2027年1月から、給与所得の源泉徴収票をめぐる実務が大きく変わります。
市区町村に給与支払報告書を提出すれば、税務署にも給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなす「みなし提出の特例」が始まります。
この改正で注目したいのは、税務署と市区町村への二重提出が解消されることだけではありません。
給与所得の源泉徴収票について、税務署への「提出範囲」そのものが大きく変わります。
これまでは受給者の区分や給与等の支払金額によって細かく提出基準が設定されていましたが、改正後は給与支払報告書の提出範囲とそろえられます。
年末調整担当者にとっては、提出方法だけでなく、誰が提出対象になるのかという基本的な考え方が変わる改正です。
これまでは受給者によって提出基準が違った
従来の給与所得の源泉徴収票は、すべての従業員について税務署へ提出する仕組みではありませんでした。
年末調整をした人についても、受給者の区分によって提出基準が異なります。
たとえば、法人の役員などについては給与等の支払金額が150万円を超える場合が提出対象です。
弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士など一定の人については250万円を超える場合、それ以外の人については500万円を超える場合が提出対象となっています。
さらに、年末調整をしなかった人についても別の基準があります。
給与所得者の扶養控除等申告書を提出した人や提出しなかった人、中途退職者など、それぞれについて提出基準を確認する必要がありました。
給与担当者にとっては、単純に給与を支払った人数だけで提出対象を判断できない仕組みだったのです。
2027年から提出範囲が大幅に整理される
2027年1月1日以後に提出すべき2026年分以後の給与所得の源泉徴収票については、この考え方が変わります。
新しい制度では、給与所得の源泉徴収票の提出範囲が給与支払報告書の提出範囲とそろえられます。
具体的には、その年の給与等の支払金額が30万円以下である中途退職者を除き、すべての給与等が提出範囲となります。
従来のように、
役員だから150万円
一定の専門家だから250万円
一般の従業員だから500万円
といった基準によって提出対象を振り分ける仕組みから大きく変わることになります。
なぜ提出範囲を広げられるのか
提出範囲だけを見ると、「税務署へ提出する源泉徴収票が増えて、企業の負担が重くなるのではないか」と感じるかもしれません。
ところが、今回の改正では同時に「みなし提出の特例」が導入されます。
企業が給与支払報告書を市区町村へ提出すれば、その給与情報が税務署に連携され、税務署へ給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなされます。
したがって、提出対象となる給与情報の範囲が広がっても、同じ情報を企業が税務署へもう1度送ることを原則として求める仕組みではありません。
提出範囲の拡大と二重提出の解消は、一体として考える必要があります。
給与支払報告書との違いが小さくなる
従来は、給与支払報告書と給与所得の源泉徴収票について、提出範囲の違いを意識する必要がありました。
市区町村には給与支払報告書を提出する一方、その中から税務署への源泉徴収票の提出対象者を判定するという実務が発生していたからです。
2027年からは、この提出範囲がそろえられます。
企業側から見ると、「市区町村用」と「税務署用」で別々に対象者を判定する必要性が小さくなります。
年末調整後の事務フローを簡素化するうえで、かなり重要な変更といえるでしょう。
30万円以下の中途退職者が例外になる
新しい提出範囲を理解するときに重要なのが、中途退職者です。
改正後の提出範囲は単純な「全員」ではありません。
その年の給与等の支払金額が30万円以下である中途退職者については、提出範囲から除かれます。
したがって実務では、
その年に退職したか
その年の給与等の支払金額はいくらか
という確認が引き続き必要になります。
「2027年から全員分を提出すればよい」と理解してしまうと、この例外を見落とす可能性があります。
制度を説明するときも、「原則としてすべて」と「30万円以下の中途退職者を除く」という2つをセットで押さえておくことが重要です。
提出範囲の拡大は電子提出義務にも影響する
さらに注意したいのが、法定調書の電子的提出義務との関係です。
2027年1月1日以後、法定調書の電子的提出義務の基準枚数は、従来の100枚以上から30枚以上へ引き下げられます。
ただし、電子提出義務を判定するときの枚数についても、今回の改正との関係を正しく理解する必要があります。
給与所得の源泉徴収票の提出範囲が広がったからといって、改正後の新しい提出範囲をそのまま過去の基準年に当てはめて判定するわけではありません。
基準年において、その当時の提出範囲によって税務署へ提出すべきであった源泉徴収票の枚数で判定します。
ここは2027年以降の年末調整実務で間違えやすいポイントになりそうです。
みなし提出でも提出枚数はゼロにならない
もう1つ重要な点があります。
みなし提出の特例が始まると、企業が税務署へ給与所得の源泉徴収票を実際に送信する枚数は0枚になるケースも出てきます。
しかし、それを理由に電子的提出義務の判定上も0枚になるわけではありません。
給与支払報告書を市区町村へ提出したことによって「税務署へ提出したものとみなされた源泉徴収票」も、電子的提出義務を判断するときの枚数には含まれます。
「実際に税務署へ送った枚数」と「電子提出義務を判定するための枚数」は別物だということです。
この点は、今後の実務で特に注意したいところです。
年末調整担当者は対象者判定の設定を確認する
給与計算や年末調整をシステムで処理している企業では、制度改正に対応したソフトウェアの更新が行われると考えられます。
ただし、システムが自動的に対応するから何もしなくてよいとは限りません。
これまでの提出基準を前提とした設定が残っていないか、新しい提出範囲に対応しているか、中途退職者の30万円基準が正しく判定されるかなどを確認する必要があります。
特に自社で給与データを加工して法定調書を作成している場合には、従来の抽出条件をそのまま使用しないよう注意が必要です。
制度が変われば、これまで正しかった処理条件が誤りになることがあります。
提出範囲の拡大だけを見ないことが重要
今回の改正を「源泉徴収票の提出対象者が増える改正」とだけ捉えると、制度全体を見誤ります。
提出範囲は広がります。
一方で、給与支払報告書を市区町村へ提出すれば、税務署への源泉徴収票の提出についてはみなし提出となります。
つまり、
提出する情報の範囲は広げる
税務署と市区町村への二重提出は減らす
という2つの変更が同時に進められるわけです。
制度全体としては、給与情報の提出ルートを整理しながら、行政機関の間でデータを連携する方向へ進んでいると考えると理解しやすいでしょう。
結論
2027年1月から始まる給与所得の源泉徴収票の改正では、「みなし提出の特例」とともに提出範囲そのものが大きく変わります。
改正後は、その年の給与等の支払金額が30万円以下である中途退職者を除き、原則としてすべての給与等が提出範囲となります。
これまでのように役員150万円、一定の専門家250万円、一般の従業員500万円といった複数の基準を使い分ける仕組みから大きく整理されます。
ただし、制度が単純になる一方で、中途退職者の30万円基準や電子的提出義務の枚数判定など、新たに注意すべきポイントもあります。
2027年の年末調整実務では、「誰の源泉徴収票を提出するのか」だけを見るのではなく、「どこへ、どの方法で提出するのか」「電子提出義務の枚数をどう判定するのか」まで一体として確認することが重要です。
次回は、今回の改正と密接に関係する「法定調書の電子提出義務が100枚から30枚へ 2027年から対象企業が一気に増える」について詳しく見ていきます。
参考
企業実務 2026年10月号 2027年1月施行 給与所得の源泉徴収票「みなし提出の特例」の実務対応