カスハラ対策認定制度とは何か 従業員を守る企業を見える化する仕組み編

経営

2026年10月1日から企業にカスタマーハラスメント対策が義務付けられます。

企業には、カスハラを現場の従業員だけに対応させるのではなく、会社として方針を定め、相談体制などを整えることが求められます。

しかし、外部から見ただけでは、その会社がどこまで従業員を守る仕組みを整えているのかは分かりません。

そこで注目されるのが、カスハラ対策に積極的に取り組む企業を第三者が認定する仕組みです。

日本コンタクトセンター協会は2025年10月、カスハラ対策に取り組む企業を認定する制度を開始しました。

責任者を置いているのか。

会社として基本方針を定めているのか。

問題が起きたときの対応体制があるのか。

こうした取り組みを一定の基準によって確認し、従業員を守る企業を見える化するものです。

カスハラ対策が法律への対応だけでなく、人材採用や企業評価にも影響する時代に入るなか、こうした認定制度の意味は今後さらに大きくなる可能性があります。

なぜカスハラ対策に認定制度が必要なのか

カスハラ対策は企業内部の仕組みであるため、外部から実態が見えにくいという特徴があります。

企業のホームページに、

カスハラ対策に取り組んでいます

と書かれていても、実際にどこまで体制が整っているのかは分かりません。

相談窓口があるのか。

現場から責任者へ引き継げるのか。

従業員への研修を行っているのか。

会社として顧客への対応方針を決めているのか。

認定制度は、一定の基準を設けて企業の取り組みを確認することで、こうした見えにくい対策を外部から分かるようにする役割を持ちます。

日本コンタクトセンター協会が認定制度を開始した

今回の記事では、日本コンタクトセンター協会の取り組みが紹介されています。

同協会は2025年10月、カスハラ対策に取り組む企業の認定制度を開始しました。

認定を受けるためには、責任者の選任と登録、基本方針の策定と公開など9項目について誓約したうえで審査を受ける必要があります。

すでに40社以上が認定されています。

コールセンターは、カスハラ対策の必要性が特に高い職場の一つです。

顧客と直接対面していない一方、電話という環境では長時間の拘束や暴言などが発生することがあります。

そのため業界全体で対策の水準を引き上げる必要があります。

責任者を決めることが重要になる

カスハラ対策では、

誰が最終的に判断するのか

を明確にすることが重要です。

現場の担当者だけに判断を任せれば、

どこまで対応すればよいのか

いつ電話を切ってよいのか

いつ警察や弁護士へ相談するのか

が分からなくなります。

そこで責任者を選任します。

現場から問題が上がってきたときに、責任者が会社として判断する仕組みをつくります。

認定制度で責任者の選任が求められていることには、カスハラを個人対応から組織対応へ変えるという意味があります。

基本方針を定める意味

認定制度では、カスハラに対する基本方針を定めることも重要になります。

たとえば、

正当なご意見やご要望には誠実に対応する

暴力や脅迫などの行為は認めない

悪質な場合には対応を終了する

従業員を会社として守る

といった考え方です。

基本方針がなければ、店舗や担当者によって対応が変わる可能性があります。

ある従業員は暴言に長時間耐える。

別の従業員は早い段階で対応を終了する。

こうしたばらつきを減らすためにも、会社としての考え方を明確にする必要があります。

基本方針を公開する意味もある

カスハラ対策の基本方針は、社内だけで共有するものとは限りません。

顧客など外部へ公開することにも意味があります。

会社として、

どのような行為をカスハラと考えているのか

悪質な行為にどう対応するのか

従業員をどのように守るのか

を明確にできます。

これは顧客への事前告知になります。

同時に従業員に対しても、

会社はあなたを守ります

というメッセージになります。

認定制度と基本方針の公開を組み合わせることで、企業の姿勢を社内外に示すことができます。

認定制度は法律上の義務とは別のもの

ここで注意したいのは、業界団体などによる認定制度と、法律によるカスハラ対策義務は別のものだということです。

認定を取得していなければ法律違反になるというものではありません。

反対に、認定を取得したからといって、その後何もしなくてよいわけでもありません。

実際の企業には、

相談窓口が機能しているのか

現場の従業員がルールを理解しているのか

発生したカスハラに適切に対応しているのか

といった運用が求められます。

認定は対策の存在を示す一つの方法であって、日々の運用に代わるものではありません。

認定が採用活動に影響する可能性がある

カスハラ対策の認定制度が注目される理由の一つが、人材採用との関係です。

求職者が会社を選ぶときには、

給与

勤務時間

休日

福利厚生

だけを見るわけではありません。

安心して働ける職場なのかという点も重要です。

特に接客業やコールセンターでは、

