会社経営では、「利益が出ているかどうか」だけでなく、「どこまで売上が落ちると赤字になるのか」を把握しておくことが重要です。
しかし実際には、「何となく感覚で経営している」「売上目標はあるが、黒字ラインを正確に知らない」というケースも少なくありません。
今回の記事では、参考資料で紹介されている「損益分岐点」の考え方をもとに、中小企業経営においてなぜ損益分岐点の把握が重要なのか、そしてどのように経営判断へ活かしていくのかを整理します。
損益分岐点とは何か
損益分岐点とは、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。
つまり、
- これを上回れば黒字
- これを下回れば赤字
となる境界線です。
経営者にとって重要なのは、「現在の利益額」だけではありません。
むしろ、
- どこまで売上が減っても耐えられるのか
- あとどれだけ売れば黒字になるのか
- どの費用を削減すると経営が改善するのか
を把握することが、日々の経営判断につながります。
固定費と変動費に分ける意味
損益分岐点を計算するには、まず費用を「固定費」と「変動費」に分ける必要があります。
変動費
売上に応じて増減する費用です。
例えば飲食店であれば、
- 食材費
- クレジットカード手数料
- 外注費
などが該当します。
固定費
売上に関係なく発生する費用です。
例えば、
- 家賃
- 人件費
- リース料
- 通信費
などがあります。
この区分を誤ると、損益分岐点の分析自体が不正確になります。
特に近年は、サブスクリプション契約や業務委託費など、「固定費なのか変動費なのか判断が難しい費用」も増えています。
そのため、経理担当者や税理士が費用構造を整理する役割は、以前より重要になっています。
限界利益率が意味するもの
参考資料では、次のような事例が紹介されています。
- 売上高:3,000万円
- 変動費:960万円
- 固定費:2,640万円
- 営業損失:600万円
この場合、
- 限界利益=売上高−変動費
- 3,000万円−960万円=2,040万円
となります。
さらに、
- 限界利益率=限界利益÷売上高
- 2,040万円÷3,000万円=68%
となります。
この68%という数字は、「売上が1円増えると、そのうち0.68円が固定費回収や利益に回る」という意味です。
つまり、限界利益率は単なる会計数値ではなく、
- 売上増加が利益にどれだけ結びつくか
- 値引きにどれだけ耐えられるか
- 固定費をどれだけ吸収できるか
を示す経営指標でもあります。
損益分岐点がわかると経営判断が変わる
参考資料では、損益分岐点売上高は次のように計算されています。
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
- 2,640万円÷68%≒3,882万円
つまり、この会社は黒字化するために、あと882万円の売上が必要だったことになります。
ここで重要なのは、「赤字」という結果だけを見るのではなく、
- 具体的にあといくら必要なのか
- その数字は現実的なのか
- 売上増加と固定費削減のどちらが有効か
を考えられるようになる点です。
経営は感覚だけでは続きません。
数字を使って「あとどれだけ必要か」を可視化することで、意思決定の精度が上がります。
売上を伸ばすより固定費削減が有効な場合
参考資料では、固定費を毎月20万円削減した場合の変化も紹介されています。
年間240万円の固定費削減ができると、損益分岐点売上高は、
- 3,882万円 → 3,529万円
へ低下します。
つまり、追加で必要な売上も大きく減少します。
これは非常に重要な視点です。
多くの経営者は、
「売上を増やさなければ」
と考えます。
しかし実際には、
- 家賃の見直し
- サブスク契約整理
- 人員配置の適正化
- 業務効率化
- 外注費見直し
などによって、利益構造が大きく改善する場合があります。
特に人口減少社会では、「無理な売上拡大」より、「固定費を抑えながら利益を残す経営」の重要性が高まっています。
中小企業経営で本当に必要な数字とは
中小企業では、
- 売上
- 預金残高
- 税金額
ばかりに目が向きがちです。
しかし本来重要なのは、
- 限界利益率
- 固定費総額
- 損益分岐点
- 月次資金繰り
- キャッシュ創出力
などの「経営構造を示す数字」です。
特に損益分岐点は、
- 値上げ判断
- 採用判断
- 出店判断
- 借入判断
- 投資判断
など、あらゆる意思決定の基礎になります。
「あとどれだけ売れば黒字になるのか」
この問いに即答できるかどうかで、経営管理の水準は大きく変わります。
結論
損益分岐点は、単なる会計知識ではありません。
それは、
- 経営の安全ラインを知るための指標
- 意思決定の基準
- 赤字の原因を分析する道具
でもあります。
赤字になったときに重要なのは、「気合い」ではなく、「構造」を見ることです。
- 売上が不足しているのか
- 固定費が重すぎるのか
- 利益率が低すぎるのか
を数字で把握できれば、対策も具体化できます。
経理や会計は単なる記録業務ではありません。
本来は、「経営を見える化するための道具」です。
損益分岐点の考え方は、その入口として非常に重要なテーマと言えるでしょう。
参考
・『企業実務』2026年6月号 「猫と学ぶ『経理力』の磨き方 第6話 あとどんだけ売ったら黒字になるんや?」 原田秀樹