ふるさと納税制度が大きな転換期を迎えています。
2025年10月から、仲介サイトによる寄付者向けのポイント付与が禁止されました。さらに、2026年10月からは自治体の募集経費の上限が従来の50%から47.5%に引き下げられています。
総務省は、2029年にかけて募集経費の上限を40%まで段階的に引き下げる方針です。
これまで、ふるさと納税の利用者は、返礼品に加えて仲介サイトが提供するポイント還元などの特典を受けられる場合がありました。
しかし、ポイント付与の禁止によって寄付者の経済的なメリットが縮小し、さらに募集経費の規制強化によって返礼品の内容が見直される可能性があります。
一方、自治体にとっては、寄付額の減少が財政運営に影響するおそれがあります。
特に、ふるさと納税への依存度が高い自治体では、寄付額の変動が行政サービスや地域産業に与える影響も無視できません。
今回は、ポイント付与の禁止と募集経費規制の強化が、寄付者の行動、自治体の財政収支、仲介サイトの事業運営、地域経済にどのような影響を与えるのかを解説します。
ポイント付与禁止で何が変わったのか
ふるさと納税は、個人が選んだ自治体に寄付を行い、一定の条件を満たすことで所得税や個人住民税の控除を受けられる制度です。
寄付者は、原則として自己負担額2,000円を除いた寄付額について、控除上限額の範囲内で税負担の軽減を受けられます。
さらに、自治体から返礼品を受け取ることができます。
これまで一部の仲介サイトでは、寄付額に応じて独自のポイントを付与するサービスが提供されていました。
例えば、10万円の寄付に対して5%のポイントが付与される場合、寄付者は5,000円相当のポイントを受け取ることができました。
返礼品に加えてポイントも受け取れるため、寄付者にとっては経済的な魅力が高まる仕組みでした。
しかし、2025年10月から、仲介サイトが寄付に伴って独自にポイントを付与する仕組みが禁止されました。
これは、ポイント還元による過度な競争を抑制し、ふるさと納税制度を本来の趣旨に近づけるための措置です。
なお、通常の決済に伴ってクレジットカード会社などが付与するポイントについては、仲介サイト独自の寄付促進ポイントとは区別して考える必要があります。
ポイント付与禁止によって、寄付者が仲介サイトを選ぶ基準にも変化が生じる可能性があります。
ポイント還元競争はなぜ問題になったのか
仲介サイトによるポイント還元は、寄付者にとって魅力的なサービスでした。
一方、自治体や制度全体の観点からは、いくつかの問題が指摘されていました。
第一に、ポイント還元が寄付先を選ぶ重要な判断材料となり、地域を応援するという制度本来の目的が後退する可能性があったことです。
第二に、仲介サイト間のポイント競争が激しくなることで、寄付獲得に必要な費用が増加する可能性があったことです。
第三に、寄付者が受け取る経済的利益が大きくなり、一般的な寄付制度とは異なる性格が強まっていたことです。
例えば、同じ自治体に10万円を寄付する場合でも、仲介サイトによって付与されるポイントが異なれば、寄付者は還元率の高いサイトを選ぶ可能性があります。
この場合、寄付先自治体の政策や寄付金の使途よりも、仲介サイトの特典が重視されることになります。
ふるさと納税が地域支援の制度であることを考えると、こうした競争が制度の趣旨に沿っているかという問題が生じます。
ポイント付与禁止は、このような状況を見直すための制度改正と位置付けられます。
ポイント禁止で寄付額は減少するのか
ポイント付与の禁止によって、ふるさと納税の寄付額が減少する可能性があります。
これまでポイント還元を重視していた寄付者にとっては、制度の経済的な魅力が一部低下するためです。
例えば、年間10万円のふるさと納税を行い、5,000円相当のポイントを受け取っていた人を考えます。
ポイント付与がなくなれば、従来受け取っていた5,000円相当の特典は得られなくなります。
ただし、返礼品を受け取れる仕組みや、一定の条件のもとで税負担が軽減される仕組みは維持されています。
そのため、ポイントがなくなったことだけを理由に、すべての寄付者が利用をやめるとは考えにくいでしょう。
また、ポイント付与禁止の直前に寄付が集中した場合、制度改正前後の寄付額を単純に比較すると、寄付行動の前倒しによる影響が含まれる可能性があります。
