ふるさと納税は、拡大を続けてきたこれまでの局面から、大きな転換点に差しかかっているようです。
2025年度の全国のふるさと納税の寄付額は1兆3314億円となり、過去最高を更新しました。しかし、前年度からの伸び率は4.6%にとどまりました。2020年度以降は10%を超える伸びが続いていただけに、明らかに勢いが鈍っています。
さらに注目されるのが、2026年度以降です。
日本経済新聞が全国815市区を対象に実施したアンケートでは、回答した617市区のうち69%が、2026年度の寄付額について「減少する」または「どちらかと言えば減少する」と回答しました。
なぜ自治体はここまで慎重になっているのでしょうか。
背景には、ふるさと納税を巡って相次いでいる制度改正があります。
寄付額は過去最高でも成長率は大きく鈍化
ふるさと納税は長期間にわたり拡大を続けてきました。
自治体にとっては自主財源を確保でき、地域の特産品を全国に販売するきっかけにもなります。一方、寄付者にとっては自己負担額を除き税負担を移転しながら返礼品を受け取れることが大きな魅力でした。
こうした双方のメリットによって市場は急拡大しました。
ところが2025年度には変化が表れています。
寄付額そのものは過去最高の1兆3314億円でしたが、前年度比の伸び率は4.6%でした。
一つの転機となったのが、2025年10月から実施された寄付仲介サイトによるポイント付与の禁止です。
それまで寄付者は、返礼品だけでなく仲介サイトなどから付与されるポイントも含めて寄付先を選ぶことができました。
ポイント付与がなくなれば、当然ながら寄付者から見た経済的な魅力は低下します。
日経のアンケートでも、ポイント禁止による2025年度寄付額への影響について、「減少」「どちらかと言えば減少」と回答した市区は合計42%となり、増加方向の22%を大きく上回りました。
2026年度は自治体の約7割が寄付減少を予想
さらに厳しい見方が示されているのが2026年度です。
アンケートでは、市区の69%が寄付額について減少方向を予想しています。
最大の理由の一つが、ふるさと納税にかかる経費規制の強化です。
現在、自治体が寄付募集に使える経費には、寄付額の50%までという上限があります。
ここには返礼品の調達費や送料、仲介サイトへの手数料などが含まれます。
この上限が2026年10月から段階的に引き下げられ、2029年10月には40%となる予定です。
国の狙いは明確です。
例えば1万円の寄付を受けても、そのうち5000円が返礼品や手数料などに消えてしまえば、自治体の行政サービスに使える財源は残り5000円です。
経費を抑えれば、より多くのお金を地域に残せます。
制度本来の目的から考えれば合理的な方向ともいえます。
しかし別の問題が生じます。
経費削減は返礼品の魅力低下につながる可能性
経費率を下げるためには、自治体は何らかの費用を削減しなければなりません。
仲介サイトへの手数料が下がらなければ、返礼品の調達費や配送費などを削る必要が出てきます。
結果として、寄付者から見れば返礼品の魅力が低下する可能性があります。
つまり、
寄付者のメリット低下
寄付件数の減少
自治体の寄付収入減少
という流れが生じる可能性があります。
総務省は仲介サイト事業者に対し、平均11.5%とされる手数料率の引き下げを求めています。
しかし、実際にどこまで引き下げられるかは分かりません。
自治体からすれば、自分たちだけ経費率を下げるよう求められても、固定的な手数料や送料が下がらなければ対応には限界があります。
日経調査で経費規制の強化を否定的に評価する市区が52%に達した背景には、こうした事情があります。
返礼品の地場産品基準も厳しくなる
もう一つ大きな変化があります。
地場産品基準の厳格化です。
ふるさと納税の返礼品は、その地域と一定の関係がある商品やサービスでなければなりません。
問題となってきたのが、原材料を地域外から調達し、一部の製造や加工だけを地域内で行っている商品です。
どこまで加工すれば、その自治体の地場産品といえるのかという問題があります。
2026年10月からは、製品価値の過半が地域内で生じていることについて、証明書の作成と公表が求められるようになります。
制度の透明性を高めるという意味では理解できる措置です。
しかし企業側には別の懸念があります。
