築40年超マンションの保険危機と老朽化対策の重要性

経営

築40年以上のマンションが急増する中、建物の老朽化に伴う保険料の上昇が、管理組合の新たな経営課題となっています。

国土交通省によると、築40年以上のマンションは2025年末時点で約158万8,000戸に達しました。10年間で約100万戸増加しており、今後も高経年マンションの増加が見込まれます。

こうしたマンションでは、給排水管の劣化、外壁の損傷、設備の故障などが発生しやすくなります。

特に問題となっているのが、漏水事故の増加です。

漏水事故が繰り返されると、保険金の支払いが増加し、保険契約の更新時に保険料が大幅に引き上げられる可能性があります。

築年数の古いマンションでは、保険料が50〜60%上昇するケースも報告されています。

一方、老朽化した建物を維持するためには、大規模修繕工事や給排水管の更新工事など、多額の資金が必要になります。

つまり、高経年マンションでは、修繕費と保険料が同時に増加するという二重の負担が発生するのです。

今回は、築40年以上のマンションが直面する保険危機の実態と、老朽化対策によって財政負担を抑えるための具体的な方法について解説します。

築40年以上のマンションが急増している

日本の分譲マンションは、高度経済成長期から1980年代にかけて大量に供給されました。

その後も都市部を中心にマンション建設が進み、現在では多くの世帯がマンションで生活しています。

しかし、建物の老朽化は避けられません。

国土交通省の資料によると、築40年以上のマンションは2025年末時点で約158万8,000戸に達しています。

築40年という年数は、建物が直ちに使用できなくなることを意味するものではありません。

鉄筋コンクリート造のマンションでも、適切な維持管理や修繕を実施すれば、長期間にわたって使用できる可能性があります。

重要なのは、建物の築年数だけでなく、これまでどのような維持管理が行われてきたかという点です。

例えば、同じ築40年のマンションでも、計画的に給排水管を更新してきた物件と、必要な工事を先送りしてきた物件では、事故の発生リスクが異なります。

保険会社も、築年数だけでなく、建物の管理状況や事故履歴などを保険料の算定や引受判断に反映する場合があります。

今後は、築年数が古いという理由だけでなく、維持管理の状況によっても保険契約の条件に差が生じる可能性があります。

高経年マンションで漏水事故が増加する理由

築40年以上のマンションで特に注意したいのが、給排水管の老朽化です。

マンションの給排水管には、さまざまな材質の配管が使用されています。

配管の材質、施工方法、水質、使用環境などによって劣化の進み方は異なりますが、長期間使用すれば腐食や損傷が発生する可能性があります。

特に古いマンションでは、現在とは異なる材質や施工方法が採用されている場合があります。

配管の内部で腐食が進行すると、突然漏水事故が発生することがあります。

例えば、共用部分の給水管が破損し、複数の住戸に水が流れ込むケースです。

漏水によって天井や壁紙、床材、家具、電気設備などに損害が発生することがあります。

さらに、漏水箇所の特定や応急修理にも費用がかかります。

問題は、こうした事故が一度だけで終わらない可能性があることです。

同じ時期に設置された配管は、建物全体で劣化が進んでいる場合があります。

1カ所で漏水が発生した後、別の場所でも同様の事故が発生することがあります。

事故が繰り返されれば、管理組合の対応負担が増えるだけでなく、保険契約にも影響する可能性があります。

漏水事故が増えると保険料はどうなるのか

マンションの共用部分の保険では、過去の事故履歴が保険料に影響する場合があります。

保険会社によって制度は異なりますが、事故件数や保険金支払実績などを考慮して保険料を算定する仕組みがあります。

例えば、5年間で漏水事故が1件も発生していないマンションと、同じ期間に10件発生しているマンションを比較します。

建物の規模や築年数が同じでも、事故履歴が異なれば、保険会社によるリスク評価に差が生じる可能性があります。

事故が多いマンションでは、保険料の上昇だけでなく、免責金額の引き上げや補償条件の変更を求められることも考えられます。

ここで重要なのは、保険金を請求すること自体が悪いわけではないという点です。

保険は、契約で定められた事故が発生した際に、経済的な損失を補うための仕組みです。

しかし、事故の根本原因を改善しないまま保険金請求を繰り返していれば、将来の保険料負担が増加する可能性があります。

管理組合には、事故発生後の対応だけでなく、事故を未然に防ぐ取り組みが求められます。

給排水管の更新工事には多額の費用がかかる

老朽化した給排水管への対策として、配管の更新工事があります。

更新工事とは、古い配管を新しい配管に取り替える工事です。

工事費用は、マンションの規模、配管の材質、配管経路、施工方法などによって大きく異なります。

共用部分の配管だけでも、数百万円から数千万円の費用がかかる場合があります。

さらに、配管が住戸内を通っている場合や、壁や床の解体が必要な場合には、工事費が一段と高くなる可能性があります。

例えば、100戸のマンションで共用部分の給排水管更新工事に3,000万円かかると仮定します。

単純に100戸で均等負担すれば、1戸当たり30万円です。

実際には、修繕積立金から支出する場合が多く、必ずしも区分所有者から一時金を徴収するわけではありません。

