新NISAの普及を背景に、全世界の株式へ手軽に分散投資できる投資信託が人気を集めています。その代表格が、通称オルカンと呼ばれる全世界株式型のインデックスファンドです。
一本の商品で世界中の株式に投資できるため、オルカンだけで資産形成を続ければよいという考え方も広がっています。
しかし、ここで注意したいのは、オルカンが優れた分散投資商品であることと、誰にとってもいつでもオルカンだけでよいということは同じではない点です。
特に重要なのが、これから20年、30年と資産を積み上げていく人と、すでに退職して資産を取り崩している人では、同じオルカンでも持つ意味が大きく異なることです。
オルカンは世界経済の勝者を予想しない投資
オルカンの大きな特徴は、どの国や企業が将来成長するのかを自分で予想する必要がないことです。
米国が今後も世界経済をけん引するのか、中国やインドなどが台頭するのか、日本企業が復活するのか。
こうした予想をして投資先を選ぶのではなく、世界の株式市場そのものに幅広く投資します。
市場の中で企業価値が高まれば、その企業や国の存在感も自然に大きくなります。反対に企業価値が低下すれば、その比重は小さくなります。
つまり、投資家自身が将来の勝者を選ぶのではなく、市場に選ばせるという考え方です。
これはインデックス投資の非常に重要な特徴です。
世界分散だから損をしないわけではない
一方で、オルカンについて大きな誤解があります。
世界中に分散しているから安全だという考え方です。
確かに、特定の企業一社に投資する場合と比べれば、企業固有のリスクは大幅に分散できます。
しかし、オルカンの中身は基本的に株式です。
世界的な金融危機や景気後退が起これば、多くの国の株価が同時に下落する可能性があります。
世界分散投資とは、値下がりしない仕組みではありません。
一つの企業や一つの国に集中するリスクを小さくする仕組みだと考える方が適切でしょう。
したがって、預貯金のような感覚で保有する商品ではありません。当然ながら元本保証もありません。
長期投資では時間そのものが重要になる
それでも現役世代の資産形成でオルカンが有力な選択肢になるのは、投資期間を長く取れるからです。
株式市場は短期的には大きく変動します。
数カ月後や一年後に株価がどうなっているのかを正確に予測することは困難です。
しかし、20年や30年という長期間で資産形成を考える場合、短期的な値動きとは違った見方ができます。
企業は利益を生み、その利益を再投資しながら成長します。世界経済が長期的に成長すれば、世界の企業価値も成長する可能性があります。
その成長を広く取り込もうというのが全世界株式投資の基本的な発想です。
だからこそ、長期積立投資との相性がよいのです。
現役世代ならオルカン一択も合理性がある
例えば30代や40代で、老後資金として20年以上積立投資を続けるのであれば、オルカンを中心に資産形成する考え方には合理性があります。
毎月一定額を積み立てれば、株価が高いときには少ない口数を購入し、株価が安いときには多くの口数を購入することになります。
さらに投資期間が長ければ、途中で大きな株価下落が起きても、回復を待つ時間を確保しやすくなります。
ここで重要なのは、オルカンだから安全なのではありません。
長期間使わないお金を、長期間投資できることが重要なのです。
同じ商品を持っていても、来年使う予定のお金と30年後に使う予定のお金ではリスクの意味がまったく違います。
退職後はオルカン一択が危険になることもある
状況が大きく変わるのが退職後です。
退職後は給与収入が減少し、保有している金融資産を取り崩しながら生活する人が増えます。
このとき問題になるのが、株価下落と資産取り崩しが重なることです。
例えば生活費が必要なときに株式市場が大幅に下落していたとします。
現役世代なら、そのまま保有して株価回復を待つことができます。
しかし退職後は生活費が必要なので、値下がりした資産を売却せざるを得ない場合があります。
いったん安値で売却すると、その後株価が回復しても、その資金は回復の恩恵を受けられません。
