日本では高齢化が進み、60歳を過ぎても働き続ける人が増えています。一方で、「年齢が高いから新しい仕事は難しい」「シニアは変化に対応できない」といった思い込みが、本人の能力とは関係なく評価に影響を与える場面も少なくありません。
こうした年齢による偏見は「エイジズム」と呼ばれ、近年では企業経営や人的資本経営の重要な課題として注目されています。特に、長年働き続けてきた女性シニアは、性別と年齢の両方による偏見を受けるケースもあり、多様な人材を活用する上で解決すべきテーマとなっています。
今回は、エイジズムの意味や女性シニアが直面する課題、そして企業が取り組むべき人材活用について解説します。
エイジズムの意味
エイジズム(Ageism)とは、年齢を理由に人を差別したり、能力を決めつけたりする考え方を指します。
1969年にアメリカの老年学者ロバート・バトラー氏が提唱した概念で、人種差別(レイシズム)や性差別(セクシズム)と並ぶ社会的偏見の一つとされています。
エイジズムは高齢者だけに向けられるものではありません。若年層に対する「経験不足だから任せられない」という偏見も含まれますが、近年は高齢者への偏見が特に問題視されています。
例えば、
・年齢だけで昇進対象から外す
・定年後は能力に関係なく単純作業だけを任せる
・新しいシステムを使えないと決めつける
といった対応は、エイジズムに該当する可能性があります。
重要なのは、実際の能力ではなく、年齢だけで判断してしまうことです。
女性シニアが直面する課題
女性シニアは、年齢だけでなく、これまでの雇用慣行の影響も受けています。
男女雇用機会均等法施行以前や施行直後には、多くの女性が一般職や補助的業務に配置され、昇進や異動の機会が限られていました。
そのため、定年を迎える頃には、
・管理職経験が少ない
・担当業務が限定される
・専門性を十分評価されない
といった状況になりやすい傾向があります。
さらに、「女性は家庭を優先するもの」「定年後は働かないだろう」といった固定観念が残っている職場では、再雇用や再配置の機会が狭まることもあります。
このように、女性シニアは性別と年齢という二つの偏見が重なる「ダブルバイアス」に直面する場合があります。
エイジズムが企業にもたらす影響
エイジズムは、本人だけでなく企業にも大きな損失をもたらします。
経験豊富な社員が能力を発揮できなければ、長年蓄積された知識やノウハウが十分に活用されません。
また、若手社員への指導や技術継承も進みにくくなります。
一方で、年齢ではなく能力や意欲を重視する企業では、多世代が協力しながら成果を上げる事例も増えています。
人材不足が深刻化する日本では、シニア人材の活用は競争力を左右する重要な要素となっています。
年齢ではなく職務で評価する考え方
近年は、職務内容を基準に処遇を決める「職務給」の導入を進める企業が増えています。
この考え方では、年齢や勤続年数ではなく、
・担当する仕事
・求められる能力
・成果
によって評価されます。
こうした制度は、エイジズムを減らす効果が期待されています。
年齢に関係なく能力を発揮できる環境は、若手社員にもシニア社員にも公平な評価につながります。
多様な働き方を認めることが重要
シニア社員といっても、一人ひとり事情は異なります。
健康状態や介護、家庭環境などによって、希望する働き方はさまざまです。
そのため企業には、
・短時間勤務
・週数日勤務
・在宅勤務
・プロジェクト単位の仕事
など、多様な勤務形態を整備することが求められています。
柔軟な働き方は、女性シニアだけでなく、男性シニアや育児・介護世代にも働きやすい職場づくりにつながります。
人的資本経営でも重要なテーマ
人的資本経営では、多様な人材を活用することが企業価値向上につながると考えられています。
そのためには、年齢だけで役割を決めるのではなく、一人ひとりの経験や能力を正しく評価することが欠かせません。
近年では、多様性(ダイバーシティ)の取り組みとして、女性活躍や障害者雇用だけでなく、年齢の多様性にも注目が集まっています。
年齢構成のバランスが取れた組織は、多様な視点が生まれやすく、イノベーションにもつながると期待されています。
エイジズムをなくすために企業ができること
企業がエイジズムを防ぐためには、制度だけでなく意識改革も必要です。
例えば、
・年齢を理由に仕事を限定しない
・管理職向け研修を実施する
・能力や成果を重視した評価制度を整える
・シニア社員へのリスキリング機会を提供する
といった取り組みが考えられます。
経験豊富な人材を戦力として活用できる企業ほど、人手不足時代において競争優位を築きやすくなるでしょう。
結論
エイジズムとは、年齢だけで人の能力や可能性を判断してしまう無意識の偏見です。特に女性シニアは、これまでの雇用慣行と年齢による偏見が重なり、本来の能力を十分に発揮できない場面も少なくありません。
しかし、人手不足が進む現在では、シニア人材の知識や経験は企業にとって貴重な経営資源です。年齢ではなく能力や意欲を評価する制度へ転換し、多様な働き方を整備することが、人的資本経営の実現にもつながります。
エイジズムをなくすことは、高齢者のためだけではなく、誰もが年齢に関係なく活躍できる社会をつくる第一歩となるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月6日 朝刊 私見卓見「女性の定年にも目を向けて」
Robert N. Butler「Age-ism: Another Form of Bigotry」(1969)
世界保健機関(WHO)「Global Report on Ageism」