人手不足が深刻なスーパーで、扶養を意識した求人が増えています。
企業の採用支援を手掛けるHRソリューションズによると、2026年1月から9月の各月1日に公開されていたスーパーの求人約31万8,000件のうち、扶養を意識したとみられる求人は22.7%を占めました。
前年同期から4.4ポイント上昇しています。
およそ4件から5件に1件という高い割合です。
人手が足りないのであれば、できるだけ長時間働ける人を採用したいはずです。
それでも扶養内勤務を前面に出さなければ人材を確保しにくいところに、スーパーという業界が抱える人手不足の難しさがあります。
スーパーはパート労働者に支えられている
スーパーには多くの仕事があります。
レジ、品出し、総菜、青果、精肉、鮮魚、清掃などです。
営業時間も長く、開店前の準備から閉店後の作業まで人手が必要になります。
こうした業務を支えているのが、多くのパートやアルバイトです。
特に家庭と仕事を両立しながら働く人は、スーパーにとって重要な労働力です。
短時間でも働いてもらわなければ店舗運営そのものが難しくなるため、企業側は働く人の希望に合わせた勤務条件を用意する必要があります。
なぜ扶養内を求人に明記するのか
扶養内で働きたい人にとって、年収や勤務時間を調整できるかどうかは重要な応募条件です。
求人票に何も書かれていなければ、応募後に確認しなければなりません。
それなら最初から扶養内勤務OKと書かれている求人を選ぼうと考える人もいるでしょう。
企業側もそのことを理解しています。
そこで扶養内勤務に対応できることを求人票で明確にします。
人手不足が進むほど、企業が求職者を選ぶだけではなく、求職者から選ばれる条件を提示する必要があります。
扶養内勤務への対応も採用競争の1つになっています。
22.7%という数字が示すもの
スーパーの扶養を意識した求人が22.7%に達していることは、単に短時間勤務が多いというだけではありません。
働く側と企業側の双方が、社会保険の扶養を強く意識していることを示しています。
本来、勤務時間は店舗が必要とする労働時間と、本人が働ける時間の組み合わせで決まるはずです。
ところが、そこに130万円や週20時間といった制度上の基準が入ります。
本人にはもっと働く余裕がある。
店舗にももっと働いてほしい事情がある。
それでも壁を意識して勤務時間を抑える。
こうしたミスマッチが起こり得ます。
最低賃金上昇がスーパーを直撃する
スーパーにとってもう1つ重要なのが最低賃金です。
2026年度の最低賃金の全国加重平均は1,177円となり、前年度から56円上昇します。
最低賃金の上昇は、働く人の収入を引き上げる重要な政策です。
一方、扶養内勤務を希望する人の場合には別の動きが生じます。
時給が上がると、同じ勤務時間でも年収が増えるためです。
一定の年収以内に収めようとすれば、勤務時間を短くする必要があります。
スーパー側からすると、賃上げをしたのに確保できる労働時間が減る可能性があります。
年収130万円と週20時間が接近する
2026年度の最低賃金の全国加重平均1,177円で年間130万円を得るために必要な労働時間は、単純計算で約1,104時間です。
年間52週で割れば週平均約21時間になります。
社会保険加入では週20時間という労働時間要件があります。
最低賃金の上昇によって、130万円という収入基準と週20時間という時間基準が近づいています。
今後さらに時給が上昇すれば、扶養内で働きたい人にとって週20時間未満という勤務形態が一段と意識される可能性があります。
年末のシフト調整だけでは済まない
かつて年収の壁による働き控えは、年末に集中する問題として認識されることがありました。
年収が一定額を超えそうになったパート社員が、11月や12月にシフトを減らすという問題です。
しかし時給が上昇すると、年収の壁に到達する時期が早まります。
夏や秋の段階から勤務時間を調整する必要が出てくる人もいます。
スーパーにとっては年末だけの問題ではなく、年間を通じた人員配置の問題になります。
繁忙期に必要な人員を確保できるかどうかにも影響します。
1人が減らした時間を誰かが埋める
店舗運営では、必要な仕事量そのものが簡単に減るわけではありません。
あるパート社員が年収の壁を理由に週3時間勤務を減らした場合、その3時間分の仕事は誰かが担当しなければなりません。
別のパート社員が働く。
正社員が穴を埋める。
新しい人を採用する。
業務を効率化する。
いずれかの対応が必要になります。
何十人もの従業員が同じように勤務時間を減らせば、その影響は大きくなります。
採用人数が増えればコストも増える
1人当たりの勤務時間が短くなれば、同じ総労働時間を確保するために必要な人数は増えます。
人数が増えると、求人広告、採用面接、入社手続き、教育、勤怠管理などの業務も増えます。
新人が増えれば、仕事を教える既存社員の負担も大きくなります。
つまり年収の壁は、単に労働時間を減らすだけではありません。
企業の採用コストや管理コストを増やす可能性もあります。
正社員への負担集中にもつながる
必要な人数を採用できなければ、不足した時間を正社員が補うケースもあります。
パート社員のシフトを増やせない。
新しい人も採用できない。
それでも店舗は営業しなければならない。
その結果、正社員や店長などに仕事が集中する可能性があります。
人手不足による長時間労働を減らすためにも、既に働いている人が希望に応じて勤務時間を増やせる環境を整えることには意味があります。
スーパーは制度の影響が見えやすい業界
年収の壁は多くの業界に存在する問題です。
その中でもスーパーは影響が見えやすい業界といえます。
短時間労働者が多い。
営業時間が長い。
必要な業務量が多い。
地域ごとに人材を確保しなければならない。
そして最低賃金上昇の影響を受けやすい。
こうした条件が重なっているためです。
スーパーの求人動向を見ることは、日本全体の年収の壁と人手不足の問題を考えるうえでも参考になります。
結論
スーパーの求人で、扶養を意識したとみられる求人が22.7%に達していることは、年収の壁が企業の採用現場に深く入り込んでいることを示しています。
人手不足の企業は本来、既存の従業員により長く働いてもらいたいはずです。
しかし、扶養内勤務を希望する人を採用するためには、短時間勤務にも対応しなければなりません。
さらに最低賃金が上昇すれば、一定の年収以内で働ける時間は短くなります。
その結果、企業は同じ労働時間を確保するため、より多くの人を採用する必要があります。
扶養内勤務OKという求人は、働きやすさを示すだけの言葉ではありません。
年収の壁、人手不足、最低賃金上昇、企業の採用難が交差する場所にある言葉です。
スーパーの22.7%という数字からは、日本の労働市場が抱える構造的な問題が見えてきます。
参考
日本経済新聞 2026年10月1日朝刊 労働臨界「働き控え」なお400万人超 「年収の壁」106万円撤廃