税金の無駄遣い1,445億円が示す財政管理の課題――会計検査院の指摘から考える基金・予算執行・説明責任

政策

会計検査院が2026年11月5日に提出した2025年度決算検査報告で、国の予算執行や事業運営に関する問題が250件、指摘金額は合計1,445億円に上ることが明らかになりました。

前年度の540億円から約2.6倍に増加し、直近10年間では2020年度の2,108億円に次ぐ規模となりました。

今回の報告で注目すべきなのは、不適切な支出だけではありません。政府が各種政策の実施に利用している基金についても、事業の進捗に比べて資金が過大に積み立てられている可能性が指摘されました。

税金は国民や企業が負担する限られた財源です。その使い道を適切に管理することは、財政健全化だけでなく、行政に対する信頼を維持するうえでも欠かせません。

税理士・FPの視点から、今回の検査報告が示す問題と、今後の財政運営に求められる改革について考えます。

会計検査院が指摘した1,445億円の実態

会計検査院は、国の収入・支出や政府関係機関の事業について、会計経理の適正性、経済性、効率性、有効性などの観点から検査する憲法上の独立機関です。

今回の2025年度決算検査報告では、250件、総額1,445億円の指摘がありました。

主な内訳は次のとおりです。

  • 不当事項:211件、111億円
  • 意見表示・処置要求事項:12件、1,042億円
  • その他の指摘事項:残る27件

不当事項とは、法令や予算に違反する支出、不適切な会計処理など、是正すべき問題が認められたものです。

一方、意見表示・処置要求事項には、制度設計や事業運営の改善を求めるものが含まれます。

ここで重要なのは、指摘金額のすべてが直ちに国庫から失われた税金を意味するわけではないことです。

過大な契約金額、改善が必要な事業費、適切な管理が求められる資金など、指摘の性質は異なります。

したがって、1,445億円という金額だけでなく、何が問題とされ、どのような改善が必要なのかを確認することが大切です。

最大の指摘はシステム再構築事業の679億円

今回、1件当たりの指摘金額が最も大きかったのは、中小企業基盤整備機構のシステム再構築事業に関する679億3,000万円でした。

契約者情報などを管理するシステムの再構築プロジェクトが適切に実施されず、契約金額の膨張を招いたことが問題とされました。

行政のデジタル化は、業務効率化や国民サービスの向上に不可欠です。

しかし、システム開発には特有のリスクがあります。

当初の要件定義が不十分であれば、開発途中で仕様変更が繰り返され、追加費用が発生します。

発注者側に十分な専門知識がなければ、委託先の提案や見積金額の妥当性を判断することも難しくなります。

さらに、事業の責任者や費用管理の仕組みが曖昧であれば、予算超過を早期に発見できません。

民間企業では、大規模なシステム投資について投資対効果や進捗状況を定期的に検証します。

国の事業でも、同様の管理が必要です。

特に、契約金額の増加を伴う変更については、その必要性、代替手段、追加費用の妥当性を第三者が検証できる仕組みが求められます。

100億円超の指摘が4件に集中

今回の検査報告では、100億円を超える指摘が4件ありました。

これらの大型案件が、指摘金額全体を押し上げています。

この点は、財政管理を考えるうえで重要です。

小さな不適切支出を防止することは当然必要ですが、大規模な事業で管理上の問題が発生すると、その影響は極めて大きくなります。

例えば、数万円の経費精算ミスを多数防止しても、数百億円規模の事業で予算管理が機能しなければ、財政全体への影響は避けられません。

そのため、国の支出管理では、金額とリスクに応じた重点的な監視が必要です。

事業規模が大きいほど、事前審査、進捗管理、事後評価を厳格に実施する必要があります。

これは企業経営における内部統制の考え方とも共通しています。

省庁別の指摘金額から見える課題

今回の記事によると、省庁別の主な指摘金額は次のとおりです。

  • 国土交通省:260億円
  • 厚生労働省:128億円
  • 総務省:68億円

ただし、省庁別の金額だけで行政運営の良し悪しを判断することは適切ではありません。

各省庁では予算規模や所管事業、補助金の種類などが異なります。

また、特定年度に大型案件が指摘されることで、金額が大きく変動することもあります。

重要なのは、同じ種類の問題が繰り返されていないか、指摘を受けた後に改善が進んでいるかという点です。

会計検査院の指摘があっても、制度や業務手順が変わらなければ、同様の問題が再発する可能性があります。

検査結果を行政改革につなげる仕組みが必要です。

191基金のうち49基金で支出が計画の半分未満

今回、特に注目されるのが基金の問題です。

会計検査院は14府省庁が所管する191基金について調査しました。

その結果、49基金で実際の支出額が年間計画の半分に達していませんでした。

調査対象の約25.7%に相当します。

基金とは、特定の政策目的のために資金を積み立て、複数年度にわたって事業を実施する仕組みです。

年度ごとに予算を使い切る必要がないため、中長期的な政策を安定して進められる利点があります。

一方、事業の進捗が遅れても多額の資金が基金内に残り続けるという問題があります。

例えば、ある事業で年間100億円の支出を予定していたにもかかわらず、実際には30億円しか支出されなかった場合、70億円が計画どおりに活用されなかったことになります。

