月末になると、経理部門と営業部門の間に緊張感が生まれる会社があります。
経理は、
「経費精算を早く提出してください」
「必要な書類がまだ届いていません」
と催促します。
一方、営業は月末の売上目標や顧客対応に追われています。
「今はそれどころではない」
と感じることもあるでしょう。
その結果、経理は「営業が協力してくれない」と考え、営業は「経理は現場を分かっていない」と感じる。
しかし、そもそも月次決算は経理だけの仕事なのでしょうか。
経理が最終的な処理を担当するとしても、その数字をつくっているのは会社全体です。
この視点を共有することが、経理と営業の対立を減らす出発点になります。
経理に集まる数字は現場から生まれている
経理が月次決算で扱う数字は、経理部門の中で生まれたものではありません。
売上はフロントの活動から生まれます。
出張すれば旅費交通費が発生します。
顧客との会食を行えば、その支出に関する書類が発生します。
つまり、経理が処理している数字や書類の前には、必ず現場の活動があります。
元資料でも、会社の給与は経営活動やフロントが獲得した売上から支払われているという原点を意識することの重要性が示されています。
経理は、現場の活動によって生まれた数字を集約している部門だと考えることができます。
月次決算を経理だけの仕事にすると催促が増える
月次決算を「経理部の仕事」と考えてしまうと、他部門にとって必要書類の提出は経理を手伝うための作業に見えやすくなります。
すると、
「経理から催促されたから提出する」
という関係になりがちです。
期限を過ぎれば経理が催促する。
それでも提出されなければ再び催促する。
経理担当者は締切に追われ、フロント側は催促されることにストレスを感じます。
元資料でも、書類の提出遅れやルールの不遵守が、バックオフィスとフロントの対立につながりやすいことが指摘されています。
問題を「提出する人の意識が低い」で終わらせてしまうと、この構図はなかなか変わりません。
営業にも月末特有の事情がある
一方で、月末は営業にとっても重要な時期です。
案件を進め、顧客と交渉し、さまざまな対応を行っています。
元資料では、外から見たフロントの仕事と、実際に現場へ同行して見えた仕事には違いがあったことが紹介されています。
営業の商談やマーケティングの地方イベントなどに同行すると、生活リズムが崩れ、食事を楽しむ余裕もない状態になることがありました。
経営会食でも、緊張感のある難しいやり取りが続き、精神を消耗することがあったとされています。
こうした事情を知らず、
「月末なのだから早く提出してください」
と繰り返すだけでは、営業から「現場を分かっていない」と思われても不思議ではありません。
現場を理解しても期限は必要
だからといって、
「営業は忙しいから、いつ提出してもよい」
という話ではありません。
元資料でも、フロントへの敬意を持つことは、バックオフィスが卑屈になることではないとされています。
会社の資産を守るためには、締めるべきところは締める必要があります。
月次決算を行うために必要な書類であれば、期限までに提出してもらわなければなりません。
重要なのは、現場への理解と厳格な運用を対立させないことです。
「忙しいのは理解しています。しかし、こちらの業務にも必要なので協力してください」
という関係をつくることです。
なぜ締切が必要なのかを共有する
フロント側から見ると、経理が設定した提出期限が単なる「経理の締切」に見えている可能性があります。
そこで重要になるのが、期限の意味を説明することです。
自分たちが提出した書類が、その後どのような仕事につながっているのか。
なぜその時期までに必要なのか。
元資料では、相手の苦労をねぎらったうえで、ルール上必要な書類への協力を求めるという考え方が示されています。
単に「提出してください」と伝えるのではなく、こちらの事情も伝える。
相手の仕事を理解すると同時に、自分たちの仕事も理解してもらうことが重要です。
月次決算は会社を見るための仕事
月次決算について考えるとき、書類を締めることだけが目的になってしまうことがあります。
しかし、本来その数字は会社の活動を表しています。
売上がどう動いたのか。
どのような費用が発生したのか。
会社の活動が数字としてどう表れているのか。
こうした情報をまとめるために、現場から必要な情報を集めます。
この意味では、月次決算は経理部門だけの内部作業として考えるより、現場の活動を数字として集約する仕事と考えた方が実態に近いでしょう。
経理も現場を知る必要がある
月次決算を会社全体の仕事にするためには、フロントに経理の事情を理解してもらうだけでは不十分です。
経理もフロントを理解する必要があります。
元資料では、そのための具体的な行動として、フロントのメンバーと会話することが挙げられています。
申請書だけで判断せず、稟議などを読んで状況を把握する。
可能であれば現場へ同行する。
機会があればイベントの手伝いを申し出る。
こうした経験によって、経理担当者は数字の背景にある現場の動きを理解できるようになります。
数字の異変にも気づきやすくなる
現場を知ることには、もう1つ意味があります。
月次決算の数字を理解しやすくなることです。
例えば旅費交通費が増えている場合でも、営業活動の状況を知っていれば、その背景を想像しやすくなります。
数字だけを見ているより、
「現場で何が起きているのか」
という視点を持って数字を見ることができます。
元資料は月次決算の分析手法そのものを扱ったものではありませんが、書類を単なる紙やデータとして扱うのではなく、背景にある現場の動きを理解するという考え方は、経理が数字を見る際にも重要です。
「経理対営業」という構図から離れる
経理と営業が対立すると、
「期限を守らない営業」
と、
「細かいことを要求する経理」
という構図になりがちです。
しかし、本来は双方とも会社のために仕事をしています。
フロントは事業を動かす。
バックオフィスはその活動を支え、会社の資産を守る。
元資料では、こちらが相手に敬意を示せば、相手もこちらの業務を尊重してくれるという考え方が示されています。
お互いの仕事を理解することができれば、月末の提出業務も「経理から要求された仕事」ではなく、会社の業務を完結させるために必要な仕事として捉えやすくなります。
結論
月次決算の実務を担うのは経理です。
しかし、そこで使われる数字や書類を生み出しているのは会社全体です。
だからこそ、月次決算を経理だけの仕事として考えてしまうと、経理と営業の間に対立が生まれやすくなります。
経理は営業の現場を理解する。
営業には、なぜ期限までに書類が必要なのかを理解してもらう。
そして、お互いの仕事に敬意を持つ。
必要な期限は守ってもらいながら、その理由も共有する。
「経理のために書類を出す」のではなく、「会社の仕事を完結させるために必要な情報をそろえる」。
月次決算をそのような共通の仕事として捉えられるようになれば、経理と営業の関係も少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
参考
企業実務 2026年10月号
松岡俊「フロントへの想像力と敬意が、バックオフィスの信頼をつくる」