しかし、修繕積立金が不足していれば、積立金の値上げや一時金の徴収、借入金の利用などを検討する必要があります。

高経年マンションでは、給排水管以外にも外壁、防水、エレベーターなどの修繕が必要になります。

そのため、給排水管の更新工事だけを単独で考えるのではなく、長期修繕計画全体の中で資金を確保することが重要です。

修繕工事の先送りは本当に得なのか

管理組合では、修繕積立金の不足などを理由に、給排水管の更新工事を先送りする場合があります。

しかし、工事を先送りすることが必ずしも経済的に有利とは限りません。

具体的な事例で考えてみましょう。

あるマンションで、給排水管の更新工事に現在3,000万円必要だとします。

管理組合は資金負担を避けるため、工事を5年間延期することにしました。

仮に、工事費が毎年3%上昇するとすれば、5年後の工事費は約3,478万円になります。

約478万円の増加です。

さらに、工事を延期した5年間に漏水事故が発生すれば、応急修理費や損害賠償費用などが必要になる可能性があります。

事故履歴によって保険料が上昇することも考えられます。

例えば、年間保険料が150万円から200万円に上昇し、その差額が5年間続いたと仮定すれば、追加負担は250万円になります。

工事費の増加額約478万円と合わせると、約728万円の負担増加です。

もちろん、これは一定の条件を置いた仮定の計算です。

実際には、工事費の上昇率や保険料の変化、事故発生状況によって結果は異なります。

それでも、工事を先送りすることで将来の総負担が増える可能性があることは理解しておく必要があります。

重要なのは、現在の工事費だけでなく、将来の工事費、保険料、事故対応費用まで含めて比較することです。

修繕工事によって保険料が下がる可能性がある

保険会社の中には、マンションの管理状況や修繕状況を保険料に反映する仕組みを設けているところがあります。

例えば、日新火災海上保険では、マンション管理士による管理状況の診断結果などに応じて、保険料を割り引く制度があります。

診断では、給排水管の更新状況や長期修繕計画の整備状況などが評価対象になります。

このような仕組みは、管理組合にとって重要な意味を持ちます。

従来、修繕工事は建物の機能を維持するための支出として考えられてきました。

しかし、適切な修繕によって事故リスクを低減できれば、保険料の抑制にもつながる可能性があります。

例えば、年間保険料が200万円のマンションで、修繕状況の改善などによって保険料が10%下がると仮定します。

年間20万円の削減です。

5年間では100万円になります。

ただし、実際の割引率は保険会社や契約条件によって異なり、修繕工事を実施しただけで必ず保険料が下がるわけではありません。

また、数千万円の更新工事を保険料削減効果だけで正当化することも適切ではありません。

修繕工事の主な目的は、建物の安全性と機能を維持し、事故を防止することです。

保険料の抑制は、その結果として期待できる経済的効果の1つと考えるべきでしょう。

共用部分と専有部分の配管の違いに注意する

給排水管の更新工事を検討する際には、共用部分と専有部分の区分にも注意が必要です。

マンションでは、共用部分の維持管理は原則として管理組合が担当し、専有部分の維持管理は原則として各区分所有者が担当します。

ただし、配管が共用部分に該当するかどうかは、配管の位置だけでなく、構造や管理規約などによって判断する必要があります。

例えば、住戸内にある配管でも、構造上の事情などから共用部分に該当する場合があります。

また、専有部分の配管についても、管理組合が一体的な更新工事を実施する方が合理的なケースがあります。

この場合、工事費用の負担方法や総会決議などについて、管理規約との整合性を確認する必要があります。

特に高経年マンションでは、共用部分の配管だけを更新しても、専有部分の配管が老朽化したままであれば、漏水事故のリスクが残る可能性があります。

そのため、給排水管の更新計画では、建物全体の配管状況を把握することが重要です。

必要に応じて、管理会社、建築士、設備設計者、マンション管理士などの専門家と連携し、合理的な工事方法を検討することが求められます。

高経年マンションでは修繕積立金不足が深刻になる

築40年以上のマンションでは、修繕積立金の不足も重要な課題です。

建物が古くなるほど、修繕が必要な設備や部位が増えていきます。

外壁の補修、防水工事、給排水管の更新、エレベーターの改修など、多額の支出が必要になる場合があります。

一方、修繕積立金が十分に確保されていなければ、必要な工事を実施できません。

特に問題となるのが、建築当初の修繕積立金を低く設定し、その後も十分な見直しを行ってこなかったマンションです。

修繕積立金の不足が長期間放置されると、必要な工事が先送りされ、建物の劣化がさらに進行する可能性があります。

その結果、漏水事故などが増え、保険料の上昇につながることも考えられます。

つまり、修繕積立金不足と保険料上昇は、相互に影響し合う関係にあります。

修繕積立金が不足することで必要な修繕ができず、事故リスクが高まります。

事故が増加すると保険料が上昇し、管理組合の財政負担がさらに重くなります。

この悪循環を防ぐためには、長期修繕計画を定期的に見直し、必要な資金を計画的に確保することが重要です。

区分所有者の高齢化が修繕対策を難しくする

高経年マンションでは、建物の老朽化と同時に区分所有者の高齢化が進む場合があります。

