。
そして正社員との待遇差について疑問があれば、会社の相談窓口などに理由を確認します。
大切なのは、正社員と同じ待遇を当然に要求することではありません。
「なぜ違うのか」を知ることです。
説明を聞いて合理的だと納得できれば、安心して働き続けることにもつながります。
反対に、説明を聞いても納得できなかったり、会社が説明してくれなかったりする場合には、都道府県労働局などの相談窓口を利用する方法があります。
結論
同一労働同一賃金という言葉から、「同じ仕事なら給料を完全に同じにする制度」と考えてしまいがちです。
しかし、実際の制度で重要なのは、正社員とパートの待遇差そのものをなくすことだけではありません。
待遇差について合理的に説明できるかどうかです。
2026年10月からは、パートタイム労働者や有期雇用労働者が会社に待遇差の説明を求められることが、より分かりやすく示されます。
賞与、退職手当、家族手当、住宅手当なども、「パートだからないのが当然」と決めつけるのではなく、その手当が何のために設けられているのかを確認することが大切です。
同一労働同一賃金の次の段階は、単に待遇を比較することから、待遇差の理由を会社と労働者が確認することへ進んでいると考えられます。
働く側にとっては、労働条件通知書を受け取って終わりにするのではなく、自分の待遇を確認するための資料として活用することがますます重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月 パート待遇、会社に説明義務