顧客から暴言を受けたとき会社が守ってくれるのか

という問題は働く人にとって切実です。

企業が第三者による認定を取得していれば、

カスハラ対策について一定の仕組みを整えている企業

という情報を求職者へ示すことができます。

離職防止にもつながる可能性がある

カスハラは従業員の離職につながる可能性があります。

問題は、顧客から暴言を受けることだけではありません。

その後に会社から、

お客様なのだから我慢してください

と言われれば、従業員の会社に対する信頼も失われます。

反対に、

困ったら責任者へ引き継げる

相談窓口がある

会社として対応を終了する基準がある

という仕組みがあれば、従業員の安心感は高まります。

認定制度への取り組みをきっかけに、こうした社内体制を整備することには離職防止の意味もあります。

認定取得の過程そのものに意味がある

認定制度の価値は、認定マークなどを取得することだけではありません。

認定を受けるために自社の体制を点検する過程にも意味があります。

会社として基本方針があるか。

責任者は決まっているか。

相談窓口は従業員に知られているか。

対応マニュアルはあるか。

問題発生後の報告方法は決まっているか。

こうした項目を確認すると、自社の対策で不足している部分が見えてきます。

認定制度を、カスハラ対策の健康診断のように利用することもできます。

中小企業にも参考になる

認定制度そのものが特定の業界を対象としていても、そこで示される考え方はほかの企業にも参考になります。

特に中小企業では、

何から始めればよいのか分からない

というケースがあります。

その場合、

基本方針

責任者

相談窓口

対応マニュアル

従業員研修

記録

といった認定制度の項目を参考に、自社の体制を確認する方法があります。

すべてを一度に高度な仕組みにする必要はありません。

既存のハラスメント相談窓口を活用するなど、現在ある制度と組み合わせながら整備することも可能です。

ほかの業界にも広がる可能性がある

カスハラはコールセンターだけの問題ではありません。

小売。

飲食。

宿泊。

交通。

金融。

医療。

介護。

宅配。

不動産。

行政窓口。

顧客や利用者と接するさまざまな現場で発生する可能性があります。

そのため今後、業界団体などが独自の認定制度や宣言制度を設ける動きが広がる可能性があります。

業界ごとに発生しやすいカスハラが異なるため、それぞれの業務に合った認定基準がつくられることも考えられます。

認定制度が業界全体の水準を引き上げる

認定制度には、一社の対策を評価するだけでなく、業界全体の対策水準を引き上げる効果も期待できます。

競合企業が認定を取得する。

採用ページでカスハラ対策をアピールする。

求職者が安心して働ける企業を選ぶ。

そうなれば、ほかの企業も対策を強化する必要が出てきます。

これまで企業間では、

顧客へどれだけ手厚く対応できるか

という競争が行われてきました。

今後は、

従業員をどれだけ安心して働かせられるか

という点も企業競争の一つになる可能性があります。

認定を取ることが目的になってはいけない

一方で注意したいのは、

認定を取ればカスハラ対策は完成

と考えないことです。

制度だけ存在しても、

従業員が相談窓口を知らない

相談しても上司が対応しない

マニュアルが現場で使われていない

責任者へ連絡できない

という状態では意味がありません。

認定制度で最も重要なのは、書類上の体制ではなく、その仕組みが実際の現場で機能することです。

認定取得後も、発生した事例を分析し、マニュアルや研修を改善していく必要があります。

結論

カスハラ対策認定制度は、従業員を守るための企業の取り組みを外部から見えるようにする仕組みです。

日本コンタクトセンター協会では、責任者の選任や基本方針の策定と公開などを含む基準を設け、カスハラ対策に取り組む企業を認定しています。

こうした制度には、

企業の対策を点検する

従業員へ安心感を与える

求職者へ職場環境を示す

離職防止につなげる

業界全体の対策水準を高める

といった効果が期待できます。

2026年10月からカスハラ対策が企業に義務付けられることで、最低限の法令対応は多くの企業に共通する課題になります。

その先では、

法律で求められたから対策する会社

から、

従業員を守ることを積極的に示す会社

への違いが生まれてくるかもしれません。

カスハラ対策の認定制度は、従業員を守る仕組みそのものを企業価値として見える化する、新しい動きといえるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 カスハラ対策に企業奔走

日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 官民で広がるサポート

日本コンタクトセンター協会 2025年10月 カスタマーハラスメント対策認定制度

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