長年住み続けている区分所有者が多いマンションでは、年金収入を中心に生活する世帯が増えていることも考えられます。

こうした状況では、修繕積立金の値上げや一時金の徴収について、合意形成が難しくなる可能性があります。

例えば、100戸のマンションで3,000万円の修繕資金が不足しているとします。

単純に均等負担すれば、1戸当たり30万円です。

高齢者世帯にとって、30万円の一時負担は決して小さな金額ではありません。

一方、資金不足を理由に工事を先送りすれば、将来の工事費や事故対応費用が増える可能性があります。

そのため、管理組合には、区分所有者の負担能力と建物の安全性を両立させる工夫が求められます。

例えば、修繕積立金の段階的な値上げや、一定の条件を満たす場合の借入金の活用などが考えられます。

ただし、借入金を利用すれば返済負担が発生するため、将来の管理組合の収支を慎重に検証する必要があります。

重要なのは、問題が深刻化してから資金を集めるのではなく、早い段階から修繕計画と資金計画を見直すことです。

保険加入の継続が難しくなるマンションもある

保険料の上昇が続けば、従来と同じ補償内容で契約を継続することが難しくなるマンションも出てきます。

特に、事故履歴が多く、建物の管理状況にも問題がある場合には、保険会社から厳しい契約条件を提示される可能性があります。

管理組合が保険料を負担できず、補償範囲を縮小することも考えられます。

さらに、管理会社との契約終了などをきっかけに、保険契約の更新手続きが適切に行われなければ、無保険状態に陥る危険性もあります。

無保険状態で大規模な事故が発生した場合、管理組合は多額の修繕費や損害賠償金を自己負担しなければならない可能性があります。

管理組合の資金だけでは対応できなければ、区分所有者への追加徴収が必要になることも考えられます。

高経年マンションでは、保険契約を維持できること自体が重要な管理課題になりつつあります。

そのため、保険の更新時期が近づいてから対応するのではなく、日頃から事故履歴や建物の管理状況を把握し、保険会社や代理店と相談しておくことが重要です。

マンションの資産価値を守るために必要な管理改革

マンションの資産価値は、立地や築年数だけで決まるものではありません。

建物の維持管理状況や管理組合の財政状態も重要な要素です。

例えば、築40年を超えていても、計画的な修繕工事が実施され、給排水管の更新が進み、十分な修繕積立金が確保されているマンションは、将来の維持管理に対する安心感があります。

一方、必要な修繕工事が先送りされ、漏水事故が頻発し、保険契約の維持も難しくなっているマンションでは、購入希望者が将来の追加負担を懸念する可能性があります。

今後、中古マンション市場では、築年数だけでなく、管理組合の運営状況によって評価に差が生じることも考えられます。

そのため、管理組合は保険料の削減だけを目的とするのではなく、建物全体のリスク管理を強化する必要があります。

具体的には、給排水管の劣化調査、長期修繕計画の見直し、修繕積立金の適正化、保険契約の定期的な比較などが重要です。

また、管理組合の理事会が建物の状況や財政状態を把握し、区分所有者に適切な情報を提供することも欠かせません。

マンション管理は、日常的な清掃や設備点検だけでなく、将来のリスクを予測して対応する経営的な視点が求められる時代になっています。

結論

築40年以上のマンションの増加は、日本の住宅市場にとって大きな課題となっています。

建物の老朽化が進むことで、給排水管の劣化や漏水事故が発生しやすくなり、保険料の上昇につながる可能性があります。

一方、老朽化した設備を更新するためには、多額の修繕費が必要になります。

つまり、高経年マンションでは、修繕費と保険料の二重負担に対応する必要があるのです。

この問題を解決するためには、保険料の削減だけを考えるのでは不十分です。

給排水管の劣化状況を調査し、必要な修繕工事を適切な時期に実施することが重要です。

修繕工事を先送りすれば、一時的な支出は抑えられるかもしれません。

しかし、将来の工事費の上昇や漏水事故の増加によって、結果的に負担が大きくなる可能性があります。

また、適切な修繕工事によって事故リスクを低減できれば、保険料の抑制や保険契約の条件改善につながる場合もあります。

管理組合は、修繕費、保険料、事故対応費用を別々に考えるのではなく、長期的な総費用として管理する必要があります。

さらに、区分所有者の高齢化を踏まえ、早い段階から修繕積立金の見直しや資金計画の策定を進めることが重要です。

これからのマンション管理では、築年数そのものよりも、どのような維持管理を実施してきたかが、ますます重要になるでしょう。

老朽化対策は単なる修繕費の支出ではなく、将来の事故リスクと保険料負担を抑え、マンションの資産価値を守るための長期的な投資なのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月10日「マンション保険に危機、管理組合向け大幅値上げ 免責額調整など対応策」

国土交通省「マンションに関する統計・データ等」

国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」

国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

国土交通省「マンション標準管理規約」

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