これまで、みなし贈与と事業承継税制を中心に整理してきましたが、相続対策全体に大きな影響を与える改正として、不動産評価の見直しがあります。
不動産は相続対策の中核となる資産であり、その評価方法の変更は実務に直接的な影響を与えます。
第11回では、不動産評価見直しの内容と、それが相続対策にどのような変化をもたらすのかを整理します。
なぜ不動産評価が見直されたのか
従来、不動産の相続税評価額は市場価格よりも低くなる傾向がありました。
この評価差を利用して、資産の評価額を抑える相続対策が広く行われてきました。
しかし、このような状況は租税負担の公平の観点から問題視され、評価の適正化が求められるようになりました。
改正の基本的な方向性
今回の見直しは、「時価に近づける」という方向性で行われています。
具体的には、一定の条件に該当する不動産については、従来の評価方法ではなく、実際の取引価格に近い水準で評価することが求められます。
これにより、評価額と市場価格の乖離が縮小されることになります。
対象となる不動産の特徴
見直しの対象となるのは、主に次のような不動産です。
- 短期間で取得された不動産
- 貸付用不動産
- 投資目的で取得された不動産
これらは、相続対策として意図的に取得されるケースが多いため、重点的に見直しが行われています。
評価方法の変更点
従来は、路線価や固定資産税評価額を基に評価する方法が一般的でした。
しかし、今回の見直しにより、取得価格や市場動向を踏まえた評価が求められる場合があります。
特に、取得後短期間で相続が発生した場合には、取得価格を基準とした評価が行われる可能性があります。
相続対策への影響
この見直しにより、従来の不動産を活用した相続対策は大きく影響を受けます。
特に、次のような戦略は見直しが必要になります。
- 相続直前の不動産購入
- 借入を利用した評価圧縮
- 賃貸用不動産の活用
これらは従来有効とされてきましたが、改正後は期待した効果が得られない可能性があります。
みなし贈与との関係
不動産評価の見直しは、みなし贈与の問題とも密接に関係します。
評価額と取引価格の差が縮小されることで、低額譲渡として認定されるリスクの考え方も変わります。
また、不動産の取得や移転の過程で、意図せず経済的利益の移転が生じるケースにも注意が必要です。
今後の相続対策の方向性
今回の改正を踏まえると、相続対策の考え方は次のように変わっていきます。
- 評価差に依存しない対策への転換
- 長期的な資産移転の重視
- 実態に基づく合理的な設計
つまり、「制度の隙間」を利用する対策から、「本質的な資産管理」へとシフトする必要があります。
実務での対応ポイント
実務では、次の点に注意する必要があります。
- 不動産取得の目的を明確にする
- 取得時期と相続時期の関係を検討する
- 評価方法の変更を前提に計画を立てる
特に、短期的な対策はリスクが高くなるため、慎重な判断が求められます。
制度改正の意味
今回の見直しは、単なる評価方法の変更ではありません。
相続税の考え方そのものが、「形式的な評価」から「実態に基づく評価」へとシフトしていることを示しています。
この流れは、みなし贈与の考え方とも一致しています。
結論
不動産評価の見直しは、相続対策の前提を大きく変える改正です。
従来の評価差を前提とした対策は通用しにくくなり、より実態に基づいた設計が求められます。
重要なのは、短期的な節税ではなく、長期的な資産管理の視点を持つことです。
次回は、税理士の責任と実務上の注意点について整理し、シリーズの最終段階に入ります。
参考
東京税理士協同組合 教育情報事業 全国統一研修会資料
みなし贈与と事業承継税制(令和8年)
国税庁 公表資料
財務省 公表資料