「遺言書を書こうと思ったら、逆にこれからの人生が楽しみになった」
最近、こう語る人が増えています。
遺言書と聞くと、
「死の準備」「亡くなった後のことを決める書類」
という印象を抱きがちです。しかし実際には、
遺言書ほど“これからの生き方”に影響を与える道具はほかにありません。
自分の財産を整理し、家族への想いを言語化し、
将来の不安をひとつずつ解消していく過程は、
人生の最終章を「安心と幸福」に塗り替える力を持ちます。
最終回となる第8回では、遺言書がもつ“心理的効用”と
人生デザインの観点から見た「遺言書の本質」について解説します。
1.遺言書を書くと、人は“人生の棚卸し”を始める
遺言書を書くプロセスは、実は“過去の棚卸し”でもあります。
- どんな人間関係があったか
- 誰が自分を支えたか
- どんな経験を重ねてきたか
- 何が人生の宝物だったか
- 誰に感謝を伝えたいか
遺言書を書くと、これらが自然と浮かび上がり、
自分の人生を丁寧に振り返る時間が生まれます。
そして多くの方が、
「思ったよりも自分は人に恵まれていた」
「感謝したい相手がたくさんいる」
と気づきます。
遺言書は、
“人生の終わり”を考えるものではなく、
“人生の意味”を見つけ直す作業でもあるのです。
2.遺言書が生み出す“心理的安定”
遺言書を書くと、驚くほど多くの人が次のように言います。
「肩の荷が下りた」
「気持ちが軽くなった」
「何となく安心して生活できるようになった」
これは、遺言書が持つ心理的効果です。
■① 将来の不安が減る
相続手続や家族への負担を心配していた人ほど、
遺言書を作ると不安が大きく軽減されます。
■② 自分の“役割”を果たした感覚が生まれる
- 親として
- 配偶者として
- 家長として
- 会社経営者として
自分の責任を整理したという満足感が、
精神的な安定につながります。
■③ 残りの人生を“自由に使える感覚”が生まれる
遺言書を書いた直後に、
「これから好きなことをしよう」
と前向きになる人が非常に多いのです。
遺言書は、
“老後の時間の質”を大きく向上させるツール
だと言えます。
3.遺族の心を救う“付言事項”の力
遺言書には法的決定事項とは別に、自由に書ける「付言事項(ふげんじこう)」があります。
これは、
- 感謝の言葉
- これまでの人生の振り返り
- 家族への願い
- なぜその分け方にしたのか
- 今後の幸せを願うメッセージ
などを記すものです。
実務上、この付言事項の有無が、
遺族の悲しみや心理的負担を大きく左右します。
財産の分け方に多少の偏りがあっても、
「お母さんの介護をしてくれたから」
「長年助けてくれたお礼として」
「あなたなら安心して任せられると思った」
という言葉が添えられているだけで、家族の受け止め方は大きく変わります。
付言事項は相続トラブルを防ぐだけでなく、
家族の心を癒やし、未来への一歩を支えるメッセージになります。
4.遺言書は“人生の最終章を自分でデザインするツール”
遺言書をつくると、多くの人が次のステップに進みます。
① お金との向き合い方が変わる
「お金は残すためではなく、人生を楽しむための道具」と捉え直す人が増えます。
ある高齢者は、遺言書を書いた後でこう話しました。
「90歳までに使いきると決めた。そのほうが心が軽い」と。
② 家族とのコミュニケーションが増える
遺言書作成をきっかけに
- 家族と老後の生活について話し合う
- 介護や住まいの希望を共有する
- 親子の溝が埋まる
という例が多くあります。
③ 人生の残り時間をどう楽しむかを考えられる
遺言書を書くことで「死」が整理され、
「残り時間をどう生きるか」に意識が向きます。
遺言書は、
老後の“計画性”と“自由”を同時に手に入れられる珍しいツール
なのです。
5.遺言書は“孤独の解消”にもつながる
高齢期には、
- 社会的なつながりの減少
- 身体能力の低下
- 将来への漠然とした不安
などから、孤独を感じる方が増えます。
遺言書の作成には、
- 専門家との面談
- 家族との対話
- 生涯の振り返り
といった“他者との関わり”が伴います。
これが、
孤独感の軽減につながる
という研究もあります。
自分の人生を語り、家族への思いを言葉にするプロセスは、
気持ちが温かくなり、心の安定につながるのです。
6.遺言書を「人生デザイン」に変える3つのポイント
ポイント①:死後のためでなく“今のため”に書く
遺言書は、
- 心の整理
- 財産の整理
- 人生観の整理
を促すツールです。
“今をよりよく生きるため”に書くことが最も大切です。
ポイント②:家族の幸せを中心に考える
相続はお金の問題に見えて、実態は家族の幸福の問題です。
- 配偶者の安心
- 子どもの負担軽減
- 兄弟姉妹の争いを避ける
- 長期的な生活の安定
- 家族関係の維持
こうした視点で遺言書を書くと、
家族全員の幸福度が上がります。
ポイント③:完璧を求めない
遺言書は“完成させること”に価値があります。
多少の見落としがあったとしても、
書かないことのリスクのほうが圧倒的に大きいのです。
遺言書は、いつでも書き直せます。
まずは一歩前に進むことが大切です。
結論
遺言書とは、
「死後のための書類」ではなく「人生を整えるためのツール」です。
このシリーズを通じて見てきたように、遺言書には
- 将来の不安を減らす
- 人生を前向きにする
- 家族の負担を軽くする
- 孤独を和らげる
- 財産と心を整理する
という深い力があります。
遺言書を書くという行為は、
人生の最終章を“自分らしくデザインする”ことに他なりません。
そして、遺言書を書くことで初めて、
「残りの時間をどう生きるか」
という問いに真正面から向き合えるようになります。
遺言書は、人生を豊かにするための最強のセルフマネジメントツールです。
あなたの人生がこの先さらに輝くために、遺言書という選択をぜひ取り入れてみてください。
出典
・日本経済新聞「遺言書、今を楽しむために」(2025年12月1日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