実際の影響を判断するためには、年間寄付額だけでなく、月別の寄付額や寄付件数、利用者数などを分析する必要があります。
2026年10月時点では、ポイント禁止と募集経費規制の影響を区別して検証することが重要です。
寄付額が10%減少した場合の自治体財政
ここからは、寄付額が減少した場合の自治体財政への影響を具体的に考えます。
年間10億円の寄付を集める自治体を想定します。
募集経費率が50%であれば、募集経費は5億円、自治体に残る金額は5億円です。
ここで、ポイント付与禁止などの影響によって寄付額が10%減少し、9億円になったとします。
募集経費率が50%のままであれば、募集経費は4億5,000万円、自治体に残る金額も4億5,000万円です。
従来と比較すると、自治体に残る金額は5,000万円減少します。
一方、募集経費率を40%に引き下げることができれば、寄付額9億円に対する募集経費は3億6,000万円となります。
自治体に残る金額は5億4,000万円です。
寄付額が10%減少しても、募集経費率を50%から40%に引き下げることができれば、自治体に残る金額は4,000万円増加します。
この試算から分かるのは、寄付額の減少が必ずしも自治体財政の悪化につながるわけではないということです。
寄付額と募集経費率の両方を確認する必要があります。
寄付額が20%減少した場合の影響
次に、寄付額が20%減少した場合を考えます。
従来10億円だった寄付額が8億円になったとします。
募集経費率50%では、自治体に残る金額は4億円です。
一方、募集経費率40%では、自治体に残る金額は4億8,000万円となります。
従来の寄付額10億円、募集経費率50%の場合に残る5億円と比較すると、2,000万円少なくなります。
つまり、募集経費率を10ポイント引き下げても、寄付額が20%減少すれば、自治体に残る財源は減少することになります。
この関係を数式で表すと、自治体に残る金額は寄付額に1から募集経費率を差し引いた割合を掛けたものになります。
募集経費率50%から40%に引き下げた場合、従来と同じ財源を確保するために必要な寄付額は、従来の約83.3%です。
したがって、寄付額の減少率が約16.7%以内であれば、募集経費率40%を実現することで、従来と同等以上の財源を確保できる計算です。
ただし、これは募集経費率を実際に40%まで削減できることを前提とした試算です。
固定的な事務費用などがある場合、寄付額が減少すると経費率が上昇する可能性もあります。
募集経費規制が返礼品に与える影響
ポイント付与禁止に加えて、自治体に大きな影響を与えるのが募集経費規制の強化です。
2026年10月から募集経費の上限は47.5%となり、2029年にかけて40%まで段階的に引き下げられる方針です。
一方、2025年度の仲介サイト手数料率は11.5%でした。
返礼品の調達費用が寄付額の30%であれば、仲介サイト手数料と合わせて41.5%になります。
これに配送費用や事務費用などを加えると、募集経費率40%を実現することは難しくなります。
そのため、自治体は返礼品の内容や調達価格を見直す必要が生じる可能性があります。
例えば、従来は1万円の寄付に対して米5kgを提供していた自治体が、経費削減のために4kgへ変更するケースが考えられます。
寄付者にとっては、同じ寄付額で受け取れる返礼品が減ることになります。
このような変更が広がれば、ふるさと納税の経済的な魅力が低下し、寄付額が減少する可能性があります。
ただし、返礼品の調達価格や配送費用は商品によって異なるため、すべての自治体で同じような変更が必要になるわけではありません。
ポイント禁止と返礼品縮小の二重の影響
今後のふるさと納税では、ポイント付与禁止と返礼品の見直しが同時に寄付行動へ影響する可能性があります。
これまで寄付者は、返礼品の魅力に加えて、仲介サイトのポイント還元も考慮して寄付先を選ぶことができました。
しかし、ポイント付与禁止によって、サイト独自の特典は利用できなくなりました。
さらに、募集経費規制の強化によって返礼品の数量や内容が見直されれば、寄付者が受け取る経済的な利益は一段と小さくなる可能性があります。
例えば、従来は1万円の寄付に対して3,000円相当の返礼品と500円相当のポイントを受け取っていたケースを考えます。
ポイント禁止によって500円相当の特典がなくなり、返礼品の内容も2,700円相当に見直されたと仮定します。
