会社を経営している方の中には、「会社は順調なのに自社株評価は意外と低い」「逆に利益は少ないのに株価が高い」と疑問に感じたことがあるかもしれません。
実は、自社株の相続税評価額と会社の本当の価値は必ずしも一致しません。
これは評価の目的が異なるためです。
近年では、非上場株の相続税評価ルールの見直しも議論されており、自社株評価と企業価値の違いを理解することが、事業承継を考える経営者にとってますます重要になっています。
自社株評価は税金を計算するための仕組み
相続税評価額は、相続税を公平に計算するために定められたルールです。
非上場企業には市場価格が存在しないため、会社の規模や利益、純資産などを基準として一定の計算方法で評価します。
つまり、相続税評価は「税金を計算するための価格」であり、「会社を売買する価格」ではありません。
ここを混同すると、自社株評価を正しく理解できなくなります。
企業価値は将来の利益で決まる
一方で、企業価値は会社が将来どれだけ利益やキャッシュフローを生み出せるかによって決まります。
例えば、
・毎年安定して利益を生み出している
・優秀な従業員が多い
・独自技術を持っている
・強いブランド力がある
・成長市場で事業を展開している
こうした要素は企業価値を大きく高めます。
しかし、これらは相続税評価には十分反映されないことがあります。
評価方法によって価格は大きく変わる
会社の価値にはさまざまな評価方法があります。
代表的なものには、
・純資産を基準とする方法
・利益を重視する方法
・類似会社と比較する方法
・将来キャッシュフローを割り引いて算定するDCF法
などがあります。
どの方法を採用するかによって、同じ会社でも評価額は大きく変わります。
これは「どの価値を知りたいのか」によって評価方法が異なるためです。
会社には数字に表れない価値がある
企業には決算書だけでは測れない価値も数多く存在します。
例えば、
・長年築いた取引先との信頼
・社員の技術力
・経営者のブランド
・地域での信用
・顧客との継続的な関係
こうした無形資産は会社の競争力そのものですが、税務上の評価では十分反映されない場合があります。
だからこそ、「会社の価値」と「自社株評価」が一致しないのです。
事業承継では企業価値を高める視点が重要になる
これまでは、自社株評価を下げることが事業承継対策として注目される場面もありました。
しかし、今後は評価ルールの見直しが進めば、そのような対策だけでは十分とはいえなくなる可能性があります。
むしろ重要になるのは、
・利益体質を強化する
・経営の見える化を進める
・人材を育成する
・収益基盤を安定させる
といった企業価値そのものを高める経営です。
企業価値が高い会社は、金融機関や取引先、従業員からの信頼も得やすく、事業承継後も持続的な成長が期待できます。
税理士にも企業価値を伝える役割が求められる
これからの税理士は、自社株評価額だけを説明する存在ではありません。
経営者に対して、
「会社の本当の価値はどこにあるのか」
「将来の企業価値をどう高めるのか」
という視点から助言することが重要になります。
財務分析や資本政策、事業承継対策を組み合わせながら、企業の将来像を共に考えるパートナーとしての役割が期待されています。
結論
自社株評価と会社の価値が一致しないのは、それぞれの目的が異なるからです。
相続税評価は税金を公平に計算するための基準であり、企業価値は将来の収益力や成長性、信頼といった総合的な価値を表しています。
今後、非上場株の評価ルールが見直される中で、経営者に求められるのは「評価額を下げる工夫」ではなく、「企業価値を高める経営」です。
その積み重ねが、円滑な事業承継だけでなく、会社の持続的な発展にもつながっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年6月29日 朝刊)
中小の事業承継に課題 非上場株の相続評価 見直し議論本格化