経理担当者にとって、領収書の提出遅れは悩ましい問題です。
何度お願いしても提出されない。締切直前になってまとめて出してくる。提出されたと思ったら、利用目的や参加者など必要な情報が不足している。
こうしたことが続けば、「どうして期限を守れないのだろう」「営業は経費精算を軽く考えているのではないか」と感じるのも無理はありません。
しかし、そこで相手を「ルーズな人」と決めつけてしまうと、本当の原因を見失うことがあります。
領収書の提出が遅れる背景には、経理からは見えにくい営業現場の事情があるかもしれないからです。
経理から見れば単純な提出業務に見える
領収書を提出すること自体は、それほど難しい仕事には見えません。
必要事項を入力し、領収書を添付して申請する。
経理担当者からすれば、期限までに処理してもらえば済む話です。
しかも、領収書が提出されなければ経理側の仕事が止まります。
内容を確認できません。
適切な会計処理もできません。
月次決算の締切が迫れば、未提出者への催促も必要になります。
そのため、提出しない営業担当者に不満を感じやすくなります。
しかし、ここで考えておきたいのは、経理が見ているのは営業活動が終わった後に残された書類だということです。
1枚の領収書の前には営業活動がある
営業担当者にとって、領収書は仕事そのものではありません。
商談や出張、会食などを行った結果として発生するものです。
例えば、地方へ出張した営業担当者がいたとします。
朝早く自宅を出る。
新幹線や飛行機で移動する。
顧客を訪問して商談する。
移動しながらメールや問い合わせに対応する。
別の顧客を訪問する。
夜には会食がある。
ホテルへ戻ってから翌日の資料を確認する。
このような状況であれば、領収書の整理は後回しになりやすいでしょう。
資料でも、外から見ると出張は「おいしいものが食べられて気分転換もできてうらやましい」と感じることがあったものの、実際の出張では生活リズムが崩れ、食事を楽しむ余裕もない状態だったという経験が紹介されています。
経理から見える1枚の領収書の前には、こうした現場の仕事が存在しています。
会食も単なる食事ではない
営業や経営陣の会食についても同じことがいえます。
経理では会食費の金額や参加者、目的などを確認します。
書類だけを見ていると、高額な飲食をしているように見えることもあります。
しかし、顧客との会食は単なる食事とは限りません。
重要な取引先との関係を維持するための場であったり、商談を前進させるための場であったりします。
資料では、実際に経営会食へ同行すると、難解なやり取りが行き交い、精神を消耗する時間の連続だったことが紹介されています。
バックオフィス側から見える姿と、現場で経験する実態には違いがあるわけです。
だから提出遅れを認めてよいわけではない
ここで誤解してはいけないことがあります。
営業が忙しいからといって、領収書を期限までに提出しなくてもよいということではありません。
経費精算には会社として必要なルールがあります。
バックオフィスには会社の資産を守る役割があり、必要な証憑を確認して適切に処理することが求められます。
提出期限についても同じです。
月次決算などの後工程がある以上、一定の期限を設けなければ会社全体の業務が滞ります。
営業現場への理解と、ルールを守ってもらうことは両立させる必要があります。
人ではなく原因を見る
重要なのは、提出が遅れたときに、
「この人はルーズだ」
で終わらせないことです。
なぜ遅れるのかを考えてみます。
出張が連続しているのかもしれません。
申請手続きが複雑なのかもしれません。
必要な入力項目が多すぎるのかもしれません。
営業担当者が経費精算の期限の意味を理解していない可能性もあります。
原因によって対策は変わります。
本人の意識だけの問題としてしまえば、「期限を守ってください」という注意を繰り返すだけになります。
しかし仕組みに問題があるのであれば、何度注意しても同じことが起こります。
経理側の仕組みも見直してみる
現場への想像力を持つということは、単に相手に優しくすることではありません。
自分たちの業務のあり方を見直すことにもつながります。
本当に必要な入力項目なのか。
同じ情報を何度も入力させていないか。
申請方法が分かりにくくないか。
締切を事前に分かりやすく伝えているか。
なぜその情報が必要なのか説明しているか。
こうした点を確認する余地があります。
営業にルールを守ってもらう一方で、経理も現場が守りやすい仕組みを考える。
双方が歩み寄ることで、経費精算をめぐる摩擦は減らせる可能性があります。
催促の言葉にも敬意を入れる
提出が遅れていれば、経理は催促しなければなりません。
その際にも伝え方は重要です。
単に、
「まだ提出されていません」
「至急提出してください」
と繰り返すだけでは、相手には経理の都合だけを押し付けられているように感じられることがあります。
資料では、相手の大変な交渉をねぎらったうえで、ルール上必要な書類への協力を求めるという考え方が示されています。
必要なことはきちんと要求する。
しかし、相手がどのような仕事をしてきたのかにも敬意を払う。
この2つは決して矛盾しません。
領収書は現場を知る入口にもなる
経理担当者にとって領収書は証憑ですが、見方を変えれば会社の活動を知る材料でもあります。
どこへ出張しているのか。
どのような顧客と商談しているのか。
どの地域で営業活動が増えているのか。
会社がどのような事業活動を行っているのか。
数字や書類の背景に興味を持つことで、経理担当者の事業理解は深まります。
資料でも、申請書だけで判断するのではなく、フロントのメンバーと会話したり、稟議を読んだり、可能であれば現場へ同行したりすることが提案されています。
処理するだけだった書類が、会社の事業を理解する入口になるわけです。
結論
領収書を期限までに提出しない営業担当者を見れば、経理として不満を感じるのは当然です。
しかし、提出遅れという結果だけを見て、「営業はルーズだ」と決めつけてしまうと、経理と営業の距離は広がってしまいます。
領収書の向こう側には、商談、出張、顧客対応、会食などの営業活動があります。
その現場を想像することが大切です。
もちろん、必要なルールまで緩める必要はありません。
営業は決められた手続きを守る。
経理はそのルールが守りやすい仕組みを考える。
そして、お互いが相手の仕事を理解する。
経費精算は、単なる領収書の処理ではありません。
1枚の領収書の向こう側を見ることが、経理と営業の関係を変える小さなきっかけになるのではないでしょうか。
参考
企業実務 2026年10月号
松岡俊「フロントへの想像力と敬意が、バックオフィスの信頼をつくる」