東京都に集中する税収を地方へ再配分する動きが、再び強まっています。
東京と地方の財政力格差が2008年度以来の大きさまで広がっているためです。
総務省は2027年度税制改正で、法人事業税などを使った再配分をさらに拡大する方向を検討しています。
一方、東京都は強く反対しています。
小池百合子知事は、こうした再配分について地方税制の根幹をゆがめると訴えてきました。
この対立を理解するためには、そもそも地方税は誰のための税金なのかという問題から考える必要があります。
地方税には受益と負担という考え方がある
地方税には、その地域で行政サービスを受ける住民や企業が、その費用を負担するという基本的な考え方があります。
企業が東京都内で事業を行えば、道路や消防、防災、治安などさまざまな行政サービスを利用します。
そこで企業は法人事業税や法人住民税などを負担します。
住民についても同じです。
住民税などを納め、その自治体から教育、福祉、ごみ処理、防災などのサービスを受けます。
税を負担する人と行政サービスを提供する自治体が対応することが、地方税の重要な考え方です。
東京都が再配分に反対する理由
この原則から考えると、東京都の主張は分かりやすくなります。
東京都内で活動する企業が東京都へ納めた税金を、国が別の自治体へ移すからです。
企業が東京で活動すれば、東京の道路や都市インフラを利用します。
東京都はそのための行政コストを負担しています。
それにもかかわらず、そこで生まれた税収の一部が他地域へ移れば、行政サービスを提供する自治体と税収を受け取る自治体が一致しなくなります。
東京都が地方税制の根幹をゆがめると主張する背景には、この受益と負担の問題があります。
国は全国的な財政格差を問題視する
一方、国には別の視点があります。
企業活動は東京に集中しています。
その結果として法人関係税も東京に集中します。
東京都の2026年度の財政力を示す数値は1.525です。
これに対して、東京を除く46道府県全体では0.588、最も低い高知県は0.278です。
この差をそのままにしておけば、自治体によって行政サービスを提供できる力に大きな違いが生まれる可能性があります。
国から見れば、どこに住んでいても一定水準の行政サービスを受けられるようにすることも重要です。
そのため税源が偏っているのであれば、一定の再配分が必要だという考えになります。
企業の利益は東京だけで生まれているのか
さらに難しい問題があります。
東京に本社を置く企業の利益は、本当に東京だけで生み出されているのかという問題です。
本社が東京都内にあっても、工場は地方にあるかもしれません。
店舗や営業所は全国にあるかもしれません。
地方の従業員が商品を製造し、全国の消費者が商品やサービスを購入することで企業の利益が生まれています。
経営判断や財務などの本社機能が東京に集中しているからといって、企業価値のすべてが東京だけで生み出されているわけではありません。
企業活動が全国に広がる現在、税源をどの地域に帰属させるのが適切なのかという問題は簡単ではありません。
東京も地方によって支えられている
東京の経済活動は東京だけで完結しているわけでもありません。
食料やエネルギーなど、多くの資源が地方から供給されています。
さらに埼玉、千葉、神奈川などから東京都内へ大量の人が通勤しています。
その人たちの住宅、教育、福祉などの生活基盤は居住地の自治体が支えています。
東京に企業と雇用が集中していても、その経済活動を支えるコストの一部は周辺地域や地方が負担していると考えることもできます。
この視点に立てば、東京に集中する税収の一部を全国へ再配分することにも一定の合理性があります。
2008年度から再配分は拡大してきた
地方税収の偏在是正は新しい問題ではありません。
大きな転換点となったのが2008年度です。
法人事業税の一部を利用して、大都市に集中する税収を地方へ再配分する仕組みが導入されました。
2014年度からは法人住民税にも対象が広がりました。
さらに2019年度には法人事業税を利用した再配分が恒久的な制度となりました。
こうした措置によって一時は東京都と地方の財政力格差が縮小しました。
しかし2010年代半ば以降、再び格差が拡大しています。
既存の再配分だけでは、東京への税源集中を十分に抑えられなくなっているのです。
東京都はすでに十分負担していると考える
東京都側から見れば、すでに多額の財源を地方へ移しています。
足元では再配分による影響が年間約1.6兆円に及んでいます。
それでも東京都の税収は2026年度に7兆3,856億円が見込まれています。
国側から見れば、これだけ再配分しても東京都には大きな税収が残っているということになります。
しかし東京都側から見れば、すでに1.6兆円もの財源を失っているのに、さらに再配分を求められるという構図です。
同じ数字でも立場によって見え方が大きく異なります。
地方交付税との二重調整という論点
東京都が問題視するもう1つの点が地方交付税です。
日本にはすでに、財政力の弱い自治体に財源を配る地方交付税制度があります。
東京都は普通交付税の不交付団体です。
一方、多くの地方自治体は地方交付税を受け取っています。
東京都は、地方交付税を含めた一般財源を人口1人あたりで比較すれば東京は全国平均程度であり、是正すべき大きな偏在はないと主張しています。
地方交付税によってすでに財政調整しているのに、その前段階で地方税まで再配分する必要があるのかという疑問です。
これは今後の議論でも重要な論点になります。
再配分しすぎれば地方自治を弱める可能性もある
税収再配分を拡大すれば、自治体間の財政格差は縮小しやすくなります。
しかし、再配分には限界も必要です。
自治体が企業を誘致し、産業を育て、税収を増やしても、その税収の多くが他地域へ移されるのであれば、地域経済を成長させる動機が弱くなる可能性があります。
地方自治の重要な考え方の1つは、自ら財源を確保し、自ら政策を決めることです。
税収の均等化を重視しすぎれば、自治体の自主性を弱めることにもなりかねません。
公平性と地方自治をどう両立させるかが難しいところです。
2027年度税制改正で問われるもの
2027年度税制改正では、法人事業税の再配分をさらに拡大する案が検討されています。
現在対象となっている企業所得などへの課税部分について再配分割合を引き上げるほか、資本規模に応じて課税する部分を新たに対象とする案があります。
固定資産税の再配分まで議論に上っています。
対象が広がれば、単なる法人関係税の調整ではなく、地方税制度そのもののあり方を見直す議論になります。
どこまでを地域固有の税源として認め、どこからを全国で共有する財源と考えるのか。
その線引きが問われます。
結論
地方税の再配分をめぐる東京都と国の対立には、それぞれに理由があります。
東京都から見れば、東京で行政サービスを受ける企業や住民が納めた税金は、そのサービスを提供する東京都の財源とするのが地方税の原則です。
一方、国から見れば、企業や所得が東京に集中した結果として自治体間に大きな財政力格差が生まれ、住む地域によって行政サービスに大きな違いが生じることは望ましくありません。
しかも現在の企業活動や人の移動は自治体の境界を越えています。
東京で生まれたように見える税収も、地方の工場や従業員、消費者、周辺県からの通勤者などによって支えられています。
だからこそ、地方税は誰のものなのかという問いに単純な答えはありません。
2027年度税制改正で問われるのは、東京から地方へいくら移すかだけではありません。
地方税を地域の行政サービスの対価として考えるのか、それとも全国で一定程度共有する財源として考えるのか。
地方自治と全国的な公平性の境界線をどこに引くのかが、議論の本質になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 東京と地方の財政格差、08年度以来の大きさ 総務省が再配分拡大検討