証明のために企業秘密が推測される問題
証明書には、地域内で生じた価値の割合などを記載する必要があります。
企業によっては、その情報から原価率や利益構造などを競合企業に推測される可能性があります。
実際、記事によると甲信越地方のある市では、主力返礼品を扱っていた事業者2社が返礼品事業から撤退しました。
理由は、原価率や利益構造を競合他社に推測されかねないことでした。
これはふるさと納税制度にとって難しい問題です。
制度の適正性を確保するためには、地場産品であることを確認する必要があります。
一方、その確認を厳しくしすぎれば、参加企業の負担が増え、返礼品そのものが減ってしまいます。
地元企業を全国に知ってもらうという、ふるさと納税が持っていた地域振興の機能まで弱くなる可能性があります。
自治体職員の負担も無視できない
さらに見逃せないのが、自治体の事務負担です。
ふるさと納税は単純に寄付を受け取れば終わる制度ではありません。
返礼品事業者との調整、地場産品基準の確認、経費率の管理、仲介サイトへの対応など、多くの業務が発生します。
制度改正が行われるたびに、新しい基準への対応も必要になります。
記事では、関東地方のある市が、職員が返礼品事業者などへの対応に追われ、心身ともに疲弊していると訴えています。
ここには制度上の矛盾があります。
ふるさと納税によって自治体の財源を増やして住民サービスを充実させるはずなのに、その制度を維持するために自治体職員の人的資源が大量に投入されているからです。
制度の経済効果を考える場合には、寄付額だけを見るのではなく、こうした行政コストも考える必要があります。
ふるさと納税はお得競争から地域支援へ戻れるのか
一連の制度改正には共通した方向性があります。
返礼品やポイントによる過度な競争を抑え、寄付されたお金をできるだけ地域に残そうという考え方です。
これは、ふるさと納税制度が抱えてきた根本的な問題とも関係しています。
本来のふるさと納税は、納税者が応援したい自治体を選び、その地域を税制を通じて支援する仕組みでした。
ところが制度が巨大化するにつれて、
どの自治体を応援したいか
ではなく、
どの返礼品が最も得か
という競争の側面が強くなりました。
仲介サイトも成長し、自治体、返礼品事業者、物流会社、サイト運営会社などを巻き込む巨大市場となりました。
国が現在進めている改革は、この構造を本来の制度目的へ戻そうとするものとも考えられます。
しかし、返礼品の魅力を下げれば寄付そのものが減少する可能性があります。
ここに制度改革の難しさがあります。
今後は自治体間の差がさらに広がる可能性
寄付総額が伸びにくくなれば、自治体間の競争も変わります。
これまでは市場全体が急拡大していたため、多くの自治体が寄付額を増やす余地がありました。
しかし市場が横ばい、あるいは縮小局面に入れば、限られた寄付を自治体同士で奪い合う構造になります。
さらに経費率規制が厳しくなれば、大量の寄付を集めて効率的に運営できる自治体と、小規模な自治体との差が広がる可能性があります。
返礼品だけではなく、地域そのものの魅力や寄付金の使途をどれだけ発信できるかも重要になるでしょう。
ふるさと納税市場は、単純な返礼品競争から、自治体そのもののブランド力を競う段階へ移っていくのかもしれません。
結論
ふるさと納税は、制度創設以来続いてきた拡大局面から転換期に入りつつあります。
2025年度の寄付額は過去最高の1兆3314億円となったものの、伸び率は4.6%まで鈍化しました。
そして自治体の約7割が、2026年度には寄付額が減少するとみています。
背景には、ポイント付与禁止、経費率上限の段階的引き下げ、地場産品基準の厳格化があります。
これらはいずれも過度な返礼品競争を抑え、寄付金を地域に残すための改革です。
一方で、返礼品の魅力低下、事業者の撤退、自治体職員の事務負担増加という副作用も表れています。
今後問われるのは、ふるさと納税を単なる「お得な返礼品をもらう制度」から、本当に地域を選んで支援する制度へ転換できるかどうかでしょう。
寄付額が増え続けることだけを成功とする時代は、終わりつつあるのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 ふるさと納税26年度 市区7割が「減少」の見方