この場合、寄付者が受け取る経済的な利益は、従来の3,500円相当から2,700円相当へ減少します。
ただし、返礼品の調達価格と寄付者が感じる価値は必ずしも一致しません。
また、これは制度変更の影響を説明するための仮定であり、実際にすべての返礼品の価値が低下することを意味するものではありません。
重要なのは、寄付者が経済的なメリットだけで寄付先を選ぶ行動から、地域の政策や寄付金の使途を重視する行動へ変化するかどうかです。
仲介サイトの競争はどう変わるのか
ポイント付与禁止は、仲介サイト運営事業者の競争にも影響します。
これまでは、ポイント還元率の高さが利用者獲得の重要な手段となっていました。
しかし、寄付に伴う独自ポイントの付与が禁止されたことで、仲介サイトは別の方法で利用者を獲得する必要があります。
今後は、返礼品の検索機能、寄付手続きの簡便さ、情報の分かりやすさ、問い合わせ対応などが重要になると考えられます。
また、自治体にとっては、仲介サイトの手数料率と寄付獲得効果を比較する必要性が高まります。
日本経済新聞の調査では、自治体の92%が仲介サイト運営事業者による手数料引き下げ対応に不満を示しました。
自治体の69%は、国に対して手数料の上限設定などの規制を求めています。
ポイント還元による競争が制限されたことで、仲介サイト間の競争が手数料やサービス品質に移る可能性があります。
一方、手数料を引き下げることで広告宣伝や利用者対応のサービスが縮小すれば、寄付額が減少する可能性もあります。
自治体は、手数料の安さだけでなく、サービス全体の費用対効果を検証する必要があります。
寄付額の減少が地域産業に与える影響
ふるさと納税の寄付額が減少した場合、影響を受けるのは自治体財政だけではありません。
返礼品を提供する地域事業者にも影響が及びます。
例えば、年間10億円の寄付を集め、寄付額の30%を返礼品の調達に支出していた自治体を考えます。
返礼品の調達額は3億円です。
寄付額が20%減少して8億円になり、返礼品の調達費用率が30%のままであれば、調達額は2億4,000万円となります。
従来と比較して6,000万円の減少です。
この減少は、返礼品を提供する農家、漁業者、食品加工業者などの売上高に影響する可能性があります。
特に、ふるさと納税を重要な販売経路としている事業者では、寄付額の減少が経営上の課題となる場合があります。
一方、返礼品を通じて知名度が高まった商品が、一般の通信販売や実店舗で継続的に購入されるようになれば、ふるさと納税への依存度を下げることもできます。
地域事業者にとっては、ふるさと納税を単なる販売経路として利用するだけでなく、全国の消費者に商品を知ってもらう機会として活用することが重要です。
寄付額に依存した自治体財政のリスク
ふるさと納税の寄付額が大きい自治体では、その収入を活用してさまざまな行政サービスを実施しています。
子育て支援、教育、医療、福祉、防災、公共施設の整備など、寄付金の使途は多岐にわたります。
しかし、ふるさと納税による収入は、一般的な地方税収と比較して変動しやすい性格があります。
返礼品の人気、制度改正、仲介サイトのサービス変更、競合自治体の動向などによって寄付額が変化するためです。
例えば、年間10億円の寄付を前提として継続的な行政サービスを実施していた自治体で、寄付額が5億円に減少した場合を考えます。
寄付金を財源とする事業の継続が難しくなる可能性があります。
特に、人件費や施設維持費などの固定的な支出を伴う事業では、寄付額が減少しても直ちに経費を削減できない場合があります。
そのため、自治体はふるさと納税による収入を恒常的な財源として過度に見込まないことが重要です。
寄付額が多い年度に基金へ積み立て、将来の収入減少に備える方法も考えられます。
また、継続的な行政サービスの財源として利用する場合には、寄付額が減少した場合の対応策をあらかじめ検討する必要があります。
寄付額の最大化から財源の安定化へ
今後の自治体運営では、ふるさと納税の寄付額を最大化することだけでなく、財源を安定的に確保することが重要になります。
例えば、ある自治体が年間10億円の寄付を集め、募集経費率50%で5億円を確保していたとします。
翌年度に寄付額が9億円へ減少しても、募集経費率を40%に引き下げることができれば、自治体に残る金額は5億4,000万円となります。
寄付額は減少しても、財源は増加します。
