前回は、事業承継税制の全体構造を整理しました。
第9回では、その中でも実務上最も重要であり、かつ誤解が多い「特例措置の要件」に焦点を当てます。
事業承継税制は非常に有利な制度ですが、その反面、要件を満たさなければ適用されません。また、形式的には満たしているように見えても、実質的に否認されるケースもあります。
本稿では、要件の全体像と、実務で陥りやすい落とし穴を整理します。
特例措置の基本構造
特例措置は、従来の事業承継税制よりも適用範囲を広げた制度です。
大きな特徴は、次の点にあります。
- 対象株式の範囲の拡大
- 後継者の複数化への対応
- 雇用要件の柔軟化
これにより、より多くの中小企業が制度を利用できるようになっています。
贈与者・受贈者の要件
制度の適用には、当事者に関する要件が細かく定められています。
贈与者については、過去に会社の代表者であったことや、一定の議決権要件を満たしていることが求められます。
受贈者については、贈与時点で成年であること、会社の代表者であること、一定の議決権割合を保有していることなどが必要になります。
これらの要件は一見すると形式的ですが、実務では解釈が問題となるケースが多くあります。
会社に関する要件
会社自体にも要件があります。
例えば、次のような会社は対象外となります。
- 上場会社
- 中小企業に該当しない会社
- 一定の資産管理会社
特に注意が必要なのは資産管理会社の判定です。
不動産や有価証券の保有割合が高い場合、意図せず対象外となる可能性があります。
継続要件の重要性
制度適用後も、一定の要件を継続して満たす必要があります。
例えば、後継者が代表者であり続けることや、一定の事業活動を維持することなどが求められます。
この継続要件は、制度の中でも特に重要であり、かつ見落とされやすい部分です。
よくある落とし穴① 要件の形式的理解
実務で最も多いのが、要件を形式的にしか理解していないケースです。
例えば、代表者であればよいと考えていたが、議決権要件を満たしていなかったというようなケースです。
制度は複数の要件が組み合わさって成立しているため、一部だけ満たしても意味がありません。
よくある落とし穴② タイミングの誤り
要件は「いつ満たしているか」が重要です。
例えば、贈与の直前と直後で要件が異なる場合があります。
このタイミングを誤ると、形式的には条件を満たしていても、制度が適用されない可能性があります。
よくある落とし穴③ 継続管理の不足
制度適用後の管理が不十分なケースも多く見られます。
例えば、株式の一部を譲渡してしまったり、役員構成が変わったりすることで、要件を満たさなくなることがあります。
このような場合、猶予が取り消されるリスクがあります。
よくある落とし穴④ 事前手続の不備
特例措置では、事前に計画を提出する必要があります。
この手続を怠ると、そもそも制度を利用することができません。
また、提出期限にも注意が必要です。
実務での対応ポイント
これらのリスクを踏まえ、実務では次のような対応が重要になります。
- 要件をチェックリストとして整理する
- 事前にスケジュールを明確にする
- 継続的な管理体制を構築する
特に、制度適用後の管理を軽視しないことが重要です。
制度の本質的な理解
事業承継税制は、形式的な条件を満たせば適用される制度ではありません。
その本質は、事業の継続を前提とした制度です。
したがって、単なる節税目的で利用すると、要件を満たし続けることができず、結果的にリスクが高くなります。
結論
特例措置は非常に有利な制度である一方で、要件の理解と管理が不可欠です。
形式的なチェックだけでなく、実質的に制度の趣旨に沿っているかどうかが重要になります。
実務では、「適用できるか」だけでなく「維持できるか」という視点が求められます。
次回は、納税猶予がどのような場合に取り消されるのか、そのリスク構造を整理していきます。
参考
東京税理士協同組合 教育情報事業 全国統一研修会資料
みなし贈与と事業承継税制(令和8年)
国税庁 公表資料
財務省 公表資料