私たちはクレジットカードで買い物をするとき、通常は決済手数料を意識しません。
1,000円の商品をカードで購入すれば、原則として利用者が支払うのは1,000円です。
しかし、店舗側では事情が違います。
カード決済を受け入れるために加盟店手数料を負担しています。元記事ではクレジットカード決済の手数料を3%前後としています。
このコスト構造を変える可能性があるのが、ステーブルコインによる決済です。
3%は小さな数字ではない
3%という数字だけを見ると、それほど大きな負担には感じないかもしれません。
しかし、売上高が大きくなると金額も大きくなります。
例えば年間1億円の売上があり、そのすべてが3%の手数料がかかる決済だったと単純化すれば、年間300万円になります。
売上高が10億円なら3,000万円です。
もちろん実際の手数料率は契約条件や決済サービスなどによって異なりますが、利益率の低い業種では数%の決済コストが経営に与える影響は小さくありません。
特に飲食店や小売店では、売上ではなく利益との比較で考える必要があります。
なぜカード決済には手数料がかかるのか
クレジットカードは、利用者と店舗を直接結んでいるだけの仕組みではありません。
カード会社や加盟店管理会社など複数の事業者によって巨大な決済ネットワークが構築されています。
利用者がカードを提示すると、決済の承認、売上情報の処理、店舗への代金支払いなどが行われます。
さらに不正利用への対応やシステム維持などにもコストがかかります。
加盟店手数料は、こうした決済インフラを維持するための対価でもあります。
したがって、カード手数料を単純に高すぎるコストと考えるだけでは十分ではありません。
ステーブルコインでは直接送れる
ステーブルコイン決済では、お金の流れが変わります。
利用者が自分のウォレットから店舗のウォレットへステーブルコインを送ることができます。
元記事では、JPYCによる支払いを受ける場合、店舗側はレジ前にQRコードを用意する程度で始めることができ、JPYCとの契約や決済手数料も不要とされています。
カード決済のように複数の事業者を経由する構造とは異なり、ブロックチェーン上で利用者と店舗を直接結びやすいことが特徴です。
中間に入る事業者を減らせれば、決済コストを下げられる可能性があります。
QRコードだけなら小規模店にも導入しやすい
ステーブルコイン決済の特徴の1つが、導入設備を簡素化できる可能性です。
店舗側がウォレットを用意し、支払先を示すQRコードを利用者に提示します。
利用者はスマートフォンでQRコードを読み取り、ステーブルコインを送ります。
専用の大型設備を導入する必要がなければ、小規模な飲食店や個人商店でも利用しやすくなります。
決済手段を導入するための固定費と、決済するたびに発生する変動費の両方を抑えられれば、店舗側には大きな意味があります。
では決済コストは本当にゼロになるのか
ここで注意したいのが、決済手数料が無料だからといって、すべてのコストがゼロになるとは限らないことです。
ブロックチェーンを利用する際には、ネットワークによって取引処理にコストが発生する場合があります。
ステーブルコインを円へ戻すためのコストや、ウォレットを管理するためのシステム費用が生じる可能性もあります。
企業で利用するなら、会計システムとの連携、内部統制、セキュリティー対策なども必要です。
したがって比較すべきなのは、加盟店手数料があるかないかだけではありません。
決済に必要となる総コストで比較する必要があります。
カードには後払いという強みがある
もう1つ重要なのが、ステーブルコインとクレジットカードでは機能が違うことです。
クレジットカードという名前の通り、カードには信用を利用した後払い機能があります。
利用者は購入時点で銀行口座から現金を支払わなくても商品を購入できます。
さらにポイントやマイル、分割払いなど多くの付加サービスがあります。
ステーブルコインによる直接決済は、基本的には保有している価値を移転する仕組みです。
決済コストが低いという理由だけで、カードのすべての機能を置き換えられるわけではありません。
消費者保護も重要になる
クレジットカードには、不正利用が起きた場合などに利用者を保護するための仕組みがあります。
一方、ブロックチェーン上の取引では、一度実行した送金を簡単には取り消せない場合があります。
例えば支払先を間違えたとき、銀行振込やカード決済と同じ感覚で取り消せるとは限りません。
店舗と利用者の間で返品や返金が発生した場合の処理方法も考える必要があります。
決済サービスとして普及するためには、速く安く送れることに加えて、トラブルが起きた場合にどう解決するかという仕組みが重要です。
店舗にとっては交渉力が生まれる
ステーブルコインが普及した場合、実際にカード決済を完全に置き換えなくても意味があります。
店舗に別の決済手段が生まれるからです。
現金、銀行振込、クレジットカード、QRコード決済に加えて、ステーブルコインという選択肢が加わります。
決済手段同士の競争が激しくなれば、既存の決済事業者にも手数料を引き下げたり、サービスを改善したりする圧力が働く可能性があります。
ステーブルコインの影響は、実際にどれだけ利用されるかだけでは測れません。
競争相手が登場すること自体が既存サービスを変える可能性があります。
決済手数料から別の収益モデルへ
ステーブルコインには、決済ビジネスの収益構造を変える可能性もあります。
従来は、決済するたびに店舗などから手数料を受け取るモデルが一般的でした。
一方、ステーブルコインでは裏付けとして保有する円や国債などから運用収益を得るという考え方があります。
発行残高が増えれば、裏付け資産も増えます。
その運用収益によって事業を支えられるのであれば、1回の決済ごとに高い手数料を取らなくても事業が成立する可能性があります。
これは決済業界にとって大きな構造変化です。
クレジットカードはなくなるのか
ステーブルコインが普及しても、クレジットカードがすぐになくなるとは考えにくいでしょう。
カードには後払い、ポイント、補償、世界的な加盟店網など強力な利便性があります。
むしろ将来は両者が融合する可能性があります。
元記事では、ナッジ社のクレジットカードを利用することでVISA加盟店での支払いにJPYCを利用できる例が紹介されています。
利用者から見える部分は従来のカードでも、その裏側ではステーブルコインが利用されるという形も考えられます。
重要なのはカードかステーブルコインかという二者択一ではなく、決済の裏側にある資金移動の仕組みが変わることです。
結論
ステーブルコインによって、クレジットカードの3%前後の手数料がすべてなくなると考えるのは早計です。
カード手数料には決済ネットワーク、不正利用対策、後払い機能、消費者保護などさまざまなサービスのコストが含まれています。
一方、ステーブルコインには利用者から店舗へ直接価値を移転し、中間コストを抑えられる可能性があります。
特に利益率の低い小売店や飲食店にとって、決済コストの低下は大きな意味を持ちます。
そして、本当に重要なのはステーブルコインがカードを消滅させるかどうかではありません。
新しい決済手段の登場によって、これまで当然のように店舗が負担してきた決済手数料そのものが競争にさらされることです。
キャッシュレス化の次に起きるのは、決済手段の競争から決済コストの競争への移行なのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年10月3日 朝刊 「個人間・国際送金を安く ステーブルコインを活用」
日本経済新聞 2026年10月3日 朝刊 「実証実験の最中」