一方、寄付額が増加しても、募集経費が大きければ自治体に残る金額は十分に増えない可能性があります。
このため、自治体には寄付額だけでなく、募集経費率、寄付者の継続率、返礼品ごとの収益性などを管理する視点が必要です。
また、特定の返礼品や仲介サイトに寄付が集中している場合には、制度変更による影響が大きくなる可能性があります。
複数の返礼品や寄付募集方法を組み合わせることで、寄付額の変動リスクを分散することも重要です。
返礼品よりも地域への共感を重視する仕組み
ポイント付与禁止と募集経費規制の強化は、ふるさと納税制度を本来の目的に近づける機会にもなり得ます。
ふるさと納税は、寄付者が自分の応援したい自治体を選び、その地域を支援する制度です。
しかし、これまでは返礼品の数量やポイント還元率など、経済的なメリットが寄付先を選ぶ重要な要素となっていました。
今後は、自治体が寄付金の使途や事業成果を分かりやすく伝えることが重要になります。
例えば、寄付金を活用して学校施設を整備した場合には、その内容や成果を公表する方法が考えられます。
子育て支援や高齢者福祉、防災対策などに活用した場合にも、地域住民の生活がどのように改善されたのかを説明することが重要です。
寄付者が自分の寄付によって地域に変化が生まれたことを実感できれば、返礼品やポイント以外の理由で継続的に寄付する可能性があります。
こうした関係を構築することが、寄付額の安定化につながると考えられます。
制度改正の影響をどう検証するか
ポイント付与禁止と募集経費規制の強化が寄付額に与える影響を判断するためには、客観的なデータによる検証が必要です。
特に重要なのは、制度改正前後の寄付額を単純に比較しないことです。
例えば、ポイント付与禁止前に寄付が集中した場合、制度改正後の寄付額が一時的に減少する可能性があります。
また、物価上昇によって返礼品の調達価格が上昇すれば、同じ寄付額でも提供できる返礼品の内容が変わる場合があります。
さらに、所得や税制の変化によって寄付者の控除上限額が変動することも考えられます。
したがって、制度改正の影響を検証する際には、寄付額、寄付件数、寄付者数、平均寄付額、募集経費率などを総合的に確認する必要があります。
また、自治体ごとの違いにも注目することが重要です。
返礼品の魅力が強い自治体と、寄付金の使途への共感によって寄付を集めている自治体では、制度改正の影響が異なる可能性があります。
こうした違いを分析することで、持続可能な寄付募集のあり方を考えることができます。
結論
ふるさと納税制度は、ポイント付与禁止と募集経費規制の強化によって、大きな転換期を迎えています。
2025年10月から仲介サイトによる寄付者向けの独自ポイント付与が禁止され、2026年10月から募集経費の上限が47.5%に引き下げられました。
さらに、2029年にかけて募集経費の上限を40%まで引き下げる方針です。
これらの制度改正によって、寄付者が受け取る経済的なメリットが縮小し、寄付額が減少する可能性があります。
一方、自治体が募集経費を削減できれば、寄付額が減少しても自治体に残る財源を維持できる場合があります。
例えば、募集経費率を50%から40%に引き下げることができれば、寄付額が約16.7%減少しても、従来とほぼ同じ財源を確保できる計算です。
ただし、寄付額の減少は返礼品を提供する地域事業者の売上高にも影響する可能性があります。
また、ふるさと納税への依存度が高い自治体では、寄付額の変動が行政サービスの継続に影響するおそれもあります。
そのため、自治体には寄付額の最大化だけでなく、募集経費の適正化、財源の安定化、地域事業者との連携などが求められます。
さらに、寄付金の使途や事業成果を積極的に公表し、寄付者との継続的な関係を構築することが重要です。
ふるさと納税は、本来、寄付者が自分の応援したい地域を支援する制度です。
ポイントや返礼品の経済的な魅力が縮小することは、短期的には寄付額の減少要因となる可能性があります。
しかし、長期的には、地域の政策や課題への共感によって寄付先を選ぶ仕組みへと転換する機会にもなり得ます。
今後のふるさと納税では、どれだけ多くの寄付を集めるかだけでなく、寄付者との信頼関係をどれだけ長く維持できるかが重要になると考えられます。
参考
日本経済新聞 2026年10月10日付 ふるさと納税サイト手数料下げ、市区の9割が不満 日経調査