経理の仕事では、毎日多くの数字を扱います。
売上高、旅費交通費、交際費、広告宣伝費など、会社の活動は最終的に会計数字として経理に集まってきます。
しかし、その数字がどのような現場から生まれているのかを、経理担当者が実際に見る機会は意外に少ないものです。
元資料では、バックオフィスから見えていたフロントの姿と、実際に営業の商談やイベント、経営会食などへ同行して見えた姿には大きな違いがあったことが紹介されています。
経理担当者が営業同行を経験する意味は、営業の苦労を知ることだけではありません。
数字の向こう側にある事業そのものを理解することにあります。
経理に届くのは営業活動が終わった後
経理が営業活動に触れるのは、多くの場合、その活動が終わった後です。
出張が終われば旅費精算書が届きます。
会食が終われば領収書が届きます。
商品やサービスが売れれば売上として計上されます。
経理から見えるのは、営業活動の結果です。
そのため、
「なぜこの出張が必要だったのか」
「なぜこの会食が行われたのか」
「どのような交渉を経て売上になったのか」
までは分からないことがあります。
数字は見えていても、数字が生まれる過程は見えていないのです。
外から見る営業と実際の営業は違う
元資料では、バックオフィスで働いていた当時、フロントに対してネガティブな感情を抱くことがあったと紹介されています。
自分は残業が続き、食事の時間も十分に取れない。
一方、フロントは高額な出張費や会食費を使い、領収書を遅れて提出してくる。
そのため、出張についても「おいしいものが食べられて気分転換もできてうらやましい」と感じることがあったとされています。
しかし、実際に経営陣の会食や営業の商談、マーケティングの地方イベントなどへ同行する機会が増えると、その認識が変わりました。
外から見て想像していた営業の仕事と、実際の仕事が違っていたからです。
出張費の見え方が変わる
例えば、経理担当者が旅費交通費を見るとします。
新幹線代。
航空券代。
ホテル代。
タクシー代。
数字だけを見れば、それぞれ会社の費用です。
しかし、実際に営業同行を経験すると、その費用の背景が具体的に見えてきます。
移動によって生活リズムが崩れる。
限られた時間の中で複数の予定をこなす。
商談やイベントが続く。
元資料では、実際の出張は快適とはいえず、食事を楽しむ余裕もない状態だったことが紹介されています。
旅費交通費という数字の向こう側に、こうした営業活動があることを実感できるわけです。
会食費の見え方も変わる
会食についても同じです。
経理から見れば、一定額以上の会食費は特に気になるでしょう。
参加者や目的を確認し、必要な処理を行います。
しかし、領収書だけでは会食の中身までは分かりません。
元資料では、緊張感のある経営会食では難しいやり取りが行われ、精神を消耗する時間の連続だったとされています。
食事をしていることは事実でも、それが単なる娯楽とは限りません。
実際の場を見ることで、経理担当者は会食という支出がどのような事業活動と結びついているのかを理解しやすくなります。
売上ができるまでの過程を知る
営業同行には、もう1つ大きな意味があります。
売上が生まれる過程を知ることです。
経理では、売上は会計システムに記録された数字として扱われます。
しかし、その数字が生まれるまでにはフロントの活動があります。
顧客と接点を持つ。
提案する。
交渉する。
さまざまなやり取りを重ねる。
そして最終的に取引につながります。
元資料では、会社の給与は経営活動やフロントが獲得した売上から支払われているという視点が示されています。
バックオフィスにとって、この原点を意識することが大切だとされています。
営業同行はフロントへの迎合ではない
営業の仕事を理解すると、
「それなら営業には厳しいことを言えない」
と考える必要はありません。
元資料では、その点も明確にされています。
フロントへの敬意を持つからといって、バックオフィスが卑屈になる必要はありません。
会社の資産を守るためには、締めるべきところは締める必要があります。
営業同行によって現場の大変さを理解しても、必要な領収書は提出してもらう。
期限も守ってもらう。
不適切な処理があれば修正を求める。
ここは変わりません。
現場を知るからこそ適切なチェックができる
むしろ、現場を知ることで経理のチェックの質が高まる可能性があります。
事業活動を知らなければ、形式だけで判断しやすくなります。
現場を知っていれば、
「この費用は、あの営業活動に関係しているのだろう」
と背景を想像できます。
疑問があれば、
「この部分はどのような事情だったのですか」
と具体的に確認できます。
現場を理解することは、チェックを甘くすることではありません。
数字や書類を、事業活動と結びつけて見ることにつながります。
営業との会話も変わる
営業同行を経験すれば、営業担当者との日常的なコミュニケーションも変わるでしょう。
営業から提出された書類に不備があった場合でも、背景をある程度想像できるようになります。
元資料では、大変な交渉を終えた相手に対して、その苦労をねぎらったうえで必要な書類への協力を求めるという考え方が示されています。
要求している内容は同じです。
それでも、
「経理も自分たちの仕事を分かってくれている」
という感覚があれば、営業側の受け止め方は変わります。
こちらが相手の仕事に敬意を示すことで、相手も経理の仕事を尊重する関係が生まれやすくなります。
全員が営業同行できなくてもよい
もちろん、すべての経理担当者が頻繁に営業へ同行できるわけではありません。
元資料でも、現場理解の方法は同行だけに限定されていません。
フロントのメンバーと会話する。
苦労話を直接聞く。
申請書だけで判断せず、稟議なども読んで状況を把握する。
機会があればイベントの手伝いを申し出る。
こうした方法でも、現場への理解を深めることができます。
重要なのは、経理部門の中だけで仕事を完結させず、数字の発生源に関心を持つことです。
数字を処理する経理から事業を見る経理へ
経理担当者が営業現場を知る最大の意味は、営業との人間関係を良くすることだけではありません。
数字を見る力を広げることにあります。
旅費交通費という数字を見る。
その背景に出張を見る。
交際費を見る。
その背景に顧客との関係を見る。
売上を見る。
その背景に営業活動を見る。
数字と現場が結びつけば、会計データは単なる処理対象ではなく、会社の事業活動を映す情報になります。
経理担当者にとって事業を理解することは、専門知識とは別のものではありません。
自分の扱っている数字を深く理解するためにも必要な視点なのです。
結論
経理担当者が営業同行を経験する価値は、営業が大変だと知ることだけではありません。
数字の向こう側にある会社の事業を知ることにあります。
出張費の向こうには移動や商談があります。
会食費の向こうには緊張感のある交渉があります。
そして売上の向こうには、フロントのさまざまな活動があります。
もちろん、現場を理解したからといってチェックを緩める必要はありません。
必要なルールは守ってもらい、締めるべきところは締める。
そのうえで、数字がどのような仕事から生まれているのかを理解する。
数字だけを見る経理から、数字を通じて事業を見る経理へ。
営業同行は、その視点を身につけるための貴重な機会になるのではないでしょうか。
参考
企業実務 2026年10月号
松岡俊「フロントへの想像力と敬意が、バックオフィスの信頼をつくる」