もちろん、支出が少ないことだけで無駄遣いと断定することはできません。

事業開始の遅れ、申請件数の減少、外部環境の変化など、合理的な理由がある場合もあります。

しかし、支出が計画を大幅に下回る状態が続くのであれば、基金規模や事業計画を見直す必要があります。

基金に資金を積み上げることの問題点

基金に多額の資金を積み立てると、国の予算から支出された時点で、その資金がどのように使われているのか分かりにくくなる場合があります。

一般的な予算であれば、毎年度の国会審議を通じて支出の必要性が確認されます。

しかし、基金では、過去に交付された資金を複数年度にわたって使用します。

このため、当初の政策目的と現在の社会経済情勢が一致しているか、十分に検証されない可能性があります。

さらに、使われていない資金が基金に残っている一方で、国が新たな国債を発行して別の政策財源を確保するのであれば、財政運営全体の効率性が問われます。

基金の資金は、単に積み立てておけばよいものではありません。

必要な時期に必要な金額を活用し、不要となった資金は適切に国庫へ返納することが基本です。

財政赤字と税負担を考えるうえでの重要性

日本では、社会保障費の増加、防衛力の強化、少子化対策、成長投資など、多くの政策課題に対応するための財源確保が求められています。

税制改正では、増税や減税の是非が大きな議論になります。

しかし、財源を確保する方法は、税率を変更することだけではありません。

既存の歳出を点検し、効果の乏しい事業を縮小・廃止することも重要です。

例えば、1,000億円の新たな財源が必要な場合、既存事業の見直しによって同額の財源を確保できれば、その分だけ追加的な税負担や国債発行への依存を抑えられます。

もっとも、今回の指摘金額1,445億円が、そのまま新たな財源として利用できるわけではありません。

実際に財源として活用できる金額は、返納可能額や事業の見直し内容などによって異なります。

それでも、既存予算の使い方を検証することは、国民に新たな負担を求める前提として欠かせません。

民間企業の内部統制から学ぶ行政改革

企業では、経営資源を有効に活用するため、予算と実績の比較、投資案件の審査、内部監査などを実施しています。

国の行政運営にも、こうした仕組みをさらに徹底する余地があります。

特に重要なのは、次の4つです。

1.予算編成段階での事業評価

政策目的と必要経費を明確にし、事業規模が妥当かどうかを確認します。

2.事業実施中の進捗管理

予算と実績の差異を定期的に分析し、計画から大きく外れた場合には早期に対応します。

3.事業終了後の効果検証

支出した金額だけでなく、政策目的がどの程度達成されたかを確認します。

4.検査結果の改善への反映

問題を指摘された組織だけでなく、類似事業を実施する組織にも改善策を展開します。

特に、予算を消化したこと自体を成果とする考え方から、支出によって何を実現したかを重視する考え方への転換が必要です。

国民が確認すべき税金の使い道

税金の使い道を考える際には、単に支出額が大きいか小さいかだけで判断するべきではありません。

医療、介護、教育、防災、社会基盤整備など、社会に必要な支出は数多くあります。

重要なのは、必要な政策に必要な財源が配分され、その効果が検証されているかという点です。

国民が注目すべきなのは、次のような事項です。

  • 事業の目的が明確になっているか
  • 予算額と実際の支出額に大きな差がないか
  • 事業によって具体的な成果が得られているか
  • 不要となった資金が適切に返納されているか
  • 会計検査院の指摘に対する改善状況が公表されているか

税金の使い道に関心を持つことは、単なる行政批判ではありません。

限られた財源を将来世代も含めて公平かつ有効に活用するための重要な行動です。

結論

2025年度決算検査報告で指摘された250件、1,445億円という数字は、国の財政管理に依然として大きな課題があることを示しています。

特に、大規模システム開発における契約金額の膨張や、基金における計画と実績の乖離は、個別の会計処理だけでなく、事業管理の仕組みそのものを見直す必要性を浮き彫りにしました。

財政健全化を進めるためには、税収を増やすことだけでなく、既存の歳出を適切に管理することが不可欠です。

その際には、会計検査院の指摘金額と実際に削減・回収できる金額を区別し、具体的な改善効果を検証する必要があります。

税金は、国民と企業が負担する大切な財源です。

今後は、予算を確保することよりも、限られた予算でどのような成果を生み出したかが一層問われることになります。

税金の無駄遣いを防ぐことは、単なる歳出削減ではなく、国民の信頼を取り戻し、持続可能な財政を実現するための基本です。

参考

日本経済新聞 2026年11月6日 朝刊「『税の無駄遣い』25年度1445億円、過大基金も指摘 会計検査院」

会計検査院「令和7年度決算検査報告」

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