これは退職後の資産運用で非常に重要なリスクです。
使う時期によってお金の置き場所を変える
そこで重要になるのが、資産を一律に考えないことです。
例えば数年以内に生活費として使う予定のお金については、預貯金など価格変動の小さい資産で確保します。
一方、10年、20年先まで使わない資金については、株式などのリスク資産で運用する余地があります。
つまり、
近いうちに使うお金は守る
長期間使わないお金は育てる
という役割分担です。
退職したからといって、すべての株式を売却して預貯金にする必要があるとは限りません。
人生100年時代には、60代で退職したとしても、その後20年、30年以上資産を管理する可能性があります。
退職後にも長期運用できる資金は存在するからです。
米国株が多いことをどう考えるか
オルカンについてもう一つよく指摘されるのが、米国株の比率の高さです。
全世界株式といいながら、米国企業が大きな割合を占めています。
そのため、本当に世界分散といえるのかという疑問を持つ人もいるでしょう。
しかし、この比率は運用会社が米国経済は強いと予想して決めているわけではありません。
世界の株式市場における企業価値を反映した結果です。
米国企業の時価総額が大きいため、結果として米国株の比率も高くなっています。
ここで米国株の比率を意図的に下げるとどうなるでしょうか。
例えば日本株や欧州株、新興国株の比率を高めることになります。
すると今度は、投資家自身が米国以外の地域が有望だと判断することになります。
市場全体をそのまま保有する投資から、自分で国を選択する投資へと性格が変わるわけです。
米国偏重を修正すること自体が投資判断になる
もちろん、米国株の比率を意図的に下げることが間違いというわけではありません。
問題は、その判断に自覚的かどうかです。
米国株が多すぎるから日本株を増やすという判断も、一つの投資戦略です。
しかしそれは単純な分散ではなく、将来の市場について自分なりの予測を加える行為になります。
オルカンの考え方はむしろ逆です。
どの国が勝つのか分からない。
だから市場全体を持つ。
このシンプルさこそが、オルカンの大きな特徴なのです。
大切なのは商品よりも資金の使用時期
資産運用を考えると、どうしても何を買うべきかという商品選びに関心が向きます。
しかし本当に重要なのは、そのお金をいつ使うのかという点ではないでしょうか。
20年以上使わない老後資金と、3年後に住宅購入で使う資金を同じ方法で運用する必要はありません。
投資期間が長ければ株価下落から回復する時間を確保できます。
反対に使用時期が近ければ、期待リターンよりも元本の安定性が重要になります。
オルカン一択で大丈夫かという問いに対する答えも、実はオルカンそのものだけを見ても出てきません。
投資する人の年齢、収入、生活費、保有資産、そして何年後にその資金を使うのかによって答えは変わります。
結論
オルカンは世界中の株式に低コストで分散投資できる、長期の資産形成に適した選択肢の一つです。
特に20年以上の投資期間を確保できる現役世代であれば、オルカンを中心に積立投資を続けるというシンプルな資産形成には十分な合理性があります。
しかし、オルカンは預貯金ではありません。世界分散されていても株式市場全体が下落すれば、大きな含み損を抱える可能性があります。
そして退職後は、同じオルカンでも考え方を変える必要があります。
近い将来に使う生活資金まで株式市場に置いてしまうと、暴落時に安値で売却せざるを得なくなる可能性があるからです。
資産形成で本当に考えるべきなのは、オルカン一択かどうかだけではありません。
いつ使うお金なのか。
どこまで値下がりに耐えられるのか。
そして株価が下落したときに、回復するまで待てるのか。
商品を選ぶ前に、この三つを整理することが重要です。
オルカンは資産形成をシンプルにしてくれる商品ですが、人生のお金の使い方までシンプルになるわけではありません。
参考
日本経済新聞 2026年8月8日朝刊 家計のギモン オルカン一